芹沢亀吉
2024-09-04 01:16:26
143708文字
Public 菊タブー
 

108と108

暴虐なナルシストかつ軍国主義者な楠木武が恥をかく物語の通算108話目。仏教において人間一人が持つ煩悩の数は108とされ今回はその108に焦点を当ててみた。いつも通り特盛の残忍描写に加え今回は性描写も色濃く、18歳未満の方が読むのはお勧め出来ない。


「楠木閣下、大変です。早く目を覚まして下さい。」

「んぁ?何だ、馬田か。もう羽田に着いたのか?」

「羽田には間もなく到着します。それよりも閣下、あちらを。」

 表面全体に幾何学模様が刻まれた直径約2kmの銀色の金属球が皇居上空に浮かび、先程ラドンやムートーを退散させた大爪形態UFOが合計6機その金属球を取り囲んだと思いきや、次々と金属球の下部に接続されていく、マンデラが指し示した窓の外の光景はまだ寝起き顔の楠木の眠気を全て吹き飛ばす程衝撃的である。

「何だあれはぁああああっ!」

 先程のいびきどころではない楠木の絶叫が機内全域に響き渡り、あろうことか特別機は自動操縦が故障し瞬く間に失速した。パイロットの巧みな操縦により大事には至らなかったとはいえ、一歩間違えればそのまま墜落したのは間違いない。

「危ないところでした。」

「この機のオートパイロットはポンコツ過ぎる。もっと軍人精神を注入してやらんと。」

 自動操縦の故障は自分の騒音公害級の絶叫が原因なのにこの言い草、日頃から身の回りの機器が不調になる度憤激しその機器を文字通り叩き壊してきた楠木らしい身勝手さが見て取れる。旧日本軍が使用する兵器の設計には「武人の蛮用に耐えうること」という条件が課され、当然ながら短気かつ粗暴な楠木の行動には常に「武人の蛮用」がつきまとう。

 特別機は何とか羽田空港に着陸し、機外に出た楠木を義仁自ら出迎えた。

「殿下、ご尊顔を拝し恐悦至極に存じます。」

「楠木、挨拶はいい。早くこっちに乗れ。」

「ぎょ、御意!」

 義仁に先導され楠木は御料車仕様のトヨタ・センチュリーロイヤルに乗り込んだ。マンデラは政仁の時と全く同じ理由により義仁に同乗を拒まれ、一人羽田に残る。

 楠木らを乗せ走行する御料車が皇居に近づくのに伴い、窓から見える金属球がどんどん大きくなっていく。大爪形態UFO6機全てを下部に接続し終えた金属球は皇居上空に咲く巨大な銀色の花に見え、球体全体が無機質な不気味さを醸し出す。

「殿下、あと少しで皇居正門に着きます。羽田に行った時と同じ道順で南車寄に向かえばよろしいでしょうか?」

「貴様何年運転手をやっている!?そんなこといちいち俺に確認するまでも無いだろうが!先に来ている広池らをこれ以上待たせるわけにはいかん!俺に無駄な質問する暇があるなら運転に集中しろ!」

 皇居上空に浮かぶ金属球が自分の即位を脅かすという不安に駆られ運転手に怒鳴り散らして八つ当たり、この小心者かつ横暴な義仁が即位すれば今以上に周囲を振り回すことだろう。

 義仁が怒鳴った後車内がすっかり静まり返った御料車は二重橋を渡って皇居正門をくぐり、皇居宮殿の玄関に相当する南車寄に到着した。

「楠木、降りるぞ。ここからは徒歩だ。」

 楠木と義仁が辿り着いた宮殿東庭には既に広池ら政府与党の面々が集い、皆上空の金属球を眺め不安の色を隠せない。少し前に楠木と入れ違いで大阪へと向かったため現在この場にいない矢口を除いて。今現在矢口の番号にかければ「おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためかかりません」とアナウンスが流れ、誰も矢口を呼び戻せない。