糸冬いずく
2024-09-16 00:16:00
157796文字
Public 二次創作:キリングミュータント
 

キリングミュータント【リブーテッド】

完結、夢主あり、赤羽業、暗殺教室、Paranoia

三日月が爆誕した春、新しいクラスが三年E組だろうと、担任教師が犯人だろうと、隣が赤羽業だろうと、成すべきことは変わらない。ミュータントは、すぐそこにいる——。

あなたは椚ヶ丘中学三年E組の女子生徒[$名前が見つかりません]です。
トラブルシューターが前世のミュータントな[$名前が見つかりません]と、隣の席の赤羽業が、ミュータントを殺す話。

クロスオーバーです。複数の作品の要素が登場します。
異世界の描写を含みます。主人公または周辺人物が別の世界へ渡ります。
転生の描写を含みます。主人公または周辺人物が死んで生まれ変わります。
主人公または視点人物が異性からの性暴力の被害に遭います。
主人公または視点人物が暴力の被害に遭います。


  二

「堀部イトナだ。名前で呼んであげてください」
 訪れた転校生は保護者を伴っていた。席は今度こそ私の隣、つまり自律思考固定砲台の隣である。そこには、きちんと机と椅子があって、彼自身も人間らしい姿をしていた。体型は渚くんと同程度に小柄で、頭部は短髪、制服は指定のブレザー。ただしワイシャツの代わりに黒のハイネック、ズボンは指定外の白色、首周りのファーティペットは季節外れもよいところだったが、彼の保護者も全身を——頭部も顔まで——隠すほどの白装束だ。
 そして容姿や保護者の他に目を向ければ、結局は数週間前に勝るとも劣らぬ非常識な転校生だった。あれは機械のいで立ちで強い印象を与えてくれたが、今日の転校生は教室の壁を突き破って席に着いた。冗談みたいな真実だ。呼吸、歩行、着席、その道程に壁があったから、歩行して着席するまでに壁に穴が開いてしまった。それくらい無味乾燥に。
 おかげで私の背後は屋外に接続して、教室にいながら、肌に雨の気配を感じる。耳を澄ますまでもなく雨音が入り込んでくる。教室は静けさに包まれた。誰も彼もが、先生さえ反応に困っている。
「ああそれと」
 真白の保護者はものともしなかったが。「私も少々過保護でね。しばらくの間、彼のことを見守らせてもらいますよ」
 黄色の超生物は表情もつくれずにいた。皮膚の色は変わらなくとも、つぶらな瞳と大きな口が、笑顔か真顔かをつくろうとしては失敗している。
 並び立てば先生の動揺は一目瞭然で、いかにも滑稽な様子だった。もっとも比較対象は顔色はおろか造形もわからないのだけれども。
 名は体を表す。全身白装束の覆面の保護者は最初に「シロ」と名乗った。

 時は穏やかに流れた。自律思考固定砲台のときと同じく、又は異なって、私の周囲は静寂を保ち続けている。理由は幾つも考えられるが、一つは確実に新しい設定が原因だろう。なぜか転校生暗殺者は先生を「兄さん」と呼ぶ。なぜか兄は首も手も横に振ったけれど。「先生、生まれも育ちも一人っ子ですから」と。
 いわくの弟もその保護者も、一切の補足を挟まなかった。一切、何もしなかった。初めに放課後の暗殺を予告したきり、おとなしく席に着いている。休み時間に教室を離れても、必ず授業の前には戻ってきて、教科書も文房具も出さなくても、必ず椅子には座っていた。
「教科書も持ってくればよかったのにね」
 逆隣のクラスメイトが口にしたとき、転校生は雑誌を開いていた。強いて言えば彼は食事読書をした。
 先生も生徒も拍子抜けだった。機械の転校生は言わずもがな、潜入暗殺者のビッチ先生とも一悶着はあったのだ。クラスメイトさえ四月は授業中に暗殺をしかける者がいた。それらの解決には、協調性の学習や、利害の一致や、マッハ二十の怪物の脅迫的な手入れが必要だった。人に笑顔で胸を張れる暗殺——先生の教育理念の一つだ。今日の転校生の授業態度はそれには必ずしも見合わないだろうが。
「よっぽど自信があるんだ」
 黒色のカーディガンは嫌みに続けた。さすがに話し相手は張本人ではなく、それに奥田さんが怖々こたえる。
「みんなの暗殺もまったく気にしていないみたいです」
 クラスの能力に見切りをつけたのだろう。今朝の転校生によると、私たちの中では赤羽が最も強いということだ。実際に赤羽は喧嘩が強く、射撃ボット以前に教室で先生を傷つけた唯一の人物である。しかし三年E組は今日まで引き続き暗殺教室だ。誰も殺せないと踏んでいるのだ。転校生自身を除いては。
 転校生はその強さの程をを殺すことで証明してくれるそうだ。
「どんな暗殺をするんだろうね」
「あんたも放課後は残るの」
「うん。やっぱり気になるから。何が起きるか想像もつかなくて」
 ヒトとタコ、兄と弟。血縁でなし、クローンでなし。目には目を、歯には歯を。触手には触手を、改造人間には改造人間を。
 その放課後、転校生の短い学校生活に、一旦の幕が下りた。

 いずれにせよ奥田さんも赤羽も、E組一同は教室に残った。あるいは残らされた。
 放課後、直前のホームルームまで沈黙を貫いていた転校生と保護者が一転、軽い足どりで動き出した。保護者は教室をつくり変え、机がさながらリングを描く。格闘技の試合会場である。彼は先生と転校生を中央に招き、観客を壁に沿うように立たせた。
 三月から今日まで三か月、およそ前例のない暗殺だった。烏間先生より誰より標的自身が驚いたのだ。何よりマッハ二十の超生物に太刀打ちできるだけの性能を考慮すれば、戦闘や試合といった形式は候補にあがる前に除外されるべき選択肢だ。
 しかし白装束は審判員に扮した。「リングの外に足がついたら、その場で死刑。どうかな」
 審判員の提案を王者は否定しなかった。先生には基本的に余裕がある。絶対に誰も己を暗殺できないという、よく言えば自信、悪く言えば油断の表れだ。以前戦闘機に誘導弾で狙われたときはその破片をつなげて返したそうだから、まあ当然の態度だった。そして審判員は尋ねる体をとりながら、この事実をよく理解していた。王者たる教師が、観客たる生徒に危害を加えないことを約束させても、規則の穴に気づいていても、そのうえで塞がないでおくことまで、知り尽くしているようだった。
 それは決して無茶ではなかった。これは周到に用意されていた。挑戦者には勝算があった。彼の手駒——転校生——はそれだけの性能を備えていた。事実、彼らの最初の攻撃は触手による腕の切断だった。
 兄弟設定の根拠が誰の目にも明らかになったとき、まず先生がかつてなく動揺して、次にクラスの大半が状況を把握した。そして把握できなくなった。触手同士の対決は、常人の視力で追い切れるものではない。
「この圧力光線を至近距離で照射すると、君の細胞はダイラタント挙動を起こし、一瞬全身が硬直する」
「その脱皮は見た目よりもエネルギーを消耗する。よって直後は自慢のスピードも低下するのさ」
「イトナの最初の奇襲で腕を失い再生したね。それも体力を使うんだ」
「触手の扱いは精神状態に大きく左右される」
 かように、ありったけに呪われなければ。
 白装束の袖の奥が輝く。また圧力光線だろう。それは呪詛のとおりに、標的の全身を硬直させる。触手が空を切る。同時に二本の脚が失われる。
 時間にして一分半。ただのこれだけでここまで先生を傷つけた暗殺者も、今は彼をおいて他にないだろう。
「やれ、イトナ」
 それでも化け物は死なないでいてくれるけれど。