暴虐なナルシストかつ軍国主義者な楠木武が恥をかく物語の通算108話目。仏教において人間一人が持つ煩悩の数は108とされ今回はその108に焦点を当ててみた。いつも通り特盛の残忍描写に加え今回は性描写も色濃く、18歳未満の方が読むのはお勧め出来ない。
「私が今こうして貴方達とお話出来るのもそのティアマトという巨神のお陰なのですね。補陀洛山寺本堂に足を運び楠木武の核攻撃により命奪われた大勢の方々の冥福を心から祈る貴方達の真摯な思い、私にもしっかり届いています。そしてその祈りが補陀洛山寺と椿山荘という貴方達と私の間にある途方も無い隔たりを取り払ったのです。補陀洛山寺の御本尊が貴方達をここに導いたのかもしれません。」
補陀洛山寺の本尊は身命を賭して船旅に出た多くの人達を観音浄土へと導いた千手観音だけに、一ノ瀬並びに藤崎を椿山荘内の収蔵庫内に導き石香炉と邂逅させるぐらい朝飯前だろう。
この時収蔵庫内の防犯カメラを指差しながら自分達の侵入を楠木が知るのを懸念する一ノ瀬ではあるものの、今は霊力により収蔵庫内の防犯カメラを停止させているから大丈夫と石香炉に言われ安堵した。
「とはいえ私の霊力で防犯カメラを停止出来るのはあと10分ぐらいです。早くここから出ないと。」
どうやら石香炉は三種の神器の邪念に晒され続け、霊力が弱っている模様。
「この広い椿山荘内から10分以内に脱出、イーサン・ハントでもそれは無理そう。」
シグザウエルP226自動拳銃を握る藤崎は既に銃撃戦を覚悟している。
不意に収蔵庫の扉が開き、何者かが入ってきた。藤崎は一ノ瀬にここにいるよう言い、音を立てずにその何者かのところへと素早く向かう。
程なくして一ノ瀬のところに戻ってきた藤崎、右隣にいるのはマンデラだ。
「私は収蔵庫の中の物を掃除しに来ました。お二人のことは誰にも言いません。」
楠木が収集した旧日本軍の装備品の掃除もマンデラをはじめ使用人達の仕事。石香炉曰く沖縄の物など埃だらけでいいから旧日本軍の装備品だけ綺麗にしろと楠木が厳命する中、マンデラだけは毎回自分に付いた埃を綺麗に払うという。
突然一ノ瀬と藤崎が補陀洛山寺の本堂内に戻った。一ノ瀬は両脇をしっかり締め、彼女の両掌は石香炉を落とさないようしっかりと挟む。
「由衣、私達無事戻れたみたいだね。その香炉は私が持つよ。普段から重い武器とか持ってて慣れているし。」
「志保先輩、この香炉久高島に返しに行きたいけど、今は止めておいた方が良いよね。」
「うん、今は止めておこう。今久高島に返せばまた盗まれてあの収蔵庫に逆戻りなのは自明だし。」
アメリカ本国の没落に伴い在沖アメリカ軍基地は全て地球防衛軍の基地となり、沖縄の軍事主導権は事実上アメリカ政府から日本政府に移ったと言っていい。久高島から石香炉を盗んだだけあって、窃盗、轢き逃げ、性暴力等地球防衛軍兵士共はかつて在沖アメリカ軍兵士共が沖縄の民間人に対してやっていたのと全く同じことをやっている。沖縄のほぼ全域がこの状況では石香炉を久高島に返したくても返せない。
補陀洛山寺を後にした二人が那智の浜に並び立つ。
「あ、来た。」
そう言って藤崎が指差したのはかつて海自が救難用に導入し現在は地海軍所用の
US-2飛行艇である。
程なくしてUS-2は一ノ瀬らの目の前の海岸線に沿い着水し、中から西欧系の初老の男が降りてきた。
「一ノ瀬由衣さんだね。同志の藤崎から話は聞いているよ。私はアラン・ジョナ、反政府活動家として国際手配されている身だ。おっとこの飛行艇は地海軍から頂いたものだよ。」
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