糸冬いずく
2024-09-16 00:16:00
157796文字
Public 二次創作:キリングミュータント
 

キリングミュータント【リブーテッド】

完結、夢主あり、赤羽業、暗殺教室、Paranoia

三日月が爆誕した春、新しいクラスが三年E組だろうと、担任教師が犯人だろうと、隣が赤羽業だろうと、成すべきことは変わらない。ミュータントは、すぐそこにいる——。

あなたは椚ヶ丘中学三年E組の女子生徒[$名前が見つかりません]です。
トラブルシューターが前世のミュータントな[$名前が見つかりません]と、隣の席の赤羽業が、ミュータントを殺す話。

クロスオーバーです。複数の作品の要素が登場します。
異世界の描写を含みます。主人公または周辺人物が別の世界へ渡ります。
転生の描写を含みます。主人公または周辺人物が死んで生まれ変わります。
主人公または視点人物が異性からの性暴力の被害に遭います。
主人公または視点人物が暴力の被害に遭います。


  二

 その日クラスメイトは、活気をとり戻さないまま放課後を迎えた。本校舎での始業式にも暗い表情のまま参加して、旧校舎に戻っても、むしろ表情は陰る一方だ。ホームルームも何も手につかない様子で、さすがに先生も授業がなくてよかったとは考えたかもしれない。しかし彼もまた一切の口を出さないまま、最後は「さようなら」の一言で廊下に出てしまう。
 その戸が閉まって、すぐのことだ。早くも椅子を引く音がして、久しぶりに生徒が声を出した。渚くんだった。私は横目でカルマを見た。カルマは無表情で渚くんを見ていた。
「殺せんせーの命を、助ける方法を探したいんだ」
 渚くんは生徒を裏山に集めた。三月に爆発しないで済む方法を探したい。当てはないが、あれ以来、先生を今までのように暗殺対象ターゲットとして見ることができない。三月に地球を爆破するというけれど、先生本人の意志ではない。何より恩返しがしたい。
 これは、たちまち多くの賛同を得た。当然の反応だった。当然の前提として、先生に死んでほしいクラスメイトはいない。殺すより先に助けたいと思うことは、まるで不自然なことではない。
 だが同じく自然な思考は、残念ながら他にもある。
「私は反対」
 中村さんだ。「暗殺者アサシン標的ターゲットが私たちのきずな。先生はそう言った。この一年で築いてきたそのきずな、私も本当に大切に感じてる」
 そして示し合わせたように数人が前に出る。
「だからこそ——殺さなくちゃいけないと思う」
 隣に立っていたクラスメイトも、その一人だ。
 半年前だったか。渚くんが才能の片鱗を示したとき、彼を友人としていたカルマに、いつか、と考えたことがあった。いつか、まんまとカルマが殺されたところで、私の負う責などありはしないと。その考えは変わらないが、どうやら今がその時だったようだ。
 有り体に言って喧嘩である。渚くんとカルマの意見は、ここで真っ向から対立した。助けることを考えなかったわけがない。だが、方法が見つからなかったら、半端な結末を迎えることになったら、とても先生が喜ぶとは思えない。何より、暗殺教室で最も才能のある渚くんが、暗殺をやめようと言い出すのかと。単に反対派としてだけではない。中学三年間の友人関係が、せきを切ったようにあふれ出したのだ。
 言い争い、つかみかかり、殴りかかり。さすがにクラスメイトたちが二人を引き剝がして、さらには決定的な仲裁が入る。
「暗殺で始まったクラスです。武器これで決めてはどうでしょう」
 話題の賞金首その人である。「二色に分けたペイント弾と、インクを仕込んだ対先生ナイフ、チーム分けの旗と腕章を用意しました」
 今後のクラスの方針をサバイバルゲームで決めようというのだ。先生を殺すかどうかでチームを組み、争い、勝った側の意見をクラスの総意とする。場合によっては先生の努力の結晶である暗殺教室を覆しかねない提案であるが、
「大事な暗殺者せいとたちが全力で決めた意見であれば、それを尊重します」
 これも覚悟のうちだということだ。
 異を唱える者はなく、早速、二人の生徒が前に出る。クラスの狙撃手たちである。彼らは、はっきりと赤色——殺す——を選んだ。この一年を狙撃という必殺の一撃に費やしてきただけあって、暗殺を続けたいということだった。
 すると続けて茅野さんが、これまたはっきりと青色——殺さない——を選んだ。彼女は彼女で、いざ触手で殺そうとしたときに、後悔してしまったのだという。あるいは姉の遺志もあったのだろう。先生を守りたいのだと彼女は告げた。
 そして科学の力なら先生を助けられるはずだと、奥田さんも青色に続く。さらに、まるで当てがないわけではないと、また一人。神崎さんも杉野くんも青色だ。今後も相談に乗ってもらいたい、自分の気持ちに素直でいたい、助けたいと思うから助けたい。クラス委員の二人も青色だ。
 一方の赤色を選ぶ理由も様々だ。卒業制作の観点から、あるいはかつて先生から受けた助言に従って、地球と恩師の命の重さを比較できなくて。殺すためにこのクラスにきたから、それでクラスメイトに出会えたから。イトナくんは赤色、寺坂くんも赤色。
「私は、先生を生かすべきじゃないと思う」
 私も赤色を選んだ。
 当然、カルマも赤色で、逆に渚くんは青色だ。人工知能は性能不足を理由に中立をとり、人数は二人の差で赤チームが勝る結果となった。男子生徒や専門家の数においては圧倒的だ。狙撃手二人だけではない。各分野の上位者のほとんどを赤チームが獲得している。超体育着に迷彩を施してくれているチームメイトもその一人だ。
 チームメイトの手によって、体育着が徐々に色を変えていく。二学期から激化の一途をたどる暗殺や訓練を考慮して、秋頃に防衛省から支給された体育着だ。世界最先端の強化繊維、世界最先端の耐久性能、名目は性能試験のモニター、触れ込みは地球最強の体育着。一時的に服の色を変えることもできるため、適宜、偽装効果を施されてきた。今回は戦場が裏山であるので、おそらくは全員が裏山迷彩をまとうことだろう。
「意外だった」
 ふと、その最中に言われた。
「何が」
「青だと思ってた」
 偽装の手は止まらない。
「なんでかって言われても説明できないけど、なんとなく、暗殺に乗り気じゃなさそうだったから」
 私ははたと目を見開いた。チームメイトは何事もなかったかのようにフードに色を吹きかけている。さすがに慣れた手つきだった。クラスに迷彩を施せる者は少なくないが、完成度の面から結局、裏山で暗殺するときは彼の手を借りることになる。そして賞金の分け前という名目のために、彼も積極的に協力してくれた。裏山迷彩ばかりではない。変装、小道具、大道具、引く手あまたのクラスメイトだった。
「たしかに私から菅谷くんに声かけたことはなかったかもな」
「あー、それかな。超体育着が来てからも、あんま迷彩してねーんだ。だからだな。びっくりした」
 チームメイトは器用にもものを思い出すような仕草をとりながら、迷彩を施し続ける。
「でもって『生かすべきじゃない』なんて言うもんだから、もう啞然としたね、俺は」
「そんなに驚くことかな。菅谷くんたちと大して変わらないよ」
 私がそう言うと、チームメイトは手を止めてしまった。また驚かせてしまっただろうかと思えば、ほれ、と彼は手を下ろす。なるほど裏山迷彩の完成らしい。
「ありがとう」
「おう。——けど俺らと変わらないってことは、なくね」
「似たようなものだよ。卒業制作も、要は半端な結末にしたくないってことでしょ。一緒だよ。私も半端な結末を迎えたくない。それだけは一緒」
「ふうん。なんか、そういうとこカルマに似てるよな」
——あいつと一緒なわけない、でしょ。気色悪いこと言うなよ」
 ハハハとチームメイトは笑って、逃げるように次へと向かった。私は追いかけやしなかった。私は私で、ちょうど中村さんに呼ばれたのだ。「カルマが呼んでる」だと。
 中村さんについていくと、旗のそばでカルマが狙撃手二人と話していた。
 当然といえば当然に、カルマが赤チームの指揮を執るらしい。そして中村さんがこの場にとどまっているところを見るに、彼女が副官なのだろう。悪くない組み合わせだ。今日は進んでクラスを分断に導いた二人だが、日頃は手を組んで悪さするような仲でもある。おまけに先の期末テストでは両者共、成績上位者に数えられた。話が合うのかもしれない。渚くんをからかうときなどは、よく息が合うようだから。
 それでは青チームの指揮はやはりクラス委員の二人だろうと考えたところで、狙撃手たちがカルマに背を向けた。偉そうな態度をとられる前に、私はカルマの前に立つ。カルマはつまらなそうな顔をつくって、しかし中村さんには笑顔で礼を告げた。中村さんは笑顔で応じて、やはりカルマの横に立つ。そうして、狙撃手たちとファーストブラッドの話をしていた指揮官様が、何を命令するかといえば、
「戦い始まったら、ちょっと駆けずり回ってきてくんない?」
「独りで」
「うん、死なないでね」
 中村さんが眉をあげた。私ははっきり言ってやる。
「無理」
「もちろん、多対一をやれって言ってんじゃないのよ。交戦は確実に一対一のときだけ、それも一撃離脱でいい」
「カルマ。いくらなんでも、それは無茶じゃないの」
 今度は中村さんも言った。するとカルマは「たしかに」とわざとらしく顎に手を当てる。
「二学期のおまえには、たしかに無茶。——けど今日は一月八日、三学期だ」
 カルマは顎に手を当てたまま、私を見る。
「だったら」
おまえがこっちについた理由はわからないけど、俺らは勝ってる気だよ」
 そうだよね、と私をにらんだ。横で中村さんの口が開きかけて、けれども何も言わない。私は思わずため息をこぼした。
「そうは言っても、そんな指示に従えるのは、うちじゃ岡野さん木村くんくらいだ」
 共に機動暗殺を得意とする生徒だ。赤チームが獲得した専門家二人でもある。元体操部の身体技術と、元陸上部の瞬発力と、方向性に若干の違いはあれど、他の追随を許さぬ機動力の持ち主だ。カルマも、もちろん二学期の私も、機動暗殺では二人とは勝負できないだろう。
 ところがカルマは「わかってるじゃん」と言う。私はまたため息をつく。中村さんは呆気にとられた様子で、私たちを見比べている。カルマは構わず「それで——」と続けた。
——最後は正面戦闘に回ってもらいたいんだよね」
——磯貝くんと前原くんを相手しろってか」
 多くの専門家を獲得した赤チームだが、中には獲得できなかった者たちもいる。たとえば毒薬使い、爆薬使い、クラス委員、そして二刀流の前原陽斗。磯貝くんも前原くんもナイフ術の専門家で、連携攻撃の成績もよい。二人が連携するナイフ術は二位以下を大きく引き離して圧倒的首位、いくら近距離暗殺といえども、やはりカルマの及ばないところである。
 カルマはにこりと笑って答えた。
「俺が二人いれば、かなり戦力が傾くと思うんだけど」
「おまえナイフ術は前原くんに負けてるよな」
「あはは、だから言ってんの」
「じゃあ私も言うけど、さすがに二刀流の岡野さんはやりすぎ」
「それで」
「だから磯貝くんを闇討ちする岡野さんくらいなら、やってらんこともない」
 単独のナイフ術の首位は前原くんだが、磯貝くんも三位だ。その間に挟まるものがカルマであるのだから、悪い提案ではないはずだ。元より岡野ひなた自体のナイフ術も五位と突出しているのだけれど。
「じゃあ、それで」
 ようやくカルマもうなずいた。一方で中村さんは怪訝な表情を浮かべた。今度はカルマもこたえるようだ。
「こいつが岡野ばりに動いて、前原を倒してくれるって」
「一対一ならな」
 私は間髪入れずに訂正する。カルマはにやりと繰り返す。
「そうそう。『一対一なら』ね」
——いや、そうはならんでしょ」
 中村さんは、ほとんどにらみつけるみたいに私を見た。たしかに二学期の私は、岡野さんのような機動力も、磯貝くんに勝てるナイフ術も、どちらも持ち合わせなかった。
「けど今日は一月八日、三学期だから」
 深い呼吸の気配がして、私はそれに背を向けた。指揮も司令も私の仕事ではない。追及はなかった。埒が明かないと判断されたらしい。二言、三言の文句の後に、二人の声の雰囲気が変わる。では私も私の仕事をするとしよう。拳銃を手に持って、BB弾を装填して、ナイフの赤色も目視して、そばに立つ木の枝をつかむ。