糸冬いずく
2024-09-16 00:16:00
157796文字
Public 二次創作:キリングミュータント
 

キリングミュータント【リブーテッド】

完結、夢主あり、赤羽業、暗殺教室、Paranoia

三日月が爆誕した春、新しいクラスが三年E組だろうと、担任教師が犯人だろうと、隣が赤羽業だろうと、成すべきことは変わらない。ミュータントは、すぐそこにいる——。

あなたは椚ヶ丘中学三年E組の女子生徒[$名前が見つかりません]です。
トラブルシューターが前世のミュータントな[$名前が見つかりません]と、隣の席の赤羽業が、ミュータントを殺す話。

クロスオーバーです。複数の作品の要素が登場します。
異世界の描写を含みます。主人公または周辺人物が別の世界へ渡ります。
転生の描写を含みます。主人公または周辺人物が死んで生まれ変わります。
主人公または視点人物が異性からの性暴力の被害に遭います。
主人公または視点人物が暴力の被害に遭います。


  二

 目まぐるしいテスト対策の日々は流れるように過ぎ去り、本番当日を引き連れてきた。
 白色の天井、白色の壁、白色のカーテン、日光の一筋も差し込まない暗い部屋で目を覚ます。時刻は確認するまでもなく五時三十分。必要な物はすべて所定の場所にあった。白色のタイツも、白色のワイシャツも、白色のカーディガンも、灰色のスカートも。
 身支度を終えても、他には物音さえしない。台所もいつものとおりに人がいない。そして求めた紫色は、やはり所定の場所に置かれていて、まもなくカーディガンの上から前掛けのひもを結ぶ。今朝の献立は野菜、焼き魚、白米、味噌汁。弁当のおかずはタコさんウィンナーだ。
 両親が起きてくる頃には、とうに静かな台所ではなかったが、音の数は一気に増えた。足音、挨拶、席に着く音、新聞紙の音。まもなく朝食も完成する。すべて食卓に並んだら、三人で両手を合わせ、箸をとった。今朝の報道、弁当の中身、夕飯の希望、今日の予定。会話を挟みながら食事が進む。そういえばと、親の片方が私を見る。
「今日は期末テストだね」
「うん。今回も目標を達成できるようにがんばる」
「前回は四百——
——七十点くらい」
「今回は」
 片方が柔らかい表情で尋ねた。
「それはもちろん総合——
 私は顔をあげて二人を見る。答えようとした口が縦に開いていたから、まずは笑顔に変換して、
——一位、か、五百点」
 勿体ぶったように答えたら、部屋に明るい声が響いた。
 いつもの、テスト前の、それでも変わらぬ朝だった。
 だから学校に向かう電車に乗ったら、同じ車両にクラスメイトが立っていた。耳にイヤホン、片手に参考書。やはり特に会話することもなく勉強して過ごし、ただ隣り合って電車を降りる。駅を出る。通学路を歩く。
 旧校舎に一旦集合してから、クラス全員で本校舎に入った。会場は毎度のごとく本校舎の教室だ。三年生の階まであがって、A組からD組までの前を通って、指定の空き教室へ向かう。
 しかし一歩、足を廊下に踏み入れた瞬間、射殺さんばかりの視線に襲われる。A組の教室からだ。いやA組の生徒たちだ。中にはかつてつき合いのあった生徒もいるが、皆一様に眼を血走らせて、E組を見送るために席を立っている。
 そういえば期末テストに向けてA組は担任教師が変わったらしい。まったく毎年恒例ではないが、学園祭が終わった頃から、理事長が教壇に立つようになったという。今日の期末テストでは生徒のみならず先生たちも、ここで終わらせるつもりでいるだろう。
 決着をつけるのだ。
 ——からん。いつしか机の上で、並べた鉛筆が転がろうとして倒れる。
 テストはまもなく始まった。最初は英語、リスニング問題だ。異様な語彙、分量、速度。私たちは一分でこのテストの傾向を理解させられる。
 中学三年間を通して、私たちは魚をさばくような問題で試されてきた。まな板と包丁と魚を出されて、文章から求められている処理を判断し、うろこを引いたり、骨を断ったり、頭を落としたり、内臓をとったり、二枚におろすのか三枚におろすのか、刺身にするのか干物にするのか。そして教師は、生徒の手際のよさや無駄のなさを評価した。基本を押さえて及第点、魚種がわかって平均点、その上で応用を利かせて高得点。
 出題傾向は今も変わっていない。ただ、夏の期末テストを境に急激に進化した。まな板は闘技場に、包丁は武器に、魚は怪物に。
 その点、英語の怪物は主要五教科で最も魚に近い部類だ。あくまで魚の進化系を、闘技場に適応させた。結果、魚はヒレを手足に、うろこを骨格に、ついでに大きく成長する。当然、包丁など通せもしないから、私たちも戦鎚を与えられたのだが、この冬の怪物はまた一段と硬く大きくなったようだ。腕も増えた。攻撃も守備もかわしながら、砕くべき外骨格と、突くべき隙間を瞬時に見極めなければ、それこそ瞬く間に制限時間に達するだろう。
 おそらく平均点はいまだかつてなく低い数字になる。いまだかつてなく明白な学年順位がつくのだ。
 実際に英語の一時間だけで、クラスメイトの多くが疲労を訴えた。しかし僅かな休み時間を挟んで、社会科もまた怪物を入場させる。長剣を持たされた私たちに対して、戦車である。夏は単に火器だったから、射撃は厄介だけれども、かいくぐって剣の間合いまで近づけばよかった。だが、この冬はさらに思考力を問う方針らしい。理科も国語も同様だ。夏からより一層の進化を遂げた怪物たちが、呪詛を放ち、太刀を振るう。
 それは当然、数学にも言えた。
 問題用紙を見た瞬間に、まっさらな闘技場に落とされ、一丁の銃を拾いあげる。引き金に触れるまでもなくその正体がわかって、つかんだ手に力が入った。一方、中央では微笑をたたえた大理石の女神が、周囲をボットに守らせている。処刑台に引きずり出したければ、戦闘ボットを破壊して回らなければならないらしい。
 幾何学的に設計されたボットの連隊は、それぞれが攻撃してくるけれど、正解の的はごく僅かだ。私は標的を絞り、照準を合わせ、ただ引き金を引けばよい。あとは耳慣れた音がして、的が倒れ、隊長が落ち、隊が崩れる。その繰り返しだ。小隊も中隊も大隊も変わらない。繰り返し、繰り返し、撃って、撃つ。
 気を抜くな、誰も信じるな、光線銃を手放すな。そうすれば、女神は自ずと処刑台にあがってくる。
 ——ザ・コンピューターはいつだって私たちを処刑したがった。
 処刑台は立方体をとっていた。終わりなく並び続ける立方体だ。私はその一つの中心に立たされ、周囲では八つの頂点がおもむろに砲門を開く。女神ははるか頭上から私のことを見下していた。試しに移動しようとしたら、即座に頂点の一つが光線を発射した。これまた試しに撃ち返してみる。私の銃から飛び出した光線が、敵の光線に衝突し、たちまち消滅する。
 逆に私から撃ってみても結果は変わらなかった。八つが八つ、すべて、私の行動に反応して、私と同じ威力の光線を発射する。どこを狙っても、どこから狙っても、攻撃は必ず打ち消されるのだ。腹立たしいことだった。忌まわしき大理石を破壊せねばならないのに、私は立方体の半分という領域から出ることができないのだ。だが腹立たしいことに、どうやらそれが答えだった。
 正解を見定めた瞬間、零距離に大理石が出現する。彫刻が微笑を絶やさない。引き金を引こうと思ったら、指はすでにそこを力強く押さえていた。女神の表情は変わらない。気をとり直して再び撃つ。光線が発射される。そして、
「市民、幸福ではないのですか」
 私の答えを待っていた。
 どうして。私は答えを待たれていた。どうして。
「市民、幸福ではないのですか」
 構えたままの銃を撃った。撃って、撃って、撃って、——撃たれて、白色の彫刻はすべて受け止め続けた。
「こんな世界でもセキュリティクリアランスか」
 私は自分の体を見下ろす。
「私はこんな世界でもレッドのままなのか」
 大理石の女神は答えない。
「市民、幸福ではないのですか」
 私の口はいよいよ独りでに動き出す。

 朝だか昼だか夜だか、いや深夜だったか、通信などでブリーフィングルームに呼び出され、橙色のチームメイトが運び出され、黄色の上司が話し出し、橙色のチームメイトが顔色を変え、——支給品の光線銃を握り締めた。
 運も実力のうちという。道理である。運があることは幸福であることだ。実力があることは幸福であることだ。幸福であることは運も実力もあることだ。秩序正しく、効率的で、生産的であることだ。人生を楽しむことだ。人生を楽しまないことはテロリストの兆候で、翻って、すべてのテロリストはまったく幸福ではありえない。不幸であることはテロリストであることで。
 幸福は義務である。