芹沢亀吉
2024-09-04 01:16:26
143708文字
Public 菊タブー
 

108と108

暴虐なナルシストかつ軍国主義者な楠木武が恥をかく物語の通算108話目。仏教において人間一人が持つ煩悩の数は108とされ今回はその108に焦点を当ててみた。いつも通り特盛の残忍描写に加え今回は性描写も色濃く、18歳未満の方が読むのはお勧め出来ない。


第五章 それぞれの覚醒


 2025年3月1日、冷たい雨が降る中霊柩車を中心とした全長約1.5kmの葬列が皇居正門を出て新宿御苑へと向かう。大喪の礼即ち先月横死した政仁の国葬だ。1989年の大喪の礼の時同様多数参列した諸外国及び国際機関の代表者にはローマ教皇グレゴリウス17世も含まれ、結局中止となった2025年度大阪万博に代わる国威発揚の場を欲する楠木の得意気な顔が目に浮かぶ。

 昨日楠木が法令も広池内閣も無視して地球防衛軍の各部隊を動かし大喪の礼の妨げになりかねない人達、具体的には先日大阪への核攻撃に抗議した野党議員や市民運動家達を全員首都圏から追放した。この楠木の暴挙も相まって、現在沿道を移動中の葬列に抗議する者は誰もいない。

 政教分離の原則を定める日本国憲法20条3項との兼ね合いから国の儀式として行われる大喪の礼は無宗教葬とされ、1989年に実施された際は葬場殿に当時即位したばかりの政仁ら皇族の拝礼時のみ鳥居を設置し、鳥居等を取り外した後内閣官房長官が開式を宣言したとのこと。皇室の私的な儀式である大喪儀は大喪の礼とは別だからその時だけ鳥居等を設置しても構わない、当時の日本政府のこの見解は屁理屈そのもの。

 では今回の大喪の礼はどうだろうか。前回同様新宿御苑内に建てられた白木造りの葬場殿には最初から鳥居が設置され皇族連中の拝礼が済んでもそのまんま、日本国憲法自体を強く敵視する楠木の意向に基づき最早無宗教葬の建前さえ捨て去ったのだ。

 各国の代表が次々拝礼する中グレゴリウス17世も鳥居が建つ葬場殿に黙礼、敬虔なクリスチャンの方がこのくだりを読まれたら背筋が凍るだろう。第二の獣が第一の獣即ち偽救世主への崇拝を強いる『ヨハネの黙示録』の一節宜しく勤皇家楠木は己と共に偽清仁を崇拝するよう宣伝し続け、今やキリスト教圏でも偽清仁並びに楠木を神聖視する風潮が幅を利かせている。

 実のところ今現在グレゴリウス17世が黙礼している葬場殿に収められた棺には何も入っていない、空っぽだ。巨大シン・金精神像倒壊に巻き込まれオスプレイの機体共々粉々になった政仁の遺体の回収など誰が出来ようか。喪主である清仁は偽者、大仰な葬列を組み葬場殿に収められた棺は中身が空、この空虚な茶番にどれだけの税金が費やされたのやら。

 突如として新宿御苑内に鳴り響く銃声、何者かが拝礼中のグレゴリウス17世を狙撃したのである。そして銃弾は見事命中した、グレゴリウス17世にではなく教皇を庇うかの如くいきなり飛び出した偽清仁の背中に。

「撃たれたぁ!陛下が撃たれたぁ!」

 誰かの叫びを端緒に新宿御苑内を悲鳴が覆う。グレゴリウス17世に覆い被さったままぐったりしている偽清仁の周囲の床は赤黒く染まり、会場内の誰もが今上天皇の突然過ぎる非業の死を想像し絶望した。ただしやっと目の上の瘤が消えてくれた、これで漸く即位出来る、などと内心浮かれている義仁を除く。

 突然新宿御苑内が歓声に包まれ、義仁は愕然とした。凶弾に倒れた筈の偽清仁が立ち上がり、微笑みながら観衆に向け右手を振り始めたからだ。その右手のひらにこびりつく赤黒い液体は「奇跡的に蘇った今上天皇」という雰囲気を醸し出す。会場内に設営された大画面はX星人の司令官並びに筆頭参謀の姿を映し、二人共会場内の人々同様微笑みながら偽清仁に万雷の拍手を送る。

「あ、貴方様こそ真の救世主!シン・キリスト!」

 グレゴリウス17世がそう叫びひれ伏す中観衆に向け右手を振る偽清仁、ローマ教皇が信徒達に授ける祝福を今上天皇が丸ごと簒奪したこの瞬間は音声付き映像として世界中を駆け巡り、TV画面の前では画面に映る偽清仁にひれ伏す者が後を絶たない。このまま偽清仁を神の如く崇める風潮が世界中を覆い、偽清仁を操るX星人の計画通り地球は征服されてしまうのだろうか。

「下らん。そろそろこの茶番劇に幕を引こう。」

 儀仗兵の一人がそう呟くと、その場にいた儀仗兵全員が弔銃の銃口を偽清仁そしてグレゴリウス17世に向け引き金を引いた。偽清仁もグレゴリウス17世も瞬く間に全身蜂の巣となり、またもや新宿御苑内を悲鳴が覆う。

「貴様ら!何てことをしてくれた!って、貴様はアラン・ジョナ!」

 変装を解いた儀仗兵の正体が国際手配中のジョナと知り、楠木は青ざめた。当然ながら他の儀仗兵達も全員藤崎をはじめジョナの部下達が入れ替わり済み。