芹沢亀吉
2024-09-04 01:16:26
143708文字
Public 菊タブー
 

108と108

暴虐なナルシストかつ軍国主義者な楠木武が恥をかく物語の通算108話目。仏教において人間一人が持つ煩悩の数は108とされ今回はその108に焦点を当ててみた。いつも通り特盛の残忍描写に加え今回は性描写も色濃く、18歳未満の方が読むのはお勧め出来ない。


 かくして楠木の干渉を排することに成功した矢口は暫定内閣の成立を急いだものの、自分と同じ保守第一党に属する議員の大半がヤマト皇国に鞍替えしたため閣僚選びは思うように進まない。保守第一党の衛星政党として名高い王政復古の会及び君民協同党に属する国会議員達に声をかけても、

「上皇陛下に元老の地位をおねだりし、今度は我が復古の会に閣僚をおねだりか。あっちに尻尾を振り、こっちに尻尾を振る、可愛いワンちゃんだねぇ、君は。ワンちゃんには官邸より犬小屋の方がお似合いだよ。」

「我々君民協同党は貴方が属する保守第一党とは是々非々の関係を保ってきました。ここで閣僚を出せばその関係が崩れてしまいます。他を当たって下さい。」

という有様。属する議員の大半がヤマト皇国に走り今や巨大与党では無くなった保守第一党に協力しても見返りは何も無い、王政復古の会も君民協同党もそういう認識なのだろう。

 組閣に苦慮する矢口に追い打ちをかけるかのように広池をはじめヤマト皇国に鞍替えした面々が全員戻ってきた。元首清仁が新轟天号共々消し飛びヤマト皇国そのものが立ち行かなくなったからだ。一旦はヤマト皇国への帰属を宣言した県も悉く日本国への帰順を表明し、結局ヤマト皇国は「建国」から1週間経たずして消滅した。

 日本国に戻ってきた面々には清仁と共にヤマト皇国に鞍替えした露子も含まれる。実のところ露子は清仁の生還が絶望視されたのを受け自らヤマト皇国の元首になると宣言したとはいえ、広池らの支持を得られず日本国への帰順を余儀なくされた。広池らが露子に求めるのは「内助の功」を発揮し元首清仁を支えるその一点に尽き、清仁に代わり元首になるのは望んでいなかったのである。

 広池が再び総理に返り咲くと聞き、矢口は仙洞御所に駆け込んだ。

「矢口よ、事前に用を伝えずいきなりここに土足で足を踏み入れるなど無礼ではないか。折角元老に任じてやったのに、そなたは余への感謝の思いが足らんようだ。」

「上皇陛下!私が今組閣の最中なのをお忘れですか!?」

 政仁はいきり立つ矢口を忌々しげに睨み、右手に持つリモコンを大画面に向けた。

「三種の神器をすり替えたなどと嘘をつき余を騙す、お主なかなか奸物よのぉ。この映像を観よ、そなたは三種の神器を持ち去るあの馬鹿息子に媚びへつらい箱を回収しただけではないか。三種の神器の件は公に出来ぬ故このことは伏せておくし、元老の地位も剝奪はせぬ。余の寛大さに心から感謝し今後は元老の先輩格である楠木の指示に従うように。」

 全身を震わせる矢口は言い逃れ出来ない決定的瞬間を隠し撮りし政仁に密告した者を激しく憎むも、政仁を騙した己の悪行に関しては全く後悔せずこれっぽっちも反省していない。もう顔も見たくないのが本音とはいえ、政仁は貸しを作りこれ以上勝手なことをするなと釘を刺すため矢口に元老のままでいてもらうことに。元老の地位を授けたばかりの矢口からその地位を剝奪すれば己の体面が傷付くと考えたのも大きい。

 屈辱感に打ちのめされた矢口は仙洞御所を飛び出しある場所へと向かう。

「無い!無い!何処にも無い!」

 厳重に保管してあった筈の人骨並びにボイスレコーダーがきれいさっぱり無くなっていたため、矢口の焦りそして苛立ちはとどまるところを知らない。周囲に散らばる破り捨てられた書類から不測の事態に陥るとすぐ周囲に当たり散らすこの世襲政治屋の性質が伺える。こういう時「まずは君が落ち着け」と矢口をたしなめるのがいずみ修一しゅういち保守第一党政調副会長だ。

 その泉が矢口の背後から話しかけた。

「どうした矢口?何か探し物か?」

 ヤマト皇国に鞍替えした広池らに靡かず当選同期の盟友矢口と行動を共にする泉ではあるものの、政仁に取り入り元老の地位を手にした彼のやり方を内心快く思っていない。そもそも「出世は男の本懐」と公言して憚らない泉にとって盟友矢口は己の出世の手段に過ぎないが。そして「男の本懐」なる物言いから根強い男尊女卑思考がダダ洩れな泉は「来る女性は拒まない」と嘯き、金にものを言わせ秘書をはじめ身近な女性のほぼ全てと性的関係を持ったとか。

「何でもない。ところで泉、君こそ何か用か?」