芹沢亀吉
2024-09-04 01:16:26
143708文字
Public 菊タブー
 

108と108

暴虐なナルシストかつ軍国主義者な楠木武が恥をかく物語の通算108話目。仏教において人間一人が持つ煩悩の数は108とされ今回はその108に焦点を当ててみた。いつも通り特盛の残忍描写に加え今回は性描写も色濃く、18歳未満の方が読むのはお勧め出来ない。


 尾崎はムートーに倒壊させられた鉄塔から延びる送電線を指差した。

「乃木隊長!あの送電線で奴を縛り上げ動きを封じれば電磁パルスに脅かされずメーサーライフルを撃てます!」

 尾崎の進言を受け乃木が不気味に微笑む。

「名案だ、尾崎。だがその作戦には時間稼ぎ要員が要る。よし!貴様らがあの怪物を引き付けろ!」

 何と乃木はムートー相手に惨敗したばかりの地上部隊の残存兵達にそのムートーへの突撃を命じた。完全な決死隊だ。

「の、乃木中佐、ご覧の通り我々は既に疲弊しております!その我々にミュータント兵士達の盾代わりになれと!?」

「あぁ、そうだ!ここであの怪物を止めないと東京が蹂躙される!俺がこの国を、皇室を守るため命懸けで暗殺、誘拐、拷問等に従事したように貴様らも東京を守るため身命を賭せ!新たな陛下のご即位を控えた東京の地を守るため散れるなら本望だろう!俺は九段下に住み靖国参拝が日課だ!貴様らが英霊となり合祀された後もちゃんと拝んでやるから安心しろぉ!」

 楠木ほどやかましくはないとはいえ、立場が弱い者に自己犠牲を強いる乃木の非道さは楠木に勝るとも劣らない。本来1945年の敗戦直後に取り壊しておくべきだった靖国神社には巨神との戦いにより命を落とした自衛官が多数合祀され、地球防衛軍発足後も戦死した兵士を祀り無茶な作戦により戦死者を出した軍上層部の責任を免じる欺瞞的役割を果たしていることが伺える。

まさる、仲間が大勢やられたのに無能なお前がまだ生きているということは、大方自分だけ助かろうとしたんだろう。まさかこの期に及んで実の兄である俺に便宜図ってもらおうなんて考えていないよなぁ?俺はお前が妊娠させた女を自殺に見せかけて消す等散々お前の尻拭いをしてきた。今回ぐらい兄の役に立て!そしてこの国の役に立てぇ!」

 実兄にそう言われ、乃木大地陸軍軍曹は泣き叫びながらムートーに突撃するも瞬く間に全身を叩き潰されあの世行き。衝動的に妊娠させた女性を始末するよう懇願等日頃から何かやらかす度実兄に泣きつき、先程ムートー相手に戦った際同じ部隊の仲間達を見捨て本営に逃げ戻ったのも実兄の言った通りだけに余り同情出来ないが。

「独りで突撃しても時間稼ぎにならんだろ。本当にあの馬鹿は乃木家の恥だ。さぁ、お前らはちゃんと時間稼ぎするんだぞ!」

 乃木の恫喝に怯えた残存兵達が絶叫しながらムートーを銃撃するのに並行し、ミュータント兵士達が人間離れした素早い動きによりちぎれた送電線を掴みムートーの身体のあちこちに引っ掛ける、ここまでは乃木が思い描いた通りに事態が進む、ここまでは。

「駄目です!引っ張りきれません!うわーっ!」

 ムートーの力はミュータント兵士達の手に負えるものではなく、送電線を引っ張る筈が逆に引っ張られある者は前肢に叩き潰されある者は転落死と次々この世から退場していく。普通の人間を凌ぐ身体能力を持つミュータントも相手が巨神だと普通の人間同様やられ役が関の山。しかもムートーはミュータント兵士達を殲滅するのと並行し残存兵達も次々と叩き潰す。

「役立たず共がぁ!ミュータントだからと実戦経験の無いド素人共を信じた俺が馬ガワッ!」

 怒りに任せて怒鳴る乃木の胴体をムートーが振り回す送電線が両断し、生身の人間の上半身、下半身そして左右それぞれの腕が血の海にゴロリと転がる。皇族をはじめ特権階級の特権保持のため暗殺、誘拐、拷問等数々の悪事に手を染め続けた腐れ外道に巨神の裁きが下った瞬間と言えよう。そしてたった今ムートーに全員息の根を止められた残存兵らも足利市内にて略奪に手を染め、現在劣勢に立たされているミュータント兵士共もその略奪をムートーの仕業として処理する腹積もり。

「乃木隊長の仇を取れぇ!」

 そう叫びメーサーライフルを撃つ尾崎らミュータント兵士共の数は現場に到着した時の半数にも満たない。頼みの綱のメーサーライフルも出力70万ボルトとAC-25のメーサー砲と比べても遜色無い威力とはいえ、一点に集中しムートーの目等を狙い撃っても全く戦果を挙げられないのが実情。ひょっとしたらムートーは撃っても無駄と判らせるため敢えて尾崎らにメーサーライフルを撃つ機会を与えているのかもしれない。