糸冬いずく
2024-09-16 00:16:00
157796文字
Public 二次創作:キリングミュータント
 

キリングミュータント【リブーテッド】

完結、夢主あり、赤羽業、暗殺教室、Paranoia

三日月が爆誕した春、新しいクラスが三年E組だろうと、担任教師が犯人だろうと、隣が赤羽業だろうと、成すべきことは変わらない。ミュータントは、すぐそこにいる——。

あなたは椚ヶ丘中学三年E組の女子生徒[$名前が見つかりません]です。
トラブルシューターが前世のミュータントな[$名前が見つかりません]と、隣の席の赤羽業が、ミュータントを殺す話。

クロスオーバーです。複数の作品の要素が登場します。
異世界の描写を含みます。主人公または周辺人物が別の世界へ渡ります。
転生の描写を含みます。主人公または周辺人物が死んで生まれ変わります。
主人公または視点人物が異性からの性暴力の被害に遭います。
主人公または視点人物が暴力の被害に遭います。


  三

 先生は基礎の一学期、応用の二学期と言っていたが、特に暗殺訓練はそのとおりになった。一学期の暗殺訓練は暗殺初心者に対して狙撃やナイフ術の基礎を仕込み、並行して体力の向上も図った。そして二学期に入ったら爆薬やフリーランニングをとり入れて、裏山で模擬暗殺演習を開くようになったのだ。実戦すなわち賞金首暗殺を想定して、烏間先生に攻撃を当てる訓練である。
 烏間先生はマッハ二十ではないが、戦闘能力は極めて高い。攻撃も守備も人間離れしている、とはおよそE組生徒の総意で、実際に昨秋には伝説に比肩するような殺し屋を倒している。その殺し屋は初速といえども先生の触手を見切って撃ち落としたような、やはり人間離れした実力者であって、——しかし彼を倒した烏間先生の口癖は「俺に対して命中N発では、到底やつには当たらないぞ」である。
 とにかくサバイバルゲーム形式の模擬暗殺演習は、これが初めてのことではない。ただ今回は、その標的は賞金首はおろか烏間先生でさえなくクラスメイトに変更され、もちろん訓練の一環でもない。さしずめ実戦の三学期といったところか。
 よって、幾らかの規定が追加された。相手のインクをつけられたら死亡退場。審判は烏間先生だ。両陣の中間点に立ち、勝負の邪魔はしないように務めるそうだ。そして勝利条件は、敵チームの全滅、降伏、又は敵陣の旗を奪うこと。最初に中立をとった人工知能は、モバイル律を通じて戦況を表示するという。
 やがて両チームの準備が完了すると、烏間先生が声を張りあげ、「開始」
 青チームから二名の死者が出た。狙撃手二人がカルマの指示で仕留めたものだ。しかし、まもなく赤チームも同じく二名の死者を出すことになる。それも片方は超長距離狙撃手だ。近距離暗殺が得意な者に彼の護衛を任せていたのだけれども、早々外側から回り込んできた敵に、不意を突かれてしまったのだろう。
 下手人はさらに一名を奇襲して、防衛線を突破しようとする。容易に戻れる距離ではあるが、私は引き返さなかった。旗までとられるとは考えられなかった。とり立てて指示されてもいない。それに。
 しばらくしたら案の定、青チームの神崎さんが死亡して、通信機からカルマの声がした。「俺が指揮執るよー」
 前進、防御、偵察、攻撃。カルマは次々と指示を出した。早速、青チームの駒が二つ減る。偵察で得られた情報を元に、敵陣の深くにチームメイトを送り込んだのだ。さすがに返り討ちにあったものの、元より訓練成績は著しく低い。戦闘が苦手な駒を使って、敵の駒を二つ減らした。それも敵の片方はナイフ術四位の大物だったと思えば、そこには数字以上の戦果がある。
 私はというと開戦以来、戦場を「駆けずり回って」いた。まだ交戦には至っていない。さすがに単独行動の者はなかったのだ。渚くんを除いては。
 磯貝くんは渚くんを兵士と見なさなかったのだろう。渚くんはとことん戦闘に向かない。彼の暗殺の才能を生かすために、自由にさせている可能性が高い。だからといって、ただちに彼を殺せるわけでもないのだが。彼が独りだとわかった理由は、ひとえに彼だけが見つかっていないところにある。意外性はどこにもない。こうなることはわかっていた。
「そう」
 カルマも薄々と察していたようで、通信機越しの返事はつぶやくような声だった。
——もうしばらく捜しといて。後はさっき話したとおりで」
「了解」と、私も短く返事したところで、新たな戦闘の気配。岡野さんたちだ。機動暗殺一位の二人組が、青チームのこれまた二人組を襲った。枝から枝へ飛び回る岡野さんに、翻弄されて一名が死亡退場。かたきを討たんと飛び出したもう一人は、茅野さんだ。彼女もまた枝から枝へフリーランニングの要領で、機動暗殺の構えを見せる。訓練成績には似つかわしくない反撃だが、触手の侵蝕から回復したことの表れかもしれない。
 しかしながら心配は無用だろう。実際、移動を再開してしばらく、茅野さんの死亡退場が知らされた。岡野さんたちの連携の勝利というわけだ。
 これで青チームの生存者は赤チーム十一人に対して六人となった。磯貝くんは、いよいよ兵士を結集させるはずだ。赤チームにはもう一人、狙撃手がいる。彼女は超長距離狙撃はできないものの、射程も命中も優秀で、今は移動砲台として旗を守っている。赤チームの旗をとって勝つには、必ず彼女を攻略しなければならない。それも渚くんを除いた最大五人で、だ。
 旗から旗までおよそ百メートル。二つの旗を結ぶ直線は、見晴らしのよい地形に位置している。正面突破を試みようものなら、移動砲台のある赤チームは当然、青チームにさえ容易に射殺されることになる。それほど起伏も遮蔽も少ないからこそ、神崎さんは戦場を取り囲む林から攻めてきて、カルマも岡野さんたちを林に放ったのだ。一撃離脱の機動暗殺で徐々に敵戦力を削いで、あわよくば旗をかすめとる計画だ。
 そして、
「岡野と木村が殺された」
 通信が入った。
「原さんのトラップだ」
「前原くんと組んでたやつか」
「で、その前原がもうすぐ前線に出るから、おまえも速水さんに合流で」
「了解」
 来た道を戻るように、枝を伝った。途中、両チームから一名ずつの死者が出た。赤チームは偵察が露見して、青チームは先のわなの仕掛け人が一人になったところで、それぞれ狙撃されたようだった。かくして赤チームは八人に、青チームは五人に。私は銃を持ち替え、指定の地点へ。移動砲台の根城たる大木の周囲には、すでに二人と四人が集まっていた。皆、銃撃戦を予想して、フードで頭部を守っている。
 磯貝くんはやはり渚くんを除いた全員で移動砲台を攻略するようだった。守備を捨てたということだ。カルマはそこに中村さんや寺坂くんを向かわせた。体格の優れた寺坂くんたち三人を盾として、中村さんに旗をとらせる作戦だろう。よって、磯貝くんたち四人に相対するは、移動砲台とその護衛二人——イトナくんと私——の計三人となる。カルマは陣地の旗の元に、そして渚くんは、まだ見つかっていない。
 しかし戦闘は始まった。
「行くぞ」
 磯貝くんの合図で、四つの影が飛び出してきた。彼らは移動しながら私たちに銃口を向ける。私たちはすでに銃口を向けている。互いに照準は最優先目標へ。すなわち青チームの指揮官と、赤チームの移動砲台だ。
 最初の一人は青チームだった。ただし磯貝くんではなく、流れ弾を受けた奥田さんが。二人目が今度こそ磯貝くんだ。そして、とうとう、こちらも移動砲台が落とされた。すかさず木陰からイトナくんがかたきを討って、私も前原くんを撃つ。だが前原くんは全部かわして、イトナくんに斬りかかった。
 ちょうど弾倉が空になったので、イトナくんが殺されている間に、回り込む。イトナくんは銃身で体をかばっていたが、前原くんの一撃は重く、よろめいたところに二撃目を食らってしまった。前原くんの二刀流である。しかし三刀流ではない。
 私は背後からナイフを振りあげた。枝の下で前原くんが咄嗟に身をよじって、顔の横で斬撃を受け止める。イトナくんへの三撃目に備えていたナイフだ。彼は荒い息遣いの中で振り向き、左手のナイフも構えた。イトナくんにとどめを刺したナイフが、今度は私の首を狙う。首をそらしてかわすと、互いに姿勢が崩れ、
「してられた」
 耳元で忌々しげな声がした。
 思わず笑ってしまった。それは直接の返事ではなかったが、通信機は舌打ちを伝える。同時に私は大地を踏み締め、ナイフを振りあげる力を弱めた。前原くんの右腕が追ってくるけれど構わない。ナイフをそのまま滑らせるように振る。その一方で、前原くんの右手のナイフが、私の肩口に確かに触れる。
 私たちは無言で一歩ずつ下がった。それぞれナイフを収めてしまい、見つめ合って、やがて、フードに赤色の飛沫を散らした前原くんが、深く息を吐き出した。
「俺は二人っきりの戦いに集中してたのに、そっちは他の男に笑いかけてんだもんな」
「笑いかけてっていうか、私は舌打ちされたんだけど」
「『舌打ち』」
「うん。前原くんにはいい知らせだよ。言葉で聞かされたわけじゃないが、寺坂くんたちが殺されたんだ」
 前原くんは動きを止めた。やがて口を開きかけて、それ以上にフードの下で目を見開く。功労者の名前がわかったのだろう。その場で後ろを向いた。私も首だけ動かして振り返る。大きな木陰と、細く浅い水流と、さらに奥の木々に隠れて、赤色の旗が立っている。そして前原くんの視線の奥にも、青色の旗が立っている。この戦争は終わらない。最後の一人が、最後の一人を下すまで。

「渚くーん。銃、捨てて出てこいよ。ナイフこいつで決めようぜ」

 それから前原くんと私が死体として、ちょうど主戦場を離れたかどうかという頃だ。入れ替わるようにカルマが姿を現した。守るべき旗に背を向けて、敵陣を目指して堂々と、最短距離を歩きだした。武器は右手の一本のナイフ。あまりに無防備な登場だ。今頃、渚くんは照準器越しに標的の身体をとらえている。
「マジかよ、カルマ」
 前原くんもつぶやいた。思わずとばかりに立ち止まって、遠ざかるばかりの背中を見つめた。
「マジだろうな」
 私も並んで足を止め、同程度の声量でこたえてやる。
「マジか」
 前原くんが振り向く。私はうなずいて肯定した。
「最後の二人の一対一、わかりやすくていいね」
「ンなバカな」
「けど、これでカルマが蜂の巣になったら、中村さんや寺坂くんは渚くんを認められないだろうな」
 勝った側の意見を、クラスの総意とする。もちろん、この戦争の大前提だ。他ならぬ先生の望みでもある。赤チームだろうと青チームだろうと従うだろう。そして、そのための最短距離は、渚くんの銃の引き金が知っている。彼は今、圧倒的好機をすでに握り締めている。これは彼の得意とする待ち伏せ狙撃——暗殺なのだ。もしも、それを手放せば一転、彼は窮地に立たされるだろう。
 渚くんは暗殺の天才なのであって、戦闘の才覚は並未満である。ましてや相手がその道の天才ときたら、それは有利を捨てるどころか、自ら不利を拾いに行くようなものだ。
 前原くんが再び戦場を見つめる。青チームの一員としては、目を離せない局面だ。正しく渚くんの行動が、彼らの勝敗を左右する。もし渚くんが姿を現せば、青チームは一気に敗北に近づくのだ。だからといって姿を現さなければ、
「渚が挑戦から逃げたって——
「そう、まさに、そう見える。かもしれない。『かもしれない』だけど、わだかまりが残るかもしれない
 そして先生は、クラスが分裂したまま迎える結末を、明確に拒絶している。
「卑劣、悪辣、狡猾。あいつらしい攻撃だよ」
 ——だが、それが正しかった。
 渚くんは現れた。銃を持たずに、姿を見せた。「マジか」と彼の仲間の死体が、私の横で目を疑う。しかし戦場で渚くんは、いよいよカルマの前に立った。
「あーあ、撃っちまえばよかったのに」
——殺す派、だったよな」
「それはそれ、これはこれ」
「いや、そうはならねーって」
「でも嫌なやつが死ぬところは見たいでしょ」
——いや、べつに」
——そんな人だったとは」
——こっちのセリフだ」
「あ、前原くん、みんなもこっちに来るみたいだよ」
 周囲は再び音に満ちた。死体の群れが押し寄せたのだ。最後の勝負が正面戦闘とわかったからだろう。両者が近距離暗殺の構えをとったからか、審判も制止をかけなかった。
 そして中央の二人は歯牙にもかけない。迷彩が落ちた死体に囲まれても、ただ向かい合いナイフを振る。いつもみたいに、初撃から思いきり、殺す気で。