糸冬いずく
2024-09-16 00:16:00
157796文字
Public 二次創作:キリングミュータント
 

キリングミュータント【リブーテッド】

完結、夢主あり、赤羽業、暗殺教室、Paranoia

三日月が爆誕した春、新しいクラスが三年E組だろうと、担任教師が犯人だろうと、隣が赤羽業だろうと、成すべきことは変わらない。ミュータントは、すぐそこにいる——。

あなたは椚ヶ丘中学三年E組の女子生徒[$名前が見つかりません]です。
トラブルシューターが前世のミュータントな[$名前が見つかりません]と、隣の席の赤羽業が、ミュータントを殺す話。

クロスオーバーです。複数の作品の要素が登場します。
異世界の描写を含みます。主人公または周辺人物が別の世界へ渡ります。
転生の描写を含みます。主人公または周辺人物が死んで生まれ変わります。
主人公または視点人物が異性からの性暴力の被害に遭います。
主人公または視点人物が暴力の被害に遭います。


  三

 母なるコンピューターは市民——よりもボット——を大事にしている。
 先生は契約があっても生徒に報復する。
「何か話した」
 丸一日まともな授業を受けた翌朝、赤羽は再度遅刻せず、朝も昼も話しかけてきた。何か話したかと。とはいえ私の返事は「まだ、あんまり」だ。話すことなど何もない。隣の席のクラスメイトにならって、二つ隣に目を向けてみると、空席を挟んだその席には人だかりができているけれど。まるで教室に転校生でも来たかのようで、その中心には当然に真実転校生である筐体が昼休みを盛りあげている。
 転入三日目、機械の体は無粋なテープを失い、かわりに二倍の体積と全身ディスプレイを手に入れた。
 改良、されたのだった。
「せっかく話せるようになったのに」
「赤羽くんは」
「挨拶した」
「まあ、あれじゃあね」
 転校生暗殺者は二日遅れで漫画の登場人物のように人気を博し、授業中には生徒の不正行為を助け、武器の代わりには小型『ミロのヴィーナス』を成形し、将棋が強かったクラスメイトのことはただ三局で打ち負かした。そういうことをするようになった。
 もはや転校生の姿は、顔面を描画されるばかりではない。胴体を手に入れ、背面を用意し、アバターは今や3DCGで構成される。制服を着て、ほほ笑む真似ができる。おそらくは、そこが先生の改良の中心だった。
 先生は先生になるに当たって、契約で生徒への加害を禁止された。だが先生は生徒の相談に乗るものだ。今回の転校生はいわば協調能力に関する悩みを抱えていた。そこで先生は協調能力の重要性を、この機械の至上命題である暗殺に関連づけて言語で説き、さらに学習の手助けをしたということだ。ソフトウェアである。施された改造は豊かな表情と明るい会話術をはじめ、実に九百八十五点。
 百億円の賞金首は報復として手入れする。
「ってことで俺はパス」
 赤羽は私たちの前の空席を見た。「後で奥田さんか千葉に聞くよ」
 私もこればかりは同感だった。私たちの左側には、今やクラスの大半が集まって、かつて傍迷惑な暗殺者だった転校生と話すために列さえ形成している。その中ほどで、ちょうど茅野さんが手をあげた。コンピュータグラフィックスが少女の笑顔をかたどる。「茅野ちゃんでもいいな」と隣のクラスメイトはつぶやいた。
「あんたも話したら感想を教えてよ」
「さすがに明日は自分で話したら」
「今日、話すでしょ」
「『今日』」
 私は繰り返した。
「『今日』」
 赤羽も繰り返した。
「今日は、ちょっと」
 私は左側を見た。赤羽も同じ場所を見た。
「今からでも話してきなよ」
 笑みを浮かべていた。だから「どうしたの」と尋ねてみた。それが嘲笑でも失笑でも苦笑でもないことはわかっていた。赤羽が他者と対面するときにはりつける表情だ。だから、
「赤羽くん、すごく気にしてるのに、なんだか順番を譲ってくれてるみたいだから」
 赤羽は口を閉じた。口を閉じたら笑みも消えた。この私は返事を待った。やがて赤羽が目を細める。
「そうかもね」
「あ、そう、なんだ」
「うん。でも俺はいいや」
 赤羽は視線を下に向けた。下。私の手元だった。机の上に閉じた文庫本。
「今、何ページ」
 聞かれるままにしおりを探すと、まもなく重くなった左手の親指の先に、二十七の数字。答えようとしたけれど、赤羽もすでにそこを見ていた。
「私も明日ちゃんと話すよ」
「『明日』ね」
「この様子なら『明日』かな」
 私は再び本を閉じ、左側に目を向けた。一昨日は銃を構えたが『ミロのヴィーナス』の他をせがまれ、将棋の四局目を期待され、画面の中の映像は笑顔でそれらに応答する。赤羽はもう何も言わなかった。転校生の背景、すなわち開発者の目的を鑑みるに、この強行が見過ごされない可能性は十分にあった。
 いずれプログラマーがメンテナンスに訪れる。そのとき現状を目の当たりにした連中が考えることを、悲観らっかん的に予想すると——