芹沢亀吉
2024-09-04 01:16:26
143708文字
Public 菊タブー
 

108と108

暴虐なナルシストかつ軍国主義者な楠木武が恥をかく物語の通算108話目。仏教において人間一人が持つ煩悩の数は108とされ今回はその108に焦点を当ててみた。いつも通り特盛の残忍描写に加え今回は性描写も色濃く、18歳未満の方が読むのはお勧め出来ない。


 ジョナは汚職、暗殺、人体実験、大量兵器開発等政治そして軍事の裏側を長年見続けた末イギリス陸軍大佐の肩書もMI6エージェントの職も捨て、現在は世界各地に赴き反政府活動を行う。藤崎が武力行使による巨神殲滅への拘りを捨てたのも地陸軍から脱走した自分を保護してくれたジョナの影響に依るところが大きい。

「お名前は存じております。ナイジェリアの兵器工場の人達に反乱を促したんですよね。世間ではあの暴動等により貴方を悪く言う人が多いですけど、私はあの兵器工場で虐げられていた人達が反乱起こして自由を手にしたのはとても良いことだと前々から思っていました。ひょっとして、Mr. Aの名で私が書いた論文を褒めるメールをくれたのも貴方ですか?」

 己の目を真っ直ぐ見て話す一ノ瀬の真摯さを目の当たりにして、ジョナは思わず微笑んだ。

「ご名答。ゴジラ細胞の形成体をつぶさに観察し、並外れた自己再生能力を持つばかりか細胞自体の培養も不可能であることまで導き出した貴方の探求心に心打たれてね。その若さで巨神打倒という世論に惑わされず巨神こそ地球の生態系を守っている真理にたどり着いた貴方を見ていると、50過ぎるまで為政者の手足となり暗殺等の悪事に手を染め続けてきた自分が如何に愚かだったかを痛感せずにはいられない。」

 自分は間違ったことが出来ないなどと抜かす何処ぞの楠木は一度ジョナの爪の垢を煎じて飲んでは如何だろうか。

「さて、立ち話はこの辺にしてそろそろ出発しよう。楠木武が大阪に核を撃ち込み今現在近畿圏が大混乱の坩堝とはいえ、いつまでもその混乱を隠れ蓑には出来んからな。」

「志保先輩が今朝出る時もうここには帰らないからと言ったのは、この飛行艇に乗って何処かに行くからだったんだね。」

「そういうこと。あの高機動車はもう乗り捨てるよ。」

 一ノ瀬達が搭乗するや否やUS-2は水飛沫を上げ飛び立つ。

「なるほど、その石香炉にそんな力があったのか。」

「他の人に話せば非科学的だ、夢にも見ていたのとか言われそうですけど、隊長は信じてくれるんですね。」

「藤崎さんが生まれる前あれだけいないと言われていたゴジラも結局いたし、X星人と名乗る胡散臭い異星人も現れた。今更超常現象を非科学的だと退ける方が間違っている。そもそも何もかも科学で解明出来るほど世の中単純では無い。全てを科学で解明など結局科学の力で万物を支配したいという文明人の傲慢さに過ぎんのだよ。」

「ジョナさんの仰る通りです。生物学を学ぶと雑魚、虫けらなどと呼ばれ文明人から軽視されがちな生物が環境に応じて性を変更したり、紫外線が見えたりと文明人が逆立ちしても真似出来ないことを日常的にやっていることがわかります。そしてそんな生物学でも巨神がどのような存在かを定義付けたりは出来ないことも。」

「不思議だ、貴方とは今日初めて顔を合わせた筈なのに、まるで以前からの知り合いのように話が合う。一ノ瀬さん、あの石香炉はいつか必ず久高島に返そう。それまで大切に我々が保管する。実を言うと我々は日本政府が過去の侵略を隠蔽するため撤去に躍起になっている碑等も事前に回収し秘密裏に保管しているんだ。楠木武が牛耳るようになってから日本政府は以前にも増して歴史改ざんに力を入れるようになったからな。群馬の森朝鮮人追悼碑だったか、日本軍による強制連行を記した銅板も回収済みだ。」

「それは心強いです。私自身群馬の森に行って追悼碑撤去反対集会に参加しました。結局追悼碑が無理矢理取り壊され悔し涙を流したものですが、あの時現場に来た作業員の中に貴方の協力者がいて銅板を回収したんですね。」

 ジョナ達は機内中央部に置かれた石香炉を囲み、超常現象談義、そして反政府談義に花が咲く。

 大阪に核攻撃という暴挙に出た楠木に対する非難の声は驚くほど少なく、「核攻撃を敢行しゴジラを仕留めた英雄」などと楠木を讃える声が日本列島を、そして世界各国を覆う。アメリカが広島長崎への原爆投下を「戦争を早期終結させるため必要だった」と正当化したように、楠木は大阪への核攻撃を「ゴジラ殲滅のため必要だった」と言い張り、楠木を讃える連中は皆その暴論を全面的に支持したのだから始末に負えない。