糸冬いずく
2024-09-16 00:16:00
157796文字
Public 二次創作:キリングミュータント
 

キリングミュータント【リブーテッド】

完結、夢主あり、赤羽業、暗殺教室、Paranoia

三日月が爆誕した春、新しいクラスが三年E組だろうと、担任教師が犯人だろうと、隣が赤羽業だろうと、成すべきことは変わらない。ミュータントは、すぐそこにいる——。

あなたは椚ヶ丘中学三年E組の女子生徒[$名前が見つかりません]です。
トラブルシューターが前世のミュータントな[$名前が見つかりません]と、隣の席の赤羽業が、ミュータントを殺す話。

クロスオーバーです。複数の作品の要素が登場します。
異世界の描写を含みます。主人公または周辺人物が別の世界へ渡ります。
転生の描写を含みます。主人公または周辺人物が死んで生まれ変わります。
主人公または視点人物が異性からの性暴力の被害に遭います。
主人公または視点人物が暴力の被害に遭います。


  四

 見殺しにされた。
 一週間以上前、一か月以上前、三年生が始まる前の冬、当時二年生だった私の前で、三年生がそう言った。A組の生徒だった。よって成績優秀者だった。進学校にはよくある制度、特別進学クラスである。だから私は巻き込まれたとも言えなかった。
 ちょうど前日、少し外れた帰り道に、喧嘩を制した中学生が得意げな顔で立っていた。当時クラスメイトだった二年生が。
 劣等生の条件は様々だ。成績不振はその最たる例だが、判断は二年次学年末テストで下される。総合順位が下位だったとか、主要五教科で赤点をとったとか。E組落ちの基準は、公然の秘密だ。——成績の維持そして向上に努めよ。それだけでよかった。それだけで。椚ヶ丘に通うような生徒の多くは素行不良など犯さないのだから。
 とはいえ中には素行不良者もいる。出席日数が足りない、授業態度が悪い、校則を守らない。実際今年のE組の一人は、校則違反のアルバイトが露見した途端に転級通知を受けとった。そして赤羽も二年の冬、喧嘩の翌日に受けとった。誰も驚きやしなかった。あるいは誰かは驚いた。彼は一年の頃から有名だった。物事には例外がある。
 必ずしも不良がE組に落ちるとは限らない。無断で遅刻して早退して欠席して、喧嘩して、暴力沙汰を起こして、それでも、たとえ常習犯でもE組に落ちないことはある。必ず定期テストを受けて、常に成績上位を記録され、それがA組入りを確実視されるほどならば、担任教師は喜んで問題児をかばうだろう。受け持ちの生徒をA組に入れた功績が、雇用者としての評価につながるのだ。
 校則違反のアルバイトが露見した生徒も、頭抜けた成績を残せていれば、やはりA組に進級しただろう。この学校の根幹には実力主義が存在する。
 赤羽もだから見逃され続けた。だから赤羽は見とがめられた。あの日、彼が勝利を誇った相手は三年A組の模範的優等生だった。
「こいつです」
 朝のホームルームに現れなかったクラス担任が放送で私を呼び出した。一時間目の最中のことだ。廊下で赤羽とすれ違って、訪ねた教員室は荒れ果て、待ち構えていた担任教師はかろうじて己の席を整えていた。そして一人の生徒が隣でつえをついていた。包帯に巻かれていた。一目瞭然の容体だった。そいつが言った。その瞬間すべてが決定づけられた。
 担任は何事をもわめいた。こちらにおわす上級生がいかに優秀な先輩で、あろうことか三年A組でいらっしゃって、さらなる成績上位者であらせられて、季節は冬、冬の、三年A組の、模範生でいらっしゃるのだと、怒声をもって繰り返した。冬の二年生は学年末テストが心配だろうが、冬の三年生は受験が心配だろう。椚ヶ丘学園は中高一貫校だが、外部進学や、実績づくりの受験というものもある。
「どうして赤羽の肩を持つ」
 一方的にわめいたクラス担任は尋ねる体で言葉を続けた。「彼の実績に傷がついたら、俺の評価まで下がるんだぞ」
 同じ言葉を先の一人も聞いただろう。同じ言葉をそれから私も聞いただろう。
「おまえの転級も申し出ておいた。停学の届け出もしなくちゃあな。おまえはもう少し賢いと思っていたよ。それが赤羽なんぞと一緒になって、こんな問題を引き起こすとは。——三年生になるまで登校しなくていいようにしてやる。二度と俺の前に現れないでくれ」
 三年E組の教室だけは、本校舎の先、さらに山の上、特別校舎——旧校舎——に位置する。当校の規則で、そう定められている。

「ごめん」

 浴衣のクラスメイトが腰を折っていた。「そんな」と私は口では言った。彼は頭をあげなかった。「あげて」と言ってみたけれど、
「俺は今でも正しかったと思ってる」
 腰は曲げられたままだ。
「赤羽くん」
「けど、だからあんたがE組に落ちてよかったとは思わない」
「私はいいクラスに来たと思ってるよ」
「もっといい修学旅行だった」
「暗殺旅行はすごく充実してたけどな」
「あんたが——あんな目にあうこともなかった」
 浴衣のクラスメイトは再び言った。「ごめん」
 私はこう言うことに、なっていた。「いいよ」
「何もよくない」
 クラスメイトはようやく頭をあげた。滑稽な表情を浮かべていた。「たしかに」と私は返事した。
「よくないことはあった、けど、いいよ、そんな。もう済んだことだから」
 白い顔が繰り返す。
「『済んだ』」
「うん。『済んだ』——まだ男子とは話せてなかったんだっけ。先に大部屋で考えたんだけど、女子は協力してもいいって方向でまとまったの。もちろん返事は七人全員で話してから。ほら殴られたり蹴られたりしたわけだから」
 私は浴衣と、その首から上とを順に見る。どうやら目立たない程度の傷で済んだようだが、日中の事件では、拉致された私たちの一方で彼ら三人が暴力被害にあった。私たちもあわや性被害というところだったけれど、烏間先生の立場では、併せて国家機密を考慮しなくてはならなかった。
 烏間先生の立場では、事件が表沙汰になることは避けねばならなかった。かわりに犯人たちにはすでに監視をつけたと言われて、私たち四人は、七人全員で話し合って決めると答えたのだ。
「そんなの最初から決まってた」
 もう三人が、私たち四人と話すまで返事はできないと告げたそうなので。
「烏間先生は頼んでくれたよ」
 赤羽が言い出したのだろう。
「その『頼み』を断るって選択肢、あんたらにあったの」
 思うにそれが赤羽のクラス随一の戦闘能力を支えていた。
「なかった、かな」
 絶えない喧嘩で培われ、そして誰より早く高校生の襲撃を知らせた部分。
「済んでないよ」
 まるで獣のような、それが、——ただの真剣な表情を、物珍しく奇妙な振る舞いだと錯覚させる。
「済んだことだよ」
 私は答えた。「たしかにE組落ちって言われたときは、この世の終わりみたいだった。ずっと自宅謹慎で、学年末テストも受けられなくて、三年生が始まって、そのうち月が爆発して、いざ学校に行けるようになったら、地球も爆発するんだって。そんな先生が私を待ってた。今日みたいに生徒を危機から救ってくれる先生が。会えてよかった。本当だよ。私、暗殺者になれてよかった」
「赤羽くん」と呼びかけて、「いいことが、たくさんあったよ。私は今が一番幸福なんだ」
 返事はなかった。それだけで室外の様子を思い知らされることとなった。暗殺が落ち着いたのだろうか、消灯には時間があるけれど、すっかり喧噪がやんでいる。私は再び窓の外を見た。隣の赤羽も鈍い動作で夜空を見あげ、沈黙のままに窓を閉めた。私はそれでも視線を外さなかった。相変わらず月は見えないが、数多の星が輝いている。だが長続きはしない。
 まもなく開け放しの部屋の外に、奥田さんと杉野くんが足音をさせて現れた。
「なんだ、二人一緒だったんだな。あっちで明日の計画を見直そうぜって話しててさ」
「邪魔しちゃいましたね」
 対して私たちはそれぞれ振り返る。
「いや、べつに」
「ちょうど、そっちに行くところだったから」
 赤羽は言葉の終わりも待たなかった。杉野くんが制止の声をあげたけれど、赤羽は通り過ぎて部屋を出て行く。杉野くんは慌てて背中を追いかけ、奥田さんも視線をせわしなく移した。そうしながら一歩、彼女も引き返すように爪先を向ける。
「私たちも」
 私は最後に部屋を出た。明かりは奥田さんが消してくれて、ふすまは私が閉めようとして、ピストルが持ちあがった。指が引き金に触れている。横で奥田さんがうかがうように私を見た。私は笑みを打ち消して、首を横に振って、表情をつくり直す。