糸冬いずく
2024-09-16 00:16:00
157796文字
Public 二次創作:キリングミュータント
 

キリングミュータント【リブーテッド】

完結、夢主あり、赤羽業、暗殺教室、Paranoia

三日月が爆誕した春、新しいクラスが三年E組だろうと、担任教師が犯人だろうと、隣が赤羽業だろうと、成すべきことは変わらない。ミュータントは、すぐそこにいる——。

あなたは椚ヶ丘中学三年E組の女子生徒[$名前が見つかりません]です。
トラブルシューターが前世のミュータントな[$名前が見つかりません]と、隣の席の赤羽業が、ミュータントを殺す話。

クロスオーバーです。複数の作品の要素が登場します。
異世界の描写を含みます。主人公または周辺人物が別の世界へ渡ります。
転生の描写を含みます。主人公または周辺人物が死んで生まれ変わります。
主人公または視点人物が異性からの性暴力の被害に遭います。
主人公または視点人物が暴力の被害に遭います。


十月、又は中間テスト

  一

 中間テストがあった。昨日のことだ。つまり今日が成績発表で、クラスメイトの表情は浮かない。朝の山道どころか、テストの前から落ち込んで、終わればなおさら。いや今朝は一周回って持ち直していたようなところがある。理由は明白。数字が芳しくなかったのだ。原因もまた単純明快で、テスト直前ちょうど二週間、先生が授業をしなかった。あるいは別の授業をしたのだと、彼ならそのように言うのだろうか。
 進学校のテスト直前の特別授業。E組一同は椚ヶ丘市内の保育施設で働いていた。職場体験とも言い換えられるようだったが、実態は損害賠償だ。クラスメイトが暗殺技術で不幸な事故を起こしてしまって、その連帯責任をとらされた形だ。同施設の園長を務める被害者が退院するまで、かわりに運営を手伝うようにと。しかし感想を最悪の一言で締める者は、このクラスにはいないだろう。
 当然テスト勉強はできなかったが。
 結局、答案用紙が返却されたら教室の空気は重々しく沈んだ。満足に勉強できなかった。満足に得点できなかった。成績が前回以上だったとしても、もっとよかったかもしれないと見ることはできる。ということで私も一緒に重たい気分だ。——子供の存在を抜きにすれば、あの二週間は最高だったけれど。
 先月の担任教師下着泥棒疑惑の頃よりは活気がある、という程度のホームルームを終えて、荷物と一緒に立ちあがったところで、右隣の席の椅子も引かれた。原則として山道は一つ。同時に席を立った以上は、同時に下山することになる。私は無言で下り坂に立ったが、他者にまで強要することはできない。
「何考えてたか当ててやろうか」
「おめでとうって思ってたんだよ」
 仕方がないので教室では言えなかったことを伝えてやった。隣の赤羽は「どうも」とこたえた。先より小さな声だった。そこで一旦会話が途切れ、歩くだけになり、そういえばと思い至る。私たちは久しぶりに、帰り道を共にしているらしい。
 保育施設では元より見かけることもまれだった。その前は体育祭だ。体育祭の頃は、放課後も各種目の特訓だった。そして、さらに記憶を遡ると、ようやく一緒に渚くんや奥田さんの記録もひも解かれる。帰り道に赤羽がいるとき、そこには大抵、渚くんや奥田さんがいるものだから。
 渚くんや奥田さんがいたから、赤羽がいたとも言えて、茅野さん、杉野くん、神崎さんもいた。示し合わせたわけでもないが、私は茅野さんと奥田さんと神崎さんとの行動が多く、赤羽も渚くんと杉野くんとの行動が多い。それだけのことだ。示し合わせたわけではないので、そこに赤羽がいないことは珍しくもなく、珍しくも赤羽と二人になったこともある。
 あるいは赤羽が見計らったかだ。
 私たちは最初に二言、三言を交わした後はさも偶然を装って、口を閉じた。つかず離れず山を下りた。時々クラスメイトが駆け下りたけれど、私たちの速度は変わらない。そして赤羽がものを言わなければ、私たちの間に会話はないから、静かな帰り道だった。やがて舗装された道路に出た。徐々に本校舎が近づいて、環境音は喧噪へ。角を曲がると、一気に同じ制服が増える。
 駅まで一緒に歩くつもりか、いよいよ正門前を過ぎたが、赤羽が道を外れる気配はない。私も普段は寄り道をしないから、珍しくも今日は同じ電車に乗るのだろう。私の通学定期券は、赤羽の区間と重なっている。朝は登校時間が違うけれど、こうして駅まで一緒に歩けば、一緒に電車に乗ることもある。しかし、
「拍子抜けだったなァ」
 やたら大きな声がした。私たちは、どちらからともなく顔を見合わせた。相手が赤羽でも私でもないことはわかっている。だが彼らの嫌みはよく響いた。
「やっぱり前回のはまぐれだったようだね」
 そして、まるきり他人事でもなかった。
「棒倒しで潰すまでもなかったな」
 私たちは足を止めて振り返った。すでに過ぎた道に、知った顔ぶれが並んでいた。正門のそばにA組が五人、さらに向こうにE組が三人。今日はクラスメイトには分の悪い組み合わせだ。夏の期末テストから一転、E組の大半が上位を逃し、A組は順当に序列を奪還したばかりだ。かの三人も例に漏れず、一方のA組五名は、万年首席の生徒会長を筆頭に、学年順位を指折り数えて五本、六本の成績上位者たちだった。
 浅野学秀生徒会長は終始無言でいたが、とり巻きの侮辱はとどまるところを知らない。
「言葉も出ないねェ。まあ当然か」
「この学校では成績がすべて。下の者には、上に対して発言権はないからね」
 あーあ。声にはならなかった。もっと面倒なことになるぞと予測だけした私の隣で、ほら、クラスメイトが一歩を踏み出す。「へーえ」だと。
「じゃ、あんたらは俺に何も言えないわけね」
 来た道を戻る学年二位、勢いよく振り向いた三位から六位まで。開いた口がしかしものも言えずにいる様を、私も黙って眺めておく。
 クラスメイトはA組五名の間を抜け、E組三名を背に立った。「気づいてないの。今回本気でやったの俺だけだよ」
「他のE組みんなは、おまえらのために手加減してた」
 そう言った。「でも、次はみんなも容赦しない」
 内部進学の本校舎三年と、高校受験のE組とでは、三学期から授業が変わる。伴ってテストの内容も条件も変わる。——宣戦布告である。
「二か月後の二学期期末、そこですべての決着つけようよ」
「上等だ」と浅野くんはこたえた。
 ほら、面倒なことになった。私は蚊帳の外で少しだけ高い所を見た。どこかの屋上の柵の上で、黄色の巨体が夕焼けを浴びている。大きな三日月の笑みの前に、触手が一本だけ立てられた。私はおとなしく正面に意識を直す。先の期末テスト以来、A組とE組は強く対立している。その事実上最後の対決とあらば、遅かれ早かれ開戦するはずだった。
 諦めをつける間に、赤羽がクラスメイトを連れてきた。彼らはそこで初めて私に気づいたようだった。同じくA組からも認識されていなければよいのだが。確認はできないまま下校が再開する。クラスメイトが三人も増えると、一気ににぎわいも増す。結局は電車で二人に戻るとしても、駅までの同行者を拒絶する道理はない。
 こうして当初の想定よりもずっと精神衛生上よろしい帰り道となった。クラスメイト三名とは何事もなく改札の中で別れ、結局は赤羽と二人で電車を待つことになったが、乗降口を定めたら、各々イヤホンを装着する。次の電車の到着まであと六分。五分、四分、——それから合成音声に耳打ちされた。遅れて放送が響き渡る。
「人身事故だって」
 隣のクラスメイトが片側だけイヤホンを外していた。「ちょっと歩こうぜ」
 耳元で合成音声が再開時刻を算出する。私は両側のイヤホンを外してこたえた。

 赤羽と「ちょっと歩く」べく駅を出た。行き先を決めずに来てしまったが、少し遅ければ改札を通るときに苦労しただろう。ということで、ひとまず行き先を話しながら歩いた。どうせ最大の目的は運転再開まで時間を潰すことだ。
「行きたい所あるならつき合うよ」
「それが今は特にないんだよね。赤羽くんは」
「俺も特には。ってなると——飯」
「たしかに、そういう時間かも。カフェでもいいけど」
 駅前は飲食店には事欠かない。すぐ先を見るだけでも、和食、洋食、コーヒー、カレー——。「そういえば」と赤羽が言った。
「カレー、好きなんだって」
「え、うん。好きだよ」
 足は止まらなかった。「話したことあったっけ」
 私は首をかしげた。振り返っても記憶にない。普段、好きな食べ物を詳らかにすることは少ない。現に赤羽のことで知っている好物はいちご煮オレだけだ。昼食を共にすることはあれど、教室でカレーライスを食べたこともない。飲食店に入ってわざわざ食べることもない。カレーライスは著しく制服を汚しうる料理の一つだ。何より私が好むカレーライスは——いや、
「わかばパークでつくったことがあったね、カレーライス」
 テスト前にもかかわらず通い詰めた保育施設は、鬱陶しいほど子供がいるくせ、職員は園長の他に一人きり。さらには雨漏り、床が抜けるほどの老朽化に対応することもできていない。どれもこれも園長が破格の安値で児童を引き受けるせいだった。だが経緯からいっても我々は文句をつけられる立場にない。かわりに手分けしてなんでもしたのである。
 通常業務を疎かにすることはできないが、子供たちも鬱陶しいとはいえ元は職員二人で回せていた規模だ。二十人以上でかかりきりになることではない。そのうち私はもっぱら裏方で、調理班の一員だった。カレーライスは五日目の献立だ。
「たしかに原さんと村松くんと話したかも。小学校の給食、カレーは人気だったよねって。そのときかな」
「そ。ちょっと聞こえてた。カレーとデザートが楽しみだったんだって」
「聞こえてたんだ。ちょっと恥ずかしいな」
 私が照れてみせても、赤羽は構わなかった。「どうする」
 行く手に再びカレー屋の看板。
「そんなの私は是非ってこたえる、けど」
「いいよ。俺もカレーの気分になってきたし——おまえも成績あがってた」
 ちょうど店の前で足が止まった。
「四百七十五点、学年十位。おめでとう」
「ありがとう。覚えててくれたんだ」
「当然。忘れるわけない」
 まあ多少は覚えやすい点数で順位だが。赤羽はさらには言わなかった。この私も追及しなかった。「どうする」と再び聞かれたらあとは素直にうなずくだけだ。
「お言葉に甘えて」
 初めて入る店だったが、席に案内されたら、互いに顔を見合わせて、簡単に品書きを確認し、その場で注文を済ませてしまった。標準の辛さ、標準の量、おすすめのカレーライス。激辛カレー大盛はクラスメイトが。このクラスメイトは、あれで行儀の悪い客にはならないから、はた目には問題なく食べきることをしていた。私たちは何事もなく店を出た。
 やがて人工知能の報告を受けて駅に戻った。黙りこくって改札を抜けた。電光掲示板には遅延の知らせ。プラットホームでイヤホンを探し始めたら、冷たい風が吹いてきた。秋でよかった。白色のカーディガンが肌寒さを防いでくれる。隣で電車を待つクラスメイトも、腕を曲げて黒色の長袖を見ていた。同じことを考えていたかは、私の知ったことではない。
 無言で電車を待って、乗り込んで、並んで立って、私が先に降りた。軽く別れの挨拶をした相手は、今日は同じ電車で次の駅へ向かった。それでも十二時間もすれば顔を合わせる羽目になるけれど。

 朝を迎えてまで、もう十時間だなどとは、さすがに私も数えてはいなかった。ただ普段のとおりに支度を済ませ、普段のとおりに駅まで歩いた。いつもの改札から、いつものプラットホームへ。それから、いつもの乗降口を探して、ふと黒色のカーディガンが目に留まる。椚ヶ丘の制服に酷似したズボン、背丈は目測百八十センチ未満、耳にイヤホン、片手に参考書。
「おはよ」
 柱のそばのその人物に、私も同じ言葉でこたえる。