糸冬いずく
2024-09-16 00:16:00
157796文字
Public 二次創作:キリングミュータント
 

キリングミュータント【リブーテッド】

完結、夢主あり、赤羽業、暗殺教室、Paranoia

三日月が爆誕した春、新しいクラスが三年E組だろうと、担任教師が犯人だろうと、隣が赤羽業だろうと、成すべきことは変わらない。ミュータントは、すぐそこにいる——。

あなたは椚ヶ丘中学三年E組の女子生徒[$名前が見つかりません]です。
トラブルシューターが前世のミュータントな[$名前が見つかりません]と、隣の席の赤羽業が、ミュータントを殺す話。

クロスオーバーです。複数の作品の要素が登場します。
異世界の描写を含みます。主人公または周辺人物が別の世界へ渡ります。
転生の描写を含みます。主人公または周辺人物が死んで生まれ変わります。
主人公または視点人物が異性からの性暴力の被害に遭います。
主人公または視点人物が暴力の被害に遭います。


  二

 椚ヶ丘中学校三年E組の生徒は、即席の暗殺者に仕立てあげられた。当然期待されてはいないが、標的がクラス担任なら、生徒には数多の機会が予想される。くわえて教室の立地もよい。政府は賞金首には教職を認め、生徒には賞金を示した。クラスメイトも成功報酬百億円のために、万が一の可能性にかけているということだ。
 他に人類存亡もかかっているが、クラスメイトにとって暗殺は一大事ではないようだ。暗殺を挨拶に代えたり、授業中の暗殺が𠮟られたり、放課後に暗殺で遊んだり、五月も半ば、すでに暗殺は学校生活の一部だ。あの奥田さんも、暗殺は得意の理科の分野だとして、毎週のように標的を殺す毒を探求している。
 とはいえ修学旅行は政府にとって絶好の機会だったらしい。彼らは京都に本職を配備した。班別行動に標的も同行する時間があったので、そこで班ごとに殺し屋と協力して暗殺しようという計画である。——人通りがないから、見通しは悪くてよい。神崎さんの提案は、殺し屋が狙撃手であることを考慮したものだったのだ。もっとも共同暗殺は私たちの事件で一時中断となった。
 私たちの班は、そのままクラス担任との行動に移った。せっかく下見までしたところだが、共同暗殺は再開せず。しかし他三班とはすでに済ませたというから、いずれにせよ暗殺はできなかったのだろう。たかが修学旅行のしおりを辞書にするほど、京都を調査した賞金首だ。彼はあらゆる狙撃地点を把握し、警戒できている。
 その担任教師とも、日の傾く頃に別れた。かと言って、そのまま最後の予定に移ったわけでもない。私たちはしばらく歩いたところで見慣れた金髪と遭遇する。
「ビッチ先生」と呼びかけた私たちに、
「あんたたち、ちょうどいいところに来たじゃないの」
 椚ヶ丘中学校三年E組英語教師イリーナ・イェラヴィッチは、誰がビッチよとは返さなかった。誰も直しやしないからだ。彼女は正真正銘の痴女ビッチなので。かわりに英語の授業では正確な発音も重視して、彼女自身も外国生まれ外国育ちの外国人ながら自然な日本語を身に着けている。おまけにクラスの担任教師を、自身の巨乳で夢中にさせた。
 当然一般人ではない。頭の天辺から足の爪先まで、非の打ちどころのない美形で標的に接近する、いわゆる色仕掛けを得意とする潜入暗殺者である。実績もあるらしい。だが人類を救済するには至らず、彼女は引き続き教師としてとどまり、虎視眈々と機会をうかがっている。
 ところでビッチ先生は私たち——とりわけ渚くんたちを手で招いた。彼らの中から独りのこのこ向かって足元に目をくれ「げっ」とうめいた杉野くん。三十秒後、紙袋を両手に持たされた中学生は引率教師の後ろをどかどか歩き、
「こんな引率教師がいてたまるか」
「それがいるんだなー、杉野の前に」
 私たちは最後は殺し屋と、最後の最後まで道を共にすることとなった。その間、杉野くんはさらに手荷物を増やしたが、潜入暗殺者の会話術が神崎さんから「さすがね、杉野くん」「すごいな、杉野くん」を引き出し、事なきを得る。
 杉野くんは旅館の戸も開けてくれた。
「美女の帰りよ、出迎えなさい」
 先にビッチ先生が入ったけれど、後に続いた神崎さんが礼とともにほほ笑みかけたことで、杉野くんは満足したようだ。あるいは気にする暇がなかったか。玄関にはすでに人影があった。黒服の体育教師兼副担任、兼、表向きの担任教師、烏間惟臣である。
 これには呼び立てた「美女」も瞠目した。彼女のある種の我がままは、この相手には通じないことが常であった。ので、烏間先生はいつものように彼女をあしらい、一方で生徒七名とは目を合わせて、
「おかえり」
 当然一般人ではなく、体育の授業も風変わりな内容で、実は授業とも呼ばれていない。専門は戦闘、特技も戦闘、正体は防衛省の工作員だ。暗殺の監督のために派遣され、教員としては生徒に訓練をつけている。体育教師というよりは、訓練教官といったところか。だが今はそれよりも現場の責任者の顔をして、「早速で悪いが」と切り出した。「幾つか聞きたいことがある」
 荷物を置いて十分後に部屋に来るようにと言うので、私たちは怒り心頭のビッチ先生を背に、三人と四人で各大部屋に向かった。無人の和室が待っていた。私たちの班が最初に帰り着いたのだろう。とはいえ時間の問題だ。実際五分程度で他の班が一つ帰ってきて、挨拶がてら今日の感想を交換する。事件のことを伏せても話題は多く、すぐ約束の時間になった。
 さて客室の割り当ては性別ごと、さらに距離をとったので、男性教諭である烏間先生の部屋に行くには、引き返すように廊下を歩かねばならなかった。しかし教員だからかその最も手前に部屋があって、ちょうど、ふすまが開いて人が出てきた。なんと渚くんである。いや渚くんに続いて、さらに二人。そして三人共が荷物を持ったままだった。
 私たちに対して、幾ばくかの配慮が働いたようだった。教師陣は個室を与えられたはずが、室内には担任教師も英語教師もそろっていて、私たちはまず体調を尋ねられた。全員が首を横に振った。黄色のクラス担任と一瞬ばかり視線が交差する。
「わかった」
 烏間先生はただうなずいた。もしものときは教師を頼れと、定型的な確認を幾らか。それも終わると、彼はいっそう現場責任者の顔をして、国家機密を指し示した。「こいつのことだが」
 いつの間にか黒子がいた。私たちは生徒同士で顔を見合わせる。いやマッハ二十の早替わりであることはわかっていた。賞金首の超生物には扮装癖がある。当然のように人間の速度で京都を見物した彼には一応、国家機密の自覚がある。ので、部外者の前に姿を現すときは一応、人間に擬態するのだ。当然部外者の高校生の前でも、扮装を披露したわけだ。ちょうど、この黒子の恰好を。
 しかし烏間先生の表情は苦い。「相手が正体を怪しんだ様子はなかったか」
 茅野さんは笑顔で答えた。「殺せんせーの変装、今日のはいいできだと思うけどな」
 たしかに定番の扮装と比較すると、黒子の衣装は素肌を覆い隠せるから、妙な部分が目につかなかったかもしれない。だが烏間先生は眉間にしわを刻み込んだ。比較対象が論外らしい。「大丈夫ですよ」と国家機密だけが得意げだった。
「この顔が暴力教師と覚えられないよう、万全を期して駆けつけました」
 いずれにせよ高校生たちは超生物を記憶してはいないだろう。当時の心理状態は、平生のものではなかったはずだ。せいぜいが怪物のような強者と認識したかどうか。元より、皮膚を変色させても、服装を工夫しても、隠せないものもある。最たる例が体長だ。もっとも、それを否定の材料にされたら彼は、二度と生徒とは歩けない。烏間先生も「いずれにせよ」と話を進めた。
「彼らにはしばらく監視がつくことになる」
 標的への文句はのみ込めたようだ。顔つきも変わった。烏間先生はまっすぐに生徒を見た。「君たちにも頼まなければいけないことがある」