芹沢亀吉
2024-09-04 01:16:26
143708文字
Public 菊タブー
 

108と108

暴虐なナルシストかつ軍国主義者な楠木武が恥をかく物語の通算108話目。仏教において人間一人が持つ煩悩の数は108とされ今回はその108に焦点を当ててみた。いつも通り特盛の残忍描写に加え今回は性描写も色濃く、18歳未満の方が読むのはお勧め出来ない。


「グワーッ!」

 ムートーは「もう十分撃っただろ、気が済んだか?」と言わんばかりに橙色に発光させた前肢を地面に叩き付け、電磁パルスに加え強烈な衝撃波を拡散し自分に略奪の罪を擦り付ける気満々なミュータント兵士共を吹き飛ばす。身長90m近い巨体にも拘らずムートーの瞬発力はミュータント兵士共を凌ぎ、尾崎以外全員叩き潰された。唯一人生き残った尾崎を睨みつけ、ムートーが前肢を振り上げる。



 突如飛来した全長約700mの細長い銀色の機体が謎の光線を照射するや否や、ムートーは前肢を尾崎へと振り下ろすのを止めその場を去っていった。ムートーがいなくなると大爪形態UFOはそのムートーが去っていったのとは逆方向に飛び去り、たった今目の前で何が起きたのかを全く理解出来ずにいる尾崎の左頬を冷や汗が伝う。

「一体何が起こったんだ?」

 スキュラが大暴れするアメリカにラドンが飛来し、メキシコにいた頃同様飛翔時に衝撃波を発生させ都市部に甚大な被害を与えている。1990年代末に巨神に破壊された都市部を八割方復興したばかりだけに、アメリカにとってかなり辛い。かつてのアメリカは広島長崎への原爆投下に飽き足らず平壌、ハノイ、セント・ジョーンズ等他国の都市をバンバン破壊していたような気がするが。



 ニューヨーク上空にてアメリカに配備された地空軍の空中戦艦ランブリングがラドンに挑む。地球防衛軍発足以来日本に超大国の地位を奪われ凋落した現在のアメリカに巨神二体を同時に叩く軍事力は無く、より広い地域に被害を及ぼすラドンの撃滅を優先した格好である。なお現在スキュラはアリゾナ州のフェニックスにいてラドンとの遭遇はまず無い。

「撃ち落とせ!あのデカい鳥を撃ち落とせ!」

 艦長のハイランド・ホイットモア地空軍大佐が檄を飛ばすと、ランブリングの艦体各部から20式プロトンミサイル数発が乱れ飛ぶ。

 ホイットモアには26年前B-2爆撃機を操縦しNATO主導のコソボ空爆に参加した際、こともあろうにベオグラード市内の中国大使館にJDAM爆弾を投下し死傷者を多数出した過去がある。当時NATOの空爆に批判的だった中国への逆恨みに基づく意図的な爆撃だ。この件を「誤爆」ということにしたい合衆国連邦政府は中国大使館を爆撃目標に設定したCIA中佐を解雇した上、口封じのため諜報員を動かし散歩中を狙い暗殺した。

 全身にプロトンミサイルを浴びたラドンが無傷なのはホイットモアにとって想定内。ミサイル攻撃により動きの速いラドンを牽制しランブリングの主砲、マグナムメーサーキャノンにより仕留めるのがホイットモアの思い描くラドン討伐の筋書である。コソボ空爆の直後に本土の軍事基地の大部分を巨神に破壊されて以来アメリカは他国への大規模な武力行使が出来なくなり、地球防衛軍発足後も現在に至るまで巨神を一体も仕留められなかっただけに、今回何としてでも巨神ラドンを仕留めるという意気込みがホイットモアを突き動かす。

「今だ!主砲を撃て!」

 ホイットモアの指令通りランブリングの艦首から放たれたマグナムメーサーキャノン、その出力は700万ボルトと22式メーサー戦車を凌ぐ。ところがその主砲が顔面に直撃したラドンは無傷かつ速度も落とすことなくランブリングへと迫る。メキシコのイスラ・デ・マーラ島火山の火口に潜み火山内の高温高圧により長年鍛え抜かれただけあって、ラドンの身体は出力700万ボルトのメーサー砲を全く受け付けない。

「ホイットモア大佐、避け切れません!」

 ランブリングが撃墜されそうになったまさにその時、足利市上空に出現したのと同型の大爪形態UFOが出現し、ラドンに謎の光線を浴びせて退散させた。自分が命拾いしたことに全く気付いていないホイットモアは舌打ちし不機嫌そうな表情だ。この男は日本から地球防衛軍の主導権を奪いコソボ空爆以前のアメリカを取り戻すのを己の人生目標に定め、中国大使館に爆撃し大勢死傷者を出した件を未だに反省していない。そして地球人の軍事力なら必ず巨神を倒せると信じ込んでいる。

 上海市の繁栄は香港そして北京を凌ぎ、中国最大の世界都市としてその名は世界に響く。その上海市もムートーが通った際甚大な被害を蒙り、市内の浦東新区に建つ東方明珠電視塔(※上海テレビ塔)は空中戦艦火龍が激突しほぼ全壊した。火龍の剣状の艦首から放たれる龍剣高電子砲ブレードメーサーはランブリングの主砲に匹敵する威力とはいえ、ラドンと同等以上に頑丈な上広範囲に電磁パルスを拡散するムートーが相手では見せ場の無いまま墜落もやむなしか。

 東京に向かう特別機の機内にて涎を垂らし熟睡中の楠木はいびきが実にやかましい。いびきが止んだと思ったら今度は耳障りな歯軋り、この口髭男は寝ても覚めても周囲に迷惑な存在と言えよう。