糸冬いずく
2024-09-16 00:16:00
157796文字
Public 二次創作:キリングミュータント
 

キリングミュータント【リブーテッド】

完結、夢主あり、赤羽業、暗殺教室、Paranoia

三日月が爆誕した春、新しいクラスが三年E組だろうと、担任教師が犯人だろうと、隣が赤羽業だろうと、成すべきことは変わらない。ミュータントは、すぐそこにいる——。

あなたは椚ヶ丘中学三年E組の女子生徒[$名前が見つかりません]です。
トラブルシューターが前世のミュータントな[$名前が見つかりません]と、隣の席の赤羽業が、ミュータントを殺す話。

クロスオーバーです。複数の作品の要素が登場します。
異世界の描写を含みます。主人公または周辺人物が別の世界へ渡ります。
転生の描写を含みます。主人公または周辺人物が死んで生まれ変わります。
主人公または視点人物が異性からの性暴力の被害に遭います。
主人公または視点人物が暴力の被害に遭います。


  三

 最終的に、都の東側で電車を降りた。ここには、正月になると毎年のように報道されるような神社がある。それほど有名なだけあって、道いっぱいの行列は敷地の外まで伸びていた。ここまで来たら引き返しやしないが、さて同行者はどうかなと横を見たら、彼は進んで最後尾についていった。
 椚ヶ丘から遠く離れてしまった。学園の生徒が一人も住んでいないとは言わないけれど、クラスメイトは一人もいない。たしかに進学実績は優れているが、同様の実績は都内を探せば見つかるのである。あとは通学距離を増やしてまで、創立十年という新しさを選ぶかだ。
 私たちはすぐに最後尾でなくなった。人混みにもまれながら、少しずつの移動を繰り返す。読書で暇を潰すことは不可能ではないが控えておこう、といったところだ。一般的には現状は、はぐれる危険性を秘めていた。
「めんどくせー」
 十分ほど移動したところで、自ら長蛇の列に加わった同行者が愚痴を吐くようになった。
「ここ選んだの、おまえ」
「そうだけど」
 まったく。文句を声に出すくらいなら、別の神社もあっただろうに。もっと知られていない、もっと大きくない、もっと遠い——
「せっかくだしデカいとこ行っとくかって」
 カルマが道の脇に顔を向ける。交通安全、厄除開運、学業成就。御利益の記された、のぼり旗だ。カルマはそれらと私を交互に見た。
「あ、おまえには関係ないか」
「呼び出しといて、よく言うよ」
 私はあきれて息を吐く。と、十メートル先の拡声器から声が響いてきて、私たちは口を閉じた。再び列が動くという。正面を向いて、やがて一歩、二歩、三歩。ゆっくりと前進して、それだけで停止させられたが、カルマは文句もつけずに従った。もちろん従わなければ、大行列で大顰蹙を買うか、大行列に踏みつけにされ続けるかだ。
 それが、ただ黙り込んだだけのことだと気づくとき、私は再び前進の合図を受けとっていた。
「なんで来たの」
 わざわざ拡声器にかぶせられた声も、ミュータントの耳にはよく届く。歩きながら横目を向けると、カルマは顔をそらすように外を見ていた。視線の先には、何の変哲もない貸しビルが建っている。一階に事務所、二階に事務所、三階に事務所といった塩梅の。仕方がないから返事の時は、ヒトの耳を考慮してやって、
「呼び出されなきゃ来なかった」
 動きが止まってから答えてやった。カルマは正面に顔の向きを戻した。
「急な呼び出しだったでしょ」
 まるで応じてほしくなかったような物言いをした。
「冬休み、正月、そもそも俺ら受験生。三つ四つどころじゃなかったと思うんだけど」
「ま、そうだな」
 たとえ以前の私であっても、態度には罪悪感をにじませながら進んで辞退しただろう。断る理由さえあれば、カルマからの誘いなどいつだって断りたかった。もちろん現在の私なら理由がなかろうと断れることを、もちろんカルマは知っている。だが、
「冬休み引きこもってたら、親がクソほど心配してきたの」
 食卓で手を合わせたら、予定を聞かれた。いたって平凡な質問のようで、もう毎朝、たとえ正月三が日だろうとも。私は毎朝、返事をする。ちょうどカルマがあげたように、みんな冬休みだから正月だから受験生だから、と。きっと苦しい言い訳に聞こえた。
 今年いや昨年は、何かにつけて外に出た。模試があろうがなかろうが、週末だろうが夏休みだろうが。半分は勉強、半分は暗殺。当然、両親には、暗殺の件は伏せて伝えていたけれど。それに比べたら、この冬休みは異常だったかもしれない。学期末に学校で何か起きたのだろうかと、勘繰られても無理からぬ落差だ。まさか二度と訪れないかもしれない年末年始を家族で過ごしたいだろうからとは国家機密のために言えないわけで、実際、何か起きたところでもある。
 新年の挨拶を除けば、今朝のカルマからの呼び出しが、この冬休み初めての連絡だった。当然、学校には行っていない。モバイル律の言葉では、他のクラスメイトも敷地に近づくことさえしていないという。
「そう」
 カルマは短く言葉を切った。どこか納得したように、どこか落胆したように。
「どうせ断られると思ってた」
 断られることを期待していたような言い草だった。
「なら最初から連絡すんな」
 私はそう言いながらも、カルマの言動について、つじつまを合わせてしまう。
「だから、なんか急だったのか」
「三十分後の約束なんか、一も二もないだろうなって」
 列がまた動く。
「当てが外れて残念だったな」
「本当それ」
 失礼なやつだった。椚ヶ丘から、いや旧校舎から離れたかったなどということは、絶対に言いたくないくせに。
「道理で二人きりになるわけだ。渚くん寺坂くん奥田さんは、誘えば来てくれるはずだもんな」
——わざわざ言うことある」
——おまえが、わざわざ言ってくれそうなことだろ」
 前に進んだら、私たちはいよいよ鳥居をくぐる。

 先生は「死神」と呼ばれた殺し屋だった。かつて生徒にはぐらかした答えを、この冬休みの直前になって、自ら明かし、過去を語った。どうしてこの教室に来たのか、どうして怪物になったのか。それは二年弱の人体実験から、拾い育てた弟子の裏切り、果ては生い立ちにまで及ぶ人生と後悔の話だった。最後まで話したくなかったと吐露されたそれを、茅野さんが打ち明けさせた。
 茅野さんは転校生暗殺者だった。政府の手によるものではないが、四月の新学期の最初の日に、自らE組を訪れたのだ。ビッチ先生も烏間先生も正体を知らなかった。それもこの冬、長期休暇直前までのことだが。彼女は満を持して殺しにかかり、失敗すると秘密を打ち明けた。つまり、すべてはあだ討ちのためであると。
 長らくのクラスメイトの豹変と、併せて人殺しの告発によって、さすがに先生としても話さざるを得なくなったというところが実情だ。
 そして二人の告白はクラスメイトたちに決定的な一撃を与える。
 ——鳥居をくぐると道が分かれた。細く脇道にそれていく流れは、手水舎へと続くものだろう。参拝前に心身を清めるのだ。いわゆる作法の一つだが、全員がとり組んでいる様子はない。私もまっすぐ賽銭なり参拝なりに向かいたいところである。だって手水舎の水は冷たい。
「え、やらないの」
 カルマは僅かに眉をあげた。私も同じ仕草をしたことだろう。
「え、やるの」
 さも意外そうに。
「こういうの面倒臭がる人だったんだ」
「おまえこそ面倒臭がると思ってたよ」
 しかし同行者は作法に従う道を選んだようだった。ちょうど「立ち止まらないでください」の声も響いた。こうなったら逆らうほうが面倒だ。渋々と後に続いたら、同行者に顔を見られて、かと思うと「うわ」と声があがった。
「すっげー嫌そうな顔」
「そこまでじゃない」
「いやいや、そうは見えないって」
 カルマはからかい交じりに笑った。「まっ」とわざとらしいまでに表情をはりつけて、
「せっかくだから、やってこーぜ。大丈夫、大丈夫、ちょっと水が冷たいだけ——
——だから、そんなんじゃない」
 手水の列は大行列に比べたら細く短く、すぐ私たちの番が来る。
 右手で柄杓の柄をつかんで、冷水をくみ上げ左手にかける。次は左手で右手に冷水をかけ、再び右手で柄杓を持つと、左手にためるように冷水をこぼす。そのまま左手の水で口をすすぐと、今度は柄杓を持ち替えずに、改めて左手に冷水をかける。最後は柄杓を立てるように、両手で持って水をこぼした。
 とまあ、粛々と済ませれば、こちらもすぐに終わるような作業だ。カルマも私より少し早くに、柄杓を伏せて後ろに下がった。私も同じく戻して下がり、冷たくぬれた手はハンドタオルで拭う。そうして、かじかむ手をもんでいると、その手元をカルマがじっと見てきた。あちらは、すでに水気も拭き取ったようで、両手を外套のポケットにしまっている。
「何」
「面倒臭がった割に、ちゃんとやってたじゃん」
「それが作法ってもんだろ」
「そういうもんか」
「そういうもんだよ」
 それから二人で列に戻った。大行列は大行列のまま、合図とともに少しずつ前進する。いよいよ数十人の先に、参拝の様子がわかるようになると、カルマは財布をとり出した。
「五円玉は」
「あるよ。持たされたから」
 私も財布をとり出し開く。小銭入れの中には五円硬貨が五枚も入っている。お友達が困っていたら渡してあげなさいと、財布をひっくり返してまで持たせてくれたものだ。実際にはこのクラスメイトと二人きりで、さすがにこいつは用意がよい。これが寺坂くんや杉野くんなら役立つ場面もあっただろうが。
 私たちはそれぞれ自分の硬貨を握り締め、とうとう一つ前の組が賽銭箱の前に立った。硬貨が落ちて、頭も落ちて、手が合わさって、次の組へ。つまりカルマと私の番である。
 箱が社殿の前に置かれている。握った物を適当に放ると、それは吸い込まれるように奉納された。ひゅうと口笛が聞こえてくるようで、現実にはカルマの五円硬貨が同じく綺麗に入った音がする。
 私たちは示し合わせたわけでもないのに、二人でそろって姿勢を正した。共に頭を下げると、まるで教室のようだった。教室では二礼も二拍手もしないけれど、両手を打った音まで重なる。そして両手を合わせたまま、一秒、二秒。カルマは何を祈ったのやら、たっぷり六秒たった頃、両手を下ろす気配がしたので合わせ、再び共に頭を下げた。教室で礼をするよりずっと深く。
 祈ったとか祈らなかったとかの話はしなかった。ただ次の組に場所を譲って、周囲に合わせてゆっくりと歩いた。カルマは私が祈らないことを知っている。私はカルマが念じたことを知っている。かつてそれは目標だった。三年E組の目標だった。三月までに先生を殺す。ただそれだけのことが、この冬まで生徒を強固に結束させた。この冬休みの直前まで。
 この冬も暗殺旅行の計画があった。夏休みのように学校制度を利用したものではないが、夏休みの暗殺が奥の手中の奥の手を引き出したことから、冬休みはすべて政府から予算が下りる。外部進学のE組は受験を控えているものの、いや、だからこそ冬休みで殺す心算だった。過去形である。今となっては。旅行は立ち消え、そして目標までもが揺らいでいる。
 正体が判明しても、地球の未来は変わらない。昨年三月、月面で実験動物がそれを証明した。先生が受けた人体実験は、あと二か月で彼を爆破する。暗殺されてもされなくても、彼は三月十三日までに死ぬ。それでも彼はこの教室に来た。余命一年を暗殺教室に費やした。どうしても。それが恩人の遺言だったから。人体実験の日々で出会った彼女は、主任研究員の婚約者で、危険な実験体の監視者で、しかし互いに身の上を語るまでに至った相手で、歳の離れた妹を持ち、昼間は中学校の教師として働いていた。
 先生は前任教師に私たちを託されたのだ。そして、そのためだけに命を懸けているのだ。最初から最期まで。
 どうして怪物になったのか、どうしてこの教室に来たのか。クラスメイトたちはいざ答えを知ると、人類存亡の危機をより克明に理解するとともに、暗殺しないという選択肢を思い浮かべてしまったようだった。——先生に死んでほしくない、と。
「ねえ」
 カルマは前を見たまま言った。行く手には参拝とは異なる人だかり。それは立ち並ぶ天幕の前に複数の列を成しており、またそうでない人々は一様に手元をのぞき込み一喜一憂の表情を浮かべる。
「何、最後の三か月弱を二百円で占おうって」
「バッカじゃないの——正月なんだから今年一年を占うんだよ」
 ということで、これからの十二か月間を二百円で確かめてみた。一緒に並んで一緒に引いて一緒に広げて、
「中吉」
「大吉」
 にらまれた。私が運気を操作したとでも言いかねない眼力だった。ぬれ衣だと言っておいたが、彼はミュータントパワーを知っている。そして私はたしかに豪運アンキャニー・ラックを持っていた。話したことはないけれど。元よりミュータントパワーの発動は、ヒトの身で証明できるような事象でもない。
「私の勝ち」
「勝負とかしてないから」
 それから私たちは再び売店に並んだ。今度は別々の列に並んだ。どこに並んでも品ぞろえは変わらない。私は千円を支払って、合格守を一つ購入する。
 そうして列から離れ、少し待つとカルマが買い物を終えた。少々時間がかかったようだが、変わった荷物は見当たらない。当人も何も言わないから、私も特には聞くことなく、そのまま売店を離れてしまう。足は自然と帰路に向かった。砂利を踏んで歩いて、やがて二人で鳥居をくぐる。——直前になって、カルマが口を開いた。
「最初から全部わかってたんじゃないの」