暴虐なナルシストかつ軍国主義者な楠木武が恥をかく物語の通算108話目。仏教において人間一人が持つ煩悩の数は108とされ今回はその108に焦点を当ててみた。いつも通り特盛の残忍描写に加え今回は性描写も色濃く、18歳未満の方が読むのはお勧め出来ない。
浴室内の鏡に映る己の弛みきった裸体を眺めつつ下品な声を上げ大笑い、この勘違い野郎は何処まで思い上がれば気が済むのやら。不死身の身体並びに分不相応な社会的地位を得て以来怠惰な生活を続け、ブクブク太った己の身体の方がダビデ像より美しいと宣うなど恥知らずにも程がある。こんなのに己の自信作を見下され、草葉の陰のミケランジェロの悔し泣きする姿が目に浮かぶ。
「よし、あれをかけるか。」
そう言った楠木は一旦シャワー室を出て真っ黒なサングラスをかけ戻ってきた。このくだりを読まれた読者の皆様は全裸姿のままサングラスをかける楠木の美的感覚を理解出来ずとも恥じる必要など無い。このくだりを書いた私自身全く理解出来ないしそもそも理解するつもりも無いのだから。
再びシャワー室に足を踏み入れた楠木は足元の石鹸を誤って踏み足を滑らせ、目の前の鏡に頭から突っ込んだ。全裸かつサングラス姿の自分を鏡に映し格好つけようとしていたものの、ずっこけた際に鏡もサングラスも割れてしまった。並の人間なら鏡の破片により頸動脈をかき切られ失血死もあり得る事態とはいえ、今の楠木は超人故特に負傷はしていない。
「クソ!折角のサングラスと鏡が!畜生!畜生!畜生!畜生!此畜生ぉおおおおお!」
この楠木の怒鳴り声は屋敷中に響き、使用人達が思わず両耳を塞ぐ。間髪入れずに使用人数人がシャワー室に駆け付け床に散らばる破片を綺麗に片付けた。短気かつ粗暴な楠木の怒りを最小限にとどめるため何をするべきかを即理解し即実行、実に優秀な使用人と言えよう。先述の理髪師同様楠木の勘気を蒙り惨殺された使用人も相当な数なのはまず間違いないが。
現在楠木が暮らす屋敷は
ホテル椿山荘東京を丸ごと買い取ったもの。買い取ったといっても楠木自身は1銭たりとも出さず
富嶽重工が全額負担したが。この一件により富嶽重工は楠木の庇護を得、それまで防衛庁改め国防省に装備品を優先的に納入していた
三丸重工の地位を奪うことに成功した。楠木と富嶽重工、絵に描いたような官民癒着である。
「楠木閣下、お怪我はありませんか?」
「この楠木は不死身だ。心配無用。それにしても貴様仕事が早いな。気に入ったぞ。」
楠木にそう言われた使用人の一人、マルコム・マンデラはモザンビークにて生まれ育ち、日本に来てまだ日が浅いにも拘らず流暢な日本語を話す。日本が中心となり地球防衛軍が発足した後の世界は英語に代わり日本語が主流となり、日本に働き口を求め日本語を取得する外国人も少なくないが。
「マルゲリータ・マリオ、だったか、貴様はこの楠木の下で働くことが出来て運が良い。何しろこの楠木は楠木正成公の末裔でありダビデ王の生まれ変わり、更に皇国の守護者でありゴジラの魔の手から全人類を救った英雄と史上最高の偉人だからな。他のどの偉人もこの楠木に比べれば鼻糞同然。そうだ、折角だから帰化しないか?この楠木の口利きで面倒な手続きも全部パパっと終わる。」
一瞬眉をひそめたマンデラは思いっきり名前を間違えた楠木に対し「私はマルコム・マンデラだ!」と抗議したいのだろうか。
「勿体ないお言葉です。」
「ほぉ、黒人ながらに謙遜か、立派、立派、ますます気に入ったぞ。それはそうと帰化しこの国で暮らすなら日本人としての名前が必要になるな。よし、今日から貴様は
馬田鹿人だ!馬は古来より日本人の生活を支えた重要な生き物、鹿は
春日大社の神の使いとされる神聖な生き物、その二つを併せ持つ名を即思い付くこの俺様はやはり天才だな!グハハハハ!」
などと宣い全裸姿のままふんぞり返り大笑いする楠木は背中につっかえ棒が必要だろう。そもそも「黒人ながらに謙遜」なる物言い自体「黒人は傲慢」なる差別丸出しの偏見に起因する。文字通り相手を馬鹿にした命名も悪い意味で楠木らしい。
冥府では火車が楠木の醜態に呆れ果て、ため息をついた。
「あの楠木武は悪い意味で今までのとは格が違うとわかってはいたが最早突き抜けたものがあるな。人間あそこまでクズになれるなら表彰ものだぞ。ところで閻魔サンよ、あの楠木武のいる世界には日本生まれ日本育ちの馬田鹿人などいない。そして今まで吾輩が頂いてきた数多の楠木武の中には日本生まれ日本育ちの馬田鹿人に暴力を頻繁に振るう者も複数いた。まさかあの楠木武は別の世界線の楠木武の記憶まで備えているのか?」
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