芹沢亀吉
2024-09-04 01:16:26
143708文字
Public 菊タブー
 

108と108

暴虐なナルシストかつ軍国主義者な楠木武が恥をかく物語の通算108話目。仏教において人間一人が持つ煩悩の数は108とされ今回はその108に焦点を当ててみた。いつも通り特盛の残忍描写に加え今回は性描写も色濃く、18歳未満の方が読むのはお勧め出来ない。


「しょ、承知致しました!」

 再び新轟天号が艦首のドリルから主砲を撃つのを見計らい紅梅色に輝く稲妻状の光線を吐くティアマト、どうやらこの巨神は強い毒を吐く能力を大幅に強大化させ体内の毒素を猛毒光線化し口から吐けるようになった模様。

 ティアマトが吐いた猛毒光線は新絶対零度砲を容易く四散させ、新轟天号の艦体をみるみるうちに蝕む。この猛毒はティアマトの体外に出てから1分後には無毒化するため有機水銀、カドミウム等とは異なり自然界に残留などしない。

「朕は現人神ぞ!小娘も大海蛇も朕の菊門を伏して拝グワーッ!」

などと喚き散らす全裸姿の清仁をはじめ海江田ら新轟天号の搭乗者全員が猛毒光線に飲み込まれた。新轟天号に命中した猛毒光線がその艦体全体を消滅させるのに費やした時間は約20秒。海江田の意に反し『レクイエム ニ短調』は新轟天号に、そして自分達に捧げる葬送曲になってしまった。この時清仁は猛毒光線が迫る中またもや一ノ瀬の幻影を見たとか見なかったとか。

 先日海江田が楠木らに告げた通り新轟天号が巨神討伐のため戦う様子が生配信され、JR鶴橋駅に程近い珈琲館ロックヴィラの店内では一ノ瀬、藤崎をはじめ客達が店の名物キムチサンドを味わいながらスマートフォン、タブレット端末の画面を観ると、丁度ティアマトが新轟天号を殲滅した瞬間が映っている。この生配信により世界に向けヤマト皇国の力を喧伝する筈がティアマトに挑み返り討ちに遭う新轟天号の醜態を世界に晒す格好となり、ヤマト皇国の威信とやらが巨神ティアマトに打ち砕かれたのは最早自明。

 新轟天号を殲滅したティアマトが間髪入れずに深海ドローンも破壊したため、この生配信は強制終了と相成った。

「由衣の言った通り結局討伐されたのは巨神じゃなくて新轟天号だったね。地球防衛軍にいた頃の私ならあり得ない、新轟天号の圧勝の筈だと絶叫してただろうけど。」

 そう言った藤崎はコーヒーを飲み、一ノ瀬は紅茶を口にする。ちなみに二人とも砂糖もミルクも入れない主義だ。

「志保先輩と喧嘩別れした後たまたま鶴橋に来てこの喫茶店見つけてキムチサンドが余りにも美味しかったから、いつか先輩と仲直りしてこの店一緒に行きたいとずっと思ってた。やっと先輩と一緒に来れて今凄く嬉しい。」

と言った一ノ瀬ではあるものの、直後に深いため息をつく。

「巨神ティアマトに挑んだ新轟天号が返り討ちに遭ったけど、海江田ざまぁみろ、清仁ざまぁみろと喜ぶ気にはなれないよ。この4日間で命落とした人達のことを思うとね。」

「確かに。直接手にかけたヤマト皇国の連中が最低なのは勿論だけど、ヤマト皇国の連中を野放しにした日本の警察も本当に最低。」

 4日前のヤマト皇国の「建国」宣言を皮切りに、ヤマト皇国に鞍替えした地球防衛軍人共が各地で乱暴狼藉を繰り広げた。一ノ瀬を拉致しようとして藤崎に射殺された荒川らがその典型。おまけに楠木そして政仁の意向を忖度し警察も在日外国人を狙う分は黙認したため大勢の在日外国人がヤマト皇国のならず者共に虐殺された。在日外国人を同じ人間と見做さない楠木そして政仁の最低過ぎる認識がこの虐殺を助長したと言っていい。

 父政仁を憎悪する清仁もその父同様在日外国人を同じ人間と見做しておらず、式典の度に発する「おことば」に多用される「国民の皆さん」なる物言いからも在日外国人など眼中にない冷淡さが見て取れる。

 現在一ノ瀬らがいる鶴橋は在日コリアンが多数在住し、昨日はヤマト皇国のならず者共に襲撃されそうになった。そのならず者共が鶴橋襲撃を取り止め一斉に逃走したのは親玉を仕留めた藤崎の狙撃に依るところが大きく、巨神との戦闘を想定し常日頃から特殊訓練を重ねた筈なのに人間一人の狙撃に怯え逃げ出すようではその訓練は全部無駄だったと言わざるを得ない。

 以前実施された大阪市解体の是非を問う住民投票では在日コリアンは勿論大阪市在住の在日外国人全員が除け者にされ、当時大学生だった一ノ瀬は鶴橋に赴き在日コリアン達と共に大阪市解体を訴えるビラ配りに勤しんだ。このビラ配りをはじめ反対派の地道な運動が功を奏し大阪市解体は否決、一ノ瀬はその後も自発的にデモ等に参加するようになり現在に至る。

 皇族といい、住民投票といい、在日外国人を蔑ろにするのが公然と罷り通る日本ではTVドラマやアニメ、特撮といった創作も在日外国人の存在自体を無視した内容のものが目立つ。また巨神討伐を渇望する世論への迎合なのか架空戦記めいた内容の映像作品が増え、ヤマト皇国のならず者共も架空戦記の設定に準え在日外国人襲撃を正当化するのだから始末に負えない。