糸冬いずく
2024-09-16 00:16:00
157796文字
Public 二次創作:キリングミュータント
 

キリングミュータント【リブーテッド】

完結、夢主あり、赤羽業、暗殺教室、Paranoia

三日月が爆誕した春、新しいクラスが三年E組だろうと、担任教師が犯人だろうと、隣が赤羽業だろうと、成すべきことは変わらない。ミュータントは、すぐそこにいる——。

あなたは椚ヶ丘中学三年E組の女子生徒[$名前が見つかりません]です。
トラブルシューターが前世のミュータントな[$名前が見つかりません]と、隣の席の赤羽業が、ミュータントを殺す話。

クロスオーバーです。複数の作品の要素が登場します。
異世界の描写を含みます。主人公または周辺人物が別の世界へ渡ります。
転生の描写を含みます。主人公または周辺人物が死んで生まれ変わります。
主人公または視点人物が異性からの性暴力の被害に遭います。
主人公または視点人物が暴力の被害に遭います。


  四

 モップの柄が振り下ろされた。二度、三度、四度、教壇のそばでいたく物音がする。教室の床をたたく音、盗聴器を壊す音。さらに転がる花束は、緩衝材の役にも立たない。クラスメイトが悪態をつく。
「これで俺らの情勢を探り、ビッチ先生が単独行動になる隙を狙った。殺せんせーがブラジルに行くのも、烏間先生が仕事に行くのも知ってたうえで、——大胆にも独りで乗り込んできた」
 殺し屋が。花屋の装いで、教師の足どりで、授業をするかのように教壇に立ち、一枚の写真を生徒に示した。三日前に姿を消したE組の教師が縛られ、箱詰めにされていた。大きな怪我は見られないが、どこから見ても人質で、案の定、交渉材料になったのだ。今夜十八時までに生徒全員で某所に来い、他言は無用、さもなくば。「死神」を名乗った殺し屋は、他人の怪我を心配したように、私たちに花束を売ったように、笑顔で安全を錯覚させた。
 E組は三日前から盗聴されていた。あの花屋があの花束に盗聴器を隠していた。赤羽が発見した。犯人が去ってまもなくのことだ。いつのまにか教壇のそばに花束をつかんで立っていた。破壊行為は別の生徒が率先して引き受け、私も掃除道具を持ってそばに寄った。数分間で教室は幾らか散らかってしまったが、誰もが他言無用を守るなら、花弁の一枚も残すべきではない。
 指示に背くべきではない。先生に知らせるべきではない。人質を見殺しにすべきではない。相手が伝説の殺し屋だろうとも、E組の暗殺者はただでは殺されない。誰もが同様に考えたなら、選択肢はあってないようなものだ。
 私たちはせいぜい時間いっぱい準備して、のこのこわなに飛び込むよりほかなかった。
 わな、だった。指定の十八時、指定の地点に小さな建物。周囲や屋上に人影はなく、内部にも手下は少ないだろうと予想を立て、いざ足を踏み入れたら、地上階全体が昇降式だった。こちらの立ち回りを無為にする仕掛けが、全員を地下のおりへ導いたのだ。当然脱出したけれど。E組の生徒は、標的の心理を知る名目で、標的側の立ち回りについても幾らか訓練を受けている。
「役割を決めて三手に分かれよう」
 とはいえ、建物からは出られなかった。地上からは確認できなかった巨大な地下空間が電子錠で閉ざされているのだ。鍵は「死神」の虹彩認証だと本人が館内放送してくれた。まるで遊戯感覚とはとんだ余裕の持ち主だが、中学生が相手だからか、それとも伝説の殺し屋を名乗るだけのことはあると見るべきか。
 最強の殺し屋といえばそれは「死神」をおいて他にない。とある業界人がE組の生徒に聞かせた話だ。殺し屋に死神とはありふれた異名のようで業界ではただ一人を指すものだと。名前も声も姿も形も誰にも何にも知られずに、ただ伝説的な記録を打ち立て、いつしか「死神」と呼ばれるようになった。——その「死神」をこの犯人は自称しているわけだが。
 真偽はともかく事実として、幾らかの技術は高い水準に達している。花屋として接したとき、教室を訪れたとき、私たちを捕らえたとき。そして、このたびモバイル律が短時間で破壊、改竄された。
 正直無謀に思えたが、だから降伏しようとはクラスメイトは言わない。戦闘特化のA班と、技術屋中心のC班とを選り分け、私は間のB班に選ばれる。嫌な顔の一つもせずに従っておいたが、担当は人質救出だ。彼女の居場所はわかっている。私たちを閉じ込めた鉄格子を挟んですぐ「死神」の背後につながれ眠っていた。「死神」の相手はA班に、C班には構造を探らせて、B班が人質の元に突入する。
 ——手筈だったが、別れて一分でA班が倒れた。
 一気に空気が張り詰めた。まるで突飛な知らせだった。クラスの三等分およそ十名が——それも連絡役の茅野さんを除いては、各々戦闘や対人戦に秀でたクラスメイトが、わずか一分の内に制圧されたのだ。
 しかしB班はB班で後に引けない所まで到達していた。「たぶん、この先がビッチ先生が捕まってる部屋」
 爆薬を持った班員が、鍵のついた扉に向かっていく。残りはそこから距離をとりつつ、背後を警戒し、私は見張りの役を買って出る。訓練成績がよい部類であるため、否定意見もなく要望が通り、まもなく前方から爆発音がした。
 先頭の班員が扉を蹴破る。「ビッチ先生」と口々に続々突入する班員たち。室内に敵影なし、鉄格子の向こう側もひとまずは異常なし。部屋の外も静かなものだ。まだ「死神」は訪れないらしい。そして警戒の中で英語教師の呼吸が確認された。
「眠ってるだけだって」
「そっか、よかった」
 次はC班と合流するそうだ。彼らは戦力としては心許ない部分もあるが、体格と体力がある寺坂くんと、技術力もさることながら肉体改造により身体能力も高いイトナくんがいる。彼らをB班の戦力と合わせ、A班を救出しつつ「死神」を倒して外に出る算段だ。私たちは全員が対人で有効な武器を装備している。——A班にも同じことが言えて、それにもかかわらず手加減のうえで秒殺されてしまったのだけれども。
 室内では人質の解放が完了し、杉野くんが彼女を背負った。まずは二人を守りながらC班と合流せねばならない。連絡役が作戦を伝える。私は一歩、扉から離れる。中学生の気配を除いては、空気の乱れも足音もしない。まだ「死神」は現れない。一方で作戦に従って班員が出てきた。一人、また一人。武器を携え、私を抜かしていく。
 しかし、誰かがぴたりと足を止めた。まだ部屋の中の班員たちだった。振り返って固まった彼らの様子が、やがて全員に伝播する。
「六か月くらい眠ってたわ。自分の本来の姿も忘れて。——目が覚めたの。死神カレのおかげよ」
 杉野くんと、彼らの護衛が人質の足元に膝から倒れた。大して人質はいたって健全に立ちあがり、両手に武器を携えている。拳銃型の注射器だ。連続で注射できるようになっているのだろう。見張りを引き受けておいてよかった。班員が部屋に引き返していくが、私は最後尾から室内の様子をうかがえる。通路に敵の気配はない。この状況を英語教師が一人で切り抜けられると見積もっており、仮に計算が外れても結局は伝説の殺し屋が全員を殺せるからだ。
 実際に仲間は次々と倒れた。一分どころか十秒の間に敵は全員を抜き去った。彼女は最後の一人の前で、足を止めて口を開く。
「あら」
 目が合った。
「あんた、それは降伏のつもり」
「はい、私は降伏します」
 私は頭の横で手の平を示した。武器は地面に手放してある。微動だにしない私の前で、敵もゆっくりと武器を下ろした。油断の表れには程遠い。ついに味方の到着である。
「君は——
 背後で場違いな声がした。
——そっか。君は降伏か」
——はい、降伏です」
 私は背を向けたまま答えた。背後の敵は再び「そっか」と場違いに穏やかな表情でつぶやく。
「いいよ。武器を置いたなら自由にしなよ。もちろん限度はあるけどね」と瞬きの内に私のポケットを空にして「死神」は手下の前に立つ。
「君一人に負けちゃった」
「ええ。あんたの言ったとおりだったわ。やっぱりこの子たちとは組む価値がない」
 その後「死神」は手下を私と実質的に二人きりにして、C班の元へ赴いた。彼らは全員で降伏を選んだらしい。中学生は新たなおりに誘導される。全員が英語教師の手で首輪と手錠をはめられる。B班から独り降伏を選んだ私は、教師からの褒美として、最初の一人に選んでもらえた。まったくもってうれしくない。けれどこの私はもはや抵抗できないから従順に過ごして、目覚めた班員に謝って、C班だった奥田さんと無事を確認し合って——、それから「死神」の監視映像に、一人と一匹の影が映る。