芹沢亀吉
2024-09-04 01:16:26
143708文字
Public 菊タブー
 

108と108

暴虐なナルシストかつ軍国主義者な楠木武が恥をかく物語の通算108話目。仏教において人間一人が持つ煩悩の数は108とされ今回はその108に焦点を当ててみた。いつも通り特盛の残忍描写に加え今回は性描写も色濃く、18歳未満の方が読むのはお勧め出来ない。


 政仁は楠木と共に建設中の万博会場を眺め、見るからに虫の居所が悪そうな表情だ。マンデラの代わりとして楠木の付き人を担う湊川みながわまもる地海軍伍長は夢洲に到着して早々に楠木の機嫌を損ね顔面をぶん殴られ、現在二人の背後にて大の字になり失神中。

「楠木、余はそなたの威光を高く買っておったが、些か買い被り過ぎたかもしれぬな。」

「上皇陛下!この楠木が身命を賭しゴジラを退散させたからこそ今の人類の、そしてこの国の繁栄があるのをお忘れですか!?今や世界の多くの人々が尊敬、いえ崇拝するこの楠木がお支えするから皇室はより一層輝きを増すのです!」

 楠木が額に冷や汗を流しながら恩着せがましく自らの「功績」を喧伝すると、政仁はより一層険しい表情に。

「くどいぞ、楠木。光文こうぶんになってからもう7年も経つのに霊寿れいじゅの頃と同じことを何度も言うでない。」

 政仁が言及した「光文」は清仁即位時に定められた今現在の元号を、「霊寿」は政仁即位時に定められた一つ前の元号を指す。即位や退位などという天皇個人の都合により時代を区切る元号は「時間をも支配する天皇」なる虚構を日本国民に信じ込ませるための欺瞞に過ぎず、この物語の地の文では極力使わない。

 日本史に詳しい方なら南北朝時代に南朝と北朝がそれぞれ違う元号を用いていたのはご存知だろう。北朝に属する足利尊氏が弟直義との権力争いを制するため南朝に降った際北朝の天皇並びに皇太子が地位を奪われ、元号も南朝側のものに統一された。そして南朝との抗争を再開した尊氏は真っ先に北朝側の元号の復活を宣言と、天皇と元号の結びつきの強さが伺える。

 一方ヤマト皇国に鞍替えした清仁は新轟天号共々消し飛ぶ瞬間まで「光文」の元号に固執し続け、海江田らがヤマト皇国としての新たな元号を定めるよう進言しても取り合わなかった。清仁にしてみれば「光文」の元号は自分のものであり、三種の神器同様死ぬまで手放したくなかったのである。これを元号の私物化、時間の私物化と言わずして何と言おうか。

「そもそもそなたが世界の人々から崇拝されているなら、そなたを崇拝している筈の多くの日本国民があの馬鹿息子の戯言に惑わされヤマト皇国とやらに鞍替えしたのは一体どういうことだ?所詮そなたの人望などその程度。以前朕が言った通りあの馬鹿息子を新轟天号もろとも葬ってくれた巨神のお陰でヤマト皇国は消えてなくなり元の鞘に収まったから良かったが、もし新轟天号が巨神を討伐しあの馬鹿息子が世界の英雄扱いされたならいよいよそなたの立つ瀬が無いぞ。」

 政仁に痛いところを突かれ、楠木の額には脂汗が幾筋も伝う。

「どうした楠木?最早申し開きする気力も無いか。余はそろそろ帰る。あれが視界に入ってきて気分が悪くなったからな。」

 政仁が指差した万博会場に文字通りそそり立つ巨大モニュメントは楠木の股間のものを精巧に模して造られ、モニュメント全体を覆う金メッキが異様な輝きを放つ。無論この悪趣味どころではないモニュメントの建造は楠木の強い意向に基づき、1970年に開催された大阪万博の象徴、太陽の塔の向こうを張るのが楠木の目的だとか。

「なっ、何てことを仰せられます!?この楠木のイチモツには南極においてゴジラを退散させた確固たる実績があり、既に世界各地でシン・金精神として祀られ人々の崇敬を集めております!高さ120mとゴジラの身長108mをも凌駕する大きさのシン・金精神像、今度の大阪万博の象徴としてあれ程相応しいものが他にありましょうか!」

 陰茎に似た形状の自然石等を御神体とする金精神信仰は日本各地に点在し、己の股間のものがゴジラを退散させたと信じ込む楠木は2005年以来世界各地に黄金のシン・金精神像(※高さ:約2m)を建てさせた。太平洋戦争時に占領したシンガポールに昭南神社を建て地元の人達に参拝を強要した日本軍とやっていることは変わらない。日本軍の敗戦に伴い即取り壊された昭南神社とは異なり、未だに楠木がゴジラから世界を救ったと信じる人は多いため世界各地のシン・金精神像は健在だが。

「わかった、わかった、そんなに凄いならそなたはしばらくここに留まりあれを眺めておればよい。余は帰る、帰るぞ。」

 政仁が搭乗した途端にオスプレイは離陸し、再び発生した砂塵を纏う強烈な突風が現場作業員、楠木そして気絶中の湊川を襲う。

「おい馬田!今すぐオスプレイを手配しこの楠木を迎えに来い!ヘリでも構わん!今俺は夢洲にいるから早く来い!」

と怒鳴る楠木の右手からマンデラと通話中のスマートフォンが滑り落ちた。楠木の目の前で巨大シン・金精神像が倒壊し政仁が搭乗中のオスプレイを押し潰したからだ。高さ120mの像倒壊に伴い物凄い轟音が鳴り響き、濃い砂埃が夢洲を覆った。