糸冬いずく
2024-09-16 00:16:00
157796文字
Public 二次創作:キリングミュータント
 

キリングミュータント【リブーテッド】

完結、夢主あり、赤羽業、暗殺教室、Paranoia

三日月が爆誕した春、新しいクラスが三年E組だろうと、担任教師が犯人だろうと、隣が赤羽業だろうと、成すべきことは変わらない。ミュータントは、すぐそこにいる——。

あなたは椚ヶ丘中学三年E組の女子生徒[$名前が見つかりません]です。
トラブルシューターが前世のミュータントな[$名前が見つかりません]と、隣の席の赤羽業が、ミュータントを殺す話。

クロスオーバーです。複数の作品の要素が登場します。
異世界の描写を含みます。主人公または周辺人物が別の世界へ渡ります。
転生の描写を含みます。主人公または周辺人物が死んで生まれ変わります。
主人公または視点人物が異性からの性暴力の被害に遭います。
主人公または視点人物が暴力の被害に遭います。


  三

 朝食後まもなく、クラスはその場で四つに分かれ、各々が街へ繰り出した。この丸一日を使った計画のために、教室で準備を進めてきたのだ。
 私たちの班は、班長の渚くんを先頭に置いた。後ろに奥田さんと茅野さん、さらに後ろに神崎さんと私が並ぶ。そして他の班や教師陣の姿が見えなくなると、渚くんはかばんからしおりをとり出した。杉野くんが彼の横から、あきれたような目を向ける。渚くんは構わなかったが。
 しかし千三百四十四ページである。クラス担任の手書きといえども、辞書と比較して遜色ない寸法で、そのうえ上製本。厚表紙で余計にかさ張るそれを、私は家に置いてきた。クラスの半分は持ち帰りもしなかっただろう。有用な代物ではあったので、まさに今日の計画のために、あらゆる班が教室で広げて、——手帳や携帯端末に必要な情報を集約したのだ。
 もっとも、その例外の第一人者たる渚くんも、千三百四十四ページを読破したとは言わなかった。
「目次も全然。追ってるうちに疲れちゃって。観光情報も意地で読みきったようなところが」
 渚くんは、そうだろうと言うように私を見た。私もまったく同じ顔をした。
 千三百四十四ページの修学旅行のしおりが充実すると四十ページ強は目次に費やされることになる。従来のしおりに相当する内容がそこから二十ページ弱。六十ページ目からは京都の言葉の解説が始まり、七十七ページ目まで続く。さらに百八ページ目までが、各見開き二ページの文化財紹介。千ページを過ぎる頃には「困ったときの対処法」の大見出しだ。
「旅行代理店ができそう」
「いっそ僕らが——いや、やっぱりなしで」
——重いもんね」
——重すぎるよ」
「なんで持ってきたんだよ」
 杉野くんが再びあきれて指摘する。「役に立つから」と渚くんは返事した。すぐに「訓練で筋肉つけてるもんね」と茶化す声。そこに多少の文句をつけた渚くんの後ろで、茅野さんが「あっ」と声をあげる。目的地が見えてきたようだ。
 私たちの班は、東京の教室で計画したとおりに、京都の街を歩き回った。時には寄り道も挟んだ。休憩したり、渚くんの——自主的自発的持参品である——しおりに導かれたり。京都旅行のためのしおりは当然京都でこそ真価を発揮する。各々が希望をかなえるに当たっては、元より計画の参考書の一つだ。一応は目的意識もあった。一見さんお断りの前置詞がつくような区画であっても、旅行は充実するだろう。
 午後、予定のとおりに祇園を訪ね、奥の道へ入った。右に左に並ぶ建物が観光客の期待にこたえるようでいて、路上は静寂に包まれる。この区画を希望した神崎さんは「だから」と説明した。「目的もなくふらっと来る人もいないし、見通しがいい必要もない」
 神崎さんの説明は今日で二度目だ。一度目は東京の教室で、私たちは京都の地図を囲んでいた。当時は決定打に欠けるような反応だった面々も、今日は声に出して感心する。実際、建物にとり囲まれた狭い直線だ。しばらくは通行人も見かけない。「さすが神崎さん」と口々に称賛する。当人は謙遜してほほ笑んだが、綿密な調査があったことは確実だ。そして、その結果が例の手帳だった。
 評判相当の神崎さんなら几帳面な手帳をつくっていただろう。論理的にも視覚的にも正確に整理された日程表だ。最低程度の高校生でも——待ち伏せることができるような。
「何かあった」
 気まぐれに声をかけられた。私は見て見ぬ振りもしない。
「何かって、何もないと思うけど」
 身長で十センチほど私を上回るクラスメイトが「たしかに」と隣で頭をぐるり、動かして、
「カルマくん——
 渚くんも呼びかけてから身構えた。
 実は私たちが訪れる前から、この区画には五人が息を潜めて、虎視眈々と機をうかがっていたのだ。
「本当、打ってつけだ」
 黒色の学生服を着崩した、上背のある高校生が三人。ちょうど三人分の足音をさせて曲がり角から現れた。残る二人はの用意と、脇の物置だ。万が一の事態に備えたようだ。悪知恵だけは働くということか、もはや身に染みついてとれないということか。「観光が目的っぽくない」とは班員の言だ。もっとも、彼が共感を得ることもなかったが。
 誰より先に進み出て、口を出した班員は、返事も聞かず敵につかみかかると、その顎を押しあげた。歯を折り、目潰し、電柱に打ちつけ、——中学生も高校生も呆気にとられて見過ごしてしまう。高校生は油断から、中学生は驚愕から。私たちの学校にも喧嘩はあるが、かように暴力的な発展を遂げることは珍しい。
 だから私も見過ごした。
 飛び出す四人目を妨げなかった。私の体格は悪くないが、さすがに高校生には劣る。だから繰り出される金属管も弾かなかった。私の成績は悪くないが、常習犯の経験には劣る。だから気がつく素振りも示さなかった。普通の中学生は気づけなかった。
 私は呆然と立ち尽くす。背後で別の班員が息を潜めても、気づく余裕などあるはずがない。一回り以上の図体の高校生が四人もそびえ立つ一方、主力を期待された中学生は、後頭部を殴打されて昏倒してしまった。恐怖のあまりに表情はゆがみ、足もすくむというものだ。
 高校生はさらに二人を仕留め、いよいよ五人目の仲間を呼び寄せる。そして私たち三人はなすすべもなく、最初に茅野さんを狙われた。