芹沢亀吉
2024-09-04 01:16:26
143708文字
Public 菊タブー
 

108と108

暴虐なナルシストかつ軍国主義者な楠木武が恥をかく物語の通算108話目。仏教において人間一人が持つ煩悩の数は108とされ今回はその108に焦点を当ててみた。いつも通り特盛の残忍描写に加え今回は性描写も色濃く、18歳未満の方が読むのはお勧め出来ない。


「実を言うと朕がまだ即位する前侍従の一ノ瀬桐子とうこと親密な関係になり、彼女は朕の子を身ごもった。当時懐妊中の露子つゆこの怒りを鎮めるので手一杯故桐子を守ってやることが出来ず、本当に彼女にはすまぬと思っておる。以前官邸前抗議デモに参加しているそなたを映像で観た時顔が余りにも桐子に似ていたため驚き、密かに調べさせたのだ。」

 ここで清仁が言う露子は皇太子時代の清仁と結婚し皇太子妃となった米岡よねおか露子、即ち現在の皇后露子を指す。何のことはない、清仁は皇太子妃の機嫌取りを優先し自分が妊娠させた侍従を見捨てたのだ。そして宮内庁を追われた桐子は独りで由衣を出産し女手一つで育て上げた。

「娘よ、露子の手前そなたを皇族扱いすることは出来ぬが我が皇国に来るならそれなりの地位を約束しよう。そなたが研究により会得した巨神に関する知識もこれから巨神討伐に本腰を入れる我が皇国には至って有益なもの。今の日本国にはそなたの研究を正当に評価する者など誰もおらぬだろう。さぁそこにいる広池と共に橿原の地に向かうがよい。朕が戻るまで広池が責任を持ってそなたの面倒を見てくれる。」

 一方的に話を続けるこの今上天皇は今の発言が一ノ瀬の心を深く傷つけたとは夢にも思っていない。

「私を妊娠した母さんが宮内庁を追われるのを止めもしなかった癖に今更父親ぶるな!女手一つで私を育ててくれた母さんは亡くなるまで父のことは話さなかった!だから私に父親なんか、父親なんかいない!庶民から巻き上げた税金で贅沢に暮らす皇族になんかなりたいとも思わない!巨神を討伐するのに私の知識が役に立つ?目の上のたん瘤な巨神達を排除し自分が現人神ぶりたいだけじゃないか。そんな私利私欲のために私の知識を利用するな!大体この20年間地球防衛軍が一体も討伐出来なかった巨神を建国ごっこにのぼせ上がるお前達がどうやって討伐する?」

 約40歳年下の一ノ瀬の剣幕に圧倒され、温室育ちの清仁の全身が小刻みに震えている。広池に至っては画面越しとはいえ今上天皇を怒鳴りつける若き生物学者の姿を目の当たりにして震え上がり、秘書共々這うように退散する体たらく。

 一ノ瀬の剣幕に怯え彼女と話す気力を失った清仁に代わってヤマト皇国陸海空軍元帥の肩書を得たばかりの海江田が話す。一ノ瀬は広池らが放置したタブレット端末を手に取りヤマト皇国陸海空軍元帥との対話に臨む。

「ここからは陛下に代わり私、海江田がお話しします。一ノ瀬由衣さん、貴女はこのヤマト皇国が保有する新轟天号の力をご存知無いようだ。そしていきなり陛下の実子と知らされ気が動転しているのも無理からぬことです。これからこの新轟天号が巨神を討ち果たすのをご覧になればお考えも変わるでしょう。」

 突然一ノ瀬が笑い出した。

「ごめんね、海江田サン、お前のその突き抜けた自惚れ度合いが余りにも可笑しくて笑っちゃった。お前こそ巨神の力を、いやヒト以外の生物が持つ力を甘く見過ぎ。そこまで言うならさっさと巨神討伐に出向いたら?結局討伐されたのは巨神じゃなくて新轟天号でしたというオチを期待しているから。そうそう、今あんたが立っているその場所でついさっき偉そうに喋っていた清仁とかいう胡散臭いオッサンに言っておいて、私に怯えて言葉が出なくなるようじゃ巨神には永遠に勝てないってね。」

 途端に不機嫌な表情になった海江田は一方的に通話を打ち切り、一ノ瀬はトイレに行き一人すすり泣く。予てより庶民から巻き上げた税金により贅沢に暮らす皇室に強い嫌悪感を持つ一ノ瀬だけに、その皇室の現代表清仁が自分の父親である上母を捨てたと知り身体を引き裂かれるような思いであろう。

 トイレに籠りすすり泣く程深く傷ついたにも拘らず、広池らが退散する際放置したタブレット端末をトイレに駆け込む前にきちんと電源を切り引き出しの中にしまうあたり、一ノ瀬の律義さ、生真面目さが見て取れる。もしこれが新品スーツの破損に激怒しドアノブをバンバン撃つ楠木だった場合、怒りに任せてタブレット端末を叩き壊す様子が目に浮かぶ。

 その楠木は現在ヤマト皇国に鞍替えした牧野と画面越しの会話中。

「ヤマト皇国にはいつ来るんだ、楠木二等兵?来るなら早い方が良いぞ。同じ階級でもヤマト皇国に来るのが早ければ早いほど昇進しやすくなるからな。」

 そう言いながら葉巻を吹かせる牧野はニヤついた表情が何とも嫌らしく、一心不乱に楠木の菊門を舐めていた男には見えない。どうやら清仁は楠木がヤマト皇国に鞍替えするなら二等兵の階級を付与する旨を取り巻き共に言いふらしている模様。

「にっ、二等兵だと!?まっ、牧野貴様誰に向かってそれを言っている!?この楠木は!」