芹沢亀吉
2024-09-07 01:06:07
257331文字
Public キングギドラ
 

巨神聖戦記

2020年6月11日にTwitterに投稿した暴虐な軍国主義者、楠木武が恥をかく物語の通算11話目の加筆修正版をPrivatter+に投稿。キングギドラが主人公を担いゴジラ、モスラ、ラドンも大活躍。残忍描写濃い目なので閲覧注意。菊タブー?何それ?


第二章 炎の悪魔


 パウルの写真を眺めるマリアは悲しそうな目だ。彼女の中では愛する息子パウルはもう亡くなったから諦めようという思い、パウルはどこかで生きていていつか必ず会えるという思いが複雑に入り組み、心を解きほぐす方法が全く見つからない。

「あれからもう6年、あの頃に戻りたい、あの子の優しい笑顔が見たい。」

 するとテントの中にリン・チェンが駆け込んできた。リンは双子の姉アイリーン同様考古学者として巨神の謎を研究中の身。ちなみにアイリーンが短髪なのに対し、リンは長髪だ。遺跡の最深部にてモスラ誕生に立ち会った2人は他の調査隊員や警備兵達が逃げ帰った後も現場に残り、モスラ幼虫の成長を見守り続けてきた。

「マリア先生、そろそろ繭が羽化しそうですよ。」

「え?あ、わかりました、すぐに行きます。」

 写真を片付けテントから出てきたマリアの目の前で巨大な繭が大きく裂け鎌状の前脚が、続いて頭が出てきて触覚がゆっくり動く。モスラ成虫が羽化した瞬間だ。

「古文書によりますと、モスラの羽化に立ち会うと願いが一つ叶う伝承があるそうです。マリア先生は何か願いはありますか?」

 リンの問いかけに対しマリアは真剣な表情で即答した。

「勿論あります。パウルに、私の息子にもう一度会いたい、それが私のただ一つの願いです。」

 地元の人達と共にマリアとリンが見守る中、羽化したばかりのモスラが巨大な翅を開く。朱蛾、南海胡蝶といった巨大蛾や巨大蝶の伝説が1700年以上前から伝わるのも、太古の昔からモスラの誕生並びに羽化の地であった中国ならでは。

 ここ雲南省の密林地帯は雨量が多く丁度この時も大雨だったにも拘らず、モスラの翅が発光した途端に雨雲が散り始めた。雨が止んでも薄暗い密林がモスラの発光を一層際立てている。地元の人達もモスラの崇高さに感極まり言葉が出てこない。

「モスラは奇跡を起こすのですね。」

「はい、それが巨神女王モスラです。」

 マリアは一瞬だけ口を開くのを躊躇し、ひと呼吸おいて自分の思いを打ち明ける。

「実は最近息子はこの世界のどこかで生きているという予感のようなものを感じるようになったんです。勿論これには何の根拠もありません。息子がもうこの世にはいない現実を受け入れられなくて単に希望的観測にしがみついているだけかもしれません。でも、でも、やっぱり。」

 マリアは両目から溢れ出す涙が止まらない。心の奥底に秘めていた思いをさらけ出すのに気力を使い、涙を堪えきれなくなったのだろう。リンは優しく微笑み、左ポケットからハンカチ取り出してマリアの頬をつたう雫を軽く拭いた。姉のアイリーンが右利きなのに対し、リンは左利き。

「先生が仰った通り、モスラは奇跡を起こす存在です。そんなモスラなら息子さんを先生の元に導いてくれるかもしれません。モスラの存在は単なる伝説、虚構に過ぎないと長年言われてきました。ですが今私達の目の前にモスラがいます。伝説は真実だったんですよ。それならモスラの羽化に立ち会うと願いが一つ叶う伝承も昔から語り継がれてきた真実の可能性が十分あります。」

 リンに励まされ微笑むマリア、この微笑みは悲しみを押し殺した無理矢理な笑顔などではなく、かつての教え子の言葉により希望を取り戻した安堵の笑顔だ。