糸冬いずく
2024-09-16 00:16:00
157796文字
Public 二次創作:キリングミュータント
 

キリングミュータント【リブーテッド】

完結、夢主あり、赤羽業、暗殺教室、Paranoia

三日月が爆誕した春、新しいクラスが三年E組だろうと、担任教師が犯人だろうと、隣が赤羽業だろうと、成すべきことは変わらない。ミュータントは、すぐそこにいる——。

あなたは椚ヶ丘中学三年E組の女子生徒[$名前が見つかりません]です。
トラブルシューターが前世のミュータントな[$名前が見つかりません]と、隣の席の赤羽業が、ミュータントを殺す話。

クロスオーバーです。複数の作品の要素が登場します。
異世界の描写を含みます。主人公または周辺人物が別の世界へ渡ります。
転生の描写を含みます。主人公または周辺人物が死んで生まれ変わります。
主人公または視点人物が異性からの性暴力の被害に遭います。
主人公または視点人物が暴力の被害に遭います。


  二

 明後日も一緒に食べたら、奥田さんは椅子だけを動かすようになった。話題はもっぱら学校生活、さすがに修学旅行が中心だ。彼女はすでに理科の角度で観光する算段をつけており、班別の計画においても一部化学的な提案が採用された。
 班で昼食をとった日もあった。授業でもとりあげられるなど、生徒のみならず教師陣も関心を寄せ、特にクラス担任は辞書のようなしおりをつくりあげた。
 担任教師の熱量には目を見張るものがあった。しおりはすべて手書きの千三百四十四ページ、その厚みを充実させるほどに丹念な下見、当日朝は誰より大きな荷物を背負って新幹線に乗車した。
 京都への移動には新幹線を利用した。東京駅に集合して、クラスで貸し切りの普通車に乗り込み、二時間と少し。班で遊んだり、独りで寝たり、やがて何事もなく京都で全員が降車する。担任教師が車両を引っ繰り返す勢いで車内点検したから間違いない。強いて言うなら、通路で乗客と肩が接触した程度の事故をあげることになる。
 京都でもクラス別行動が続いた。移動も昼食も、文化財の見学も。宿泊施設もクラスで貸し切りだ。
 貸し切りの旅館に到着すると、クラスはそこで初めて、さらに分かれた。寝室のためである。生徒の部屋は大部屋が二つ。そして性別ごとに案内され、畳の上に荷物を置いたら、次は久々の自由時間だった。
 風呂や食事の前の短い時間だが、皆班員同士で大部屋を出て行く。奥田さんも先に整理を済ませて、茅野さんと館内の散策に出かけた。いずれ談話室で合流することになるだろう。あまり大きな建物ではなく、設備も限られている。その上で生徒が立ち入れる場所は、他には浴場か宴会場か。
 誰かが窓を隠したとき、大部屋の生徒は四人まで減っていた。班の数に直して二つ。外はすっかり薄暗い。頃合いだろう。私は携帯端末を抜き取り、音をさせてかばんを閉じる。すると同じ班の神崎有希子も、同様の仕草でかばんを閉じた。
「いいの」と答えの決まりきった問いに、神崎さんは決まりきって答える。「いいの」
 神崎さんは杉野くんが連れてきた。杉野くんから予約していたそうだ。親交を深めたかったのだろう。神崎さんは総合して器量がよい。校内では相応に評判があったから、彼の予約が遅ければ、彼女は別の班にいただろう。
 さて自由時間への一歩を踏み出し、私がふすまを閉めたところで、評判相当の神崎さんは自ら問題を報告してくれた。「変なことを聞くようだけど」
 手帳が見つからないという。
「ポケットに入れたはずなのに」と神崎さんが制服に触れる。
「見てないと思う、けど」
 手帳の正体は尋ねるまでもなかったが、神崎さんの説明によると案の定、修学旅行の日程表だった。内容としては二日目、明日の班別行動の計画が中心だったため、新幹線の席で確認したきり、日中はとり出す機会もなかったのだとか。
「でも、これから、きっと話すでしょう」
 その前に改めて確認しようとしたところ、制服はおろか、かばんを探しても見つからなかったそうだ。私も改めて首を横に振った。名前を書いたと言われても、なおさら見かけた覚えがない。器量よしの神崎さんは書字まで綺麗と知られている。もしクラスメイトが見つけていれば、今頃は私も奥田さんたちと談話室で過ごしていただろう。
「談話室に行ってみよう。きっと、みんな集まってるよ」
「ええ、そうしてみる。ありがとう。いざとなったらスマホを見るから——
——じゃあ、そのときはデータを共有しようか。私は全部スマホなんだ」
 実際、談話室にはクラスの大半がいたけれど、拾得物を申し出る者はなかった。ただ中央の椅子に担任教師が座っていて、班員はさらに奥に集合していた。私たちが最後だった。神崎さんは気丈に振る舞ったが、はたして諦めはついただろうか。
 ここで首を横に振ったクラス担任は、昼食後には会場を天井裏まで掃除し、文化財に至っては前日までに補修したと言い張ったほどだ。かような教師が生徒の遺失物を見逃すだろうか。否。知覚の及ぶ範囲においては、些細な事故も許さなかっただろう。たとえば貸し切りの車両を出て、四人で通路を歩いたときでもなければ、——神崎さんにわざと体を打ち当てることなどできなかった。
 典型的な窃盗の手口だ。犯人はおそらく東京の高校生。ありふれた学生服の、ありふれた不良だったが、東京駅で一緒に乗車した集団がいる。彼らは私たちの中学校より二回り以上も偏差値が低い風貌で、しかし私たちより一回り以上は図体が大きい様子だった。京都駅で再び一緒に降車したから、彼らも修学旅行だろうけれど。
 何をせずとも、まだ鮮明に覚えている。
 私は自身の服装を見下ろした。
「けど神崎さん、どーすんの」
 誰の頭上も努めて見ない。
 一方で「貸せます」と勢いよく進み出た声が一つ、
「貸して杉野はどうするのよ」
「あっ」と、すぐ沈み込む。それを横からなだめようとする声、さらに横からにぎやかす声、班員は勝手に盛りあがって、神崎さんは私を見た。「そのことなんだけど」と私は挙手をする。カーディガンの袖が視界を横切る。
「今夜みんなで確認するよね。そのときに——
 白色。校則に反しない白色が。動くとワイシャツが肌を擦った。校則に従った白色が。脚に触れた灰色は学校指定のスカートで、そこからのぞく白色のタイツもやはり校則に反しない。だが誰かが不意に屈んだことで、図らずも見下ろしてしまった頭上には、一つの星も輝かなかった。当然だった。誰も、私も、あの——ありふれた黒一色の——学生服の不良さえも。
 頭の上に輝く星など、もはや数えるまでもない。
 とり除くべき脅威などない。何も脅威ではありえない。三つの星さえ脅威を示さないのだ。一つの星も輝かないことは、まったく反逆と対をなす、すなわち健全の証明である。誰かのように、私のように。
 証拠がなければ、証明ができない。
 やはり消灯前の自由時間にはどの班も計画を再確認した。神崎さんとはそのときに日程表を共有して、最後は四人で大部屋へ戻り、共に布団を敷いた。
 翌朝、神崎さんの手帳は出現しない。報告すべき脅威もない。ただ二日目の活動が、予定のとおりに開始する。