糸冬いずく
2024-09-16 00:16:00
157796文字
Public 二次創作:キリングミュータント
 

キリングミュータント【リブーテッド】

完結、夢主あり、赤羽業、暗殺教室、Paranoia

三日月が爆誕した春、新しいクラスが三年E組だろうと、担任教師が犯人だろうと、隣が赤羽業だろうと、成すべきことは変わらない。ミュータントは、すぐそこにいる——。

あなたは椚ヶ丘中学三年E組の女子生徒[$名前が見つかりません]です。
トラブルシューターが前世のミュータントな[$名前が見つかりません]と、隣の席の赤羽業が、ミュータントを殺す話。

クロスオーバーです。複数の作品の要素が登場します。
異世界の描写を含みます。主人公または周辺人物が別の世界へ渡ります。
転生の描写を含みます。主人公または周辺人物が死んで生まれ変わります。
主人公または視点人物が異性からの性暴力の被害に遭います。
主人公または視点人物が暴力の被害に遭います。


  二

 学園祭までの五日間は慌ただしく、問題と隣り合わせの日々だった。
「やっぱりウエイター陣には執事服とメイド服を着せたい」
「オプションとかどうかな。ツーショット千円とか」
「先生ももっとちゃんとお店の様子を見たいです」
「今までに報復した仲よくなった方々も招待したいです」
 前半は即否決。後半は烏間先生に相談の上、条件つきで許可が下りた。一つ、置物に徹すること。二つ、初日午後昼食時を外してまとめてお呼びすること。彼がどこに頭を下げて回ったかは定かでないが、どこかに頭を下げたことは確かだ。
 そうして制服に関する要望をとり下げたり受け入れたり、先生の扮装おきものを美術班と相談したり、とはいえ大半の問題は教室の隅の人工知能が解決して、いよいよ土曜日が訪れる。
「とりあえず、おつかれ」
「まだ学校にも着いてないよ」
「まあまあ」
 その朝もはや驚くことではないが、クラスメイトと同じ電車に乗って、同じ電車を降りて登校した。
「マネージャーは昨日が一番、忙しかったでしょ」
「それは、そうかも。律からもあとは一人でできるって言われてるし、今日は学校で磯貝くん片岡さんと話したら、たぶんキッチンに入るんじゃないかな」
「そういうこと。よくやったじゃん」
「それなら、ありがとう、赤羽くん」
 面倒事の半分はこうして隣を歩くクラスメイトが引っ提げてきたわけだが、それには触れず笑みを浮かべておく。彼はたちまち表情を削ぎ落して、隣で露骨にため息をついた。そしてこの私はそのことにも触れずに、ただ僅かに眉を寄せる。彼の表情にはもうなくせる部分がない。ただ、道を曲がった。そして尋ねてきた。
「勝てると思う」
「勝ちたいね」
「うわ出た、模範解答。そういうのじゃないって、わかってるくせに」
「私、真面目に答えたつもりなんだけど」
 言わずもがな、今日から二日間の学園祭の勝敗である。椚ヶ丘学園は実力主義。たとえ学園祭だろうと、生徒が実力を示す場でなければならないのだ。たとえば中学校も高校も問わず全クラスが出店するこの行事では、各クラスの売上が競争の対象だ。だからこそE組も出店しなければならない。言わずもがな例年の最下位は、山の上の最悪の立地の旧校舎のE組なので。
 しかし今年は少々様子が異なるようで、本校舎の生徒たちはなんとE組に前向きな期待を寄せているという。先々月の体育祭や、先学期末のテスト対決、さらにさかのぼれば梅雨明けにも球技大会があって、今年のE組は番狂わせを起こしてきた。その影響だろう。それでE組は今回は、彼らの期待にこたえる形で、そして競争するからには優勝を狙おうと、前向きに準備や偵察にとりかかったのだ。
 高校まで無差別に売上を競う中でも、中学校の三年A組は依然として強敵で圧倒的な優勝候補だ。中学校の三年A組には浅野くんが在籍している。浅野くんは万年首席の生徒会長だが、その肩書だけで済まされる中学生ではない。たとえば私たちが入学してからの売上競争は、二回共、浅野くんのクラスが優勝した。エースばかりでもない有象無象の入り乱れたクラスがだ。
 A組は偵察ヘリにもなかなか手の内を明かさなかったが、昨日、小冊子が配布された。浅野くんは飲食店ではなく催し物を選んだという。生徒同士のグループが出し物をするそうだ。要約すると——飲み食い無料、芸能人も出演するよ、と。
「期末までは言ってやるけど。俺は客観的な意見を聞きたいわけ」
「そんなこと、私以外の人には聞かないでね。クラスの士気にかかわるから」
 さらに言えるなら、私にも二度と尋ねないでほしい。言えなかったけれど。期末テストがまだだったから。
 そして期末テスト前のクラスメイトは「頼まれなくてもおまえ以外には聞かないよ」と刺すような声音で答えた。

 いざ始まったらやはり浅野くんのA組は凶悪までに売上を伸ばした。偵察ヘリの映像を見れば優勝さえ一目瞭然のようだ。一方のE組は、まあ、立地の割には客入りがよい。
 私は通学路で話したとおりに厨房に入った。クラスメイト数名と共に調理室で、料理長と副料理長を手伝ったり、食器を洗ったり、ごみを出したり。昼食時を迎えると調理室はにわかに忙しくなった。一般の招待客が入ったのだ。クラスの誰もが知るところでいくと、わかばパークの面々が訪れた。渚くんが対応していたから、おそらく彼の招待客だ。同様に時折り調理班からも一人、二人が招待客の対応に出ていって、それでも忙しくなったはずの調理室はよく回って、
「カルマのやつが呼んでる」
 まもなく十四時を迎える頃、室内の磯貝くんを経由して呼ばれた。まるで手順にないことだったので、何事かと素直に廊下に出ると、今度は、
「家の人が来てる」
 と赤羽が言う。私は改めて時計を見あげた。十四時前。先生の招待客あんさつしゃはまだしばらく来ない。肩の力を抜いて、礼をする。
「教えてくれてありがとう。お母さんかな、お父さんかな」
「どっちも、じゃないの。二人だったよ」
「そっか。先生のお客さんが来る前でよかった」
「麓で注文したみたいだから——
 赤羽がおもむろに腕をあげる。その先を追うと、二人分の料理がちょうど配膳盆に載せられている。
「何から何までありがとう」
「いーよ。テストで決着つけるって、ちゃんと覚えててくれれば、それで」
 赤羽の指し示したとおりの料理が、私の両親の注文だった。私はただ運ぶだけでよかった。外に出たら、私に遺伝子の半分ずつを提供しようとした二人組が、横並びに席に着いて待っていた。彼らは娘に気づくと名前を呼んだ。この私も笑みを浮かべて二人を呼び、それぞれ料理を提供する。看板商品のどんぐりつけ麵だ。
「がんばってるね」
「うん、ありがとう。つけ麵すごくおいしいから、冷めないうちに食べちゃってね」
「あなたはもう食べたの」
「ちょっと前に。デザートも食べた。二人はモンブランとゼリーを頼んでくれたんだよね。今つくってるところだから、食べ終わる頃にできあがるんじゃないかな」
 向かい側に回って椅子を引くと、父親が麵を汁につけ、母親が麵を口に運び、ずるずると音を立ててさもうまそうに胃に収めていく。店はがやがやと活気づいている。知らない制服も、知らない大人も、知らない子供も、大体がつけ麵とデザートを注文して、時に前菜や副菜がつき、時にデザートだけが注文されたり。
 学園祭での出店に当たっては、各クラスは飲食店か催し物かを選択することになった。全体としてほとんど差は出なかったが、催し物が比較的少数派で、多数派のうち半分は甘味や飲料が主体。そしてまた半分が、実は食事の提供を主体としない。とはいえ数少ない食堂をわざわざ山の上に求めようとする者は、やはり少数派であるだろう。両親は屈託なく「おいしい」と言うけれど。
「料理上手が二人いてね。一人はラーメン屋を目指してるんだって」
「あなたは」
「私は皿洗いだってば」
「ホームページもポスターも、メニューもよくできてたよ。それに松茸。この山に生えてるんだってね」
「私たちもみんなでびっくりしたところ」
 ドングリからマツタケまで、E組の模擬店の売り文句の一つは、山の天然食材だ。麓で客引きのクラスメイトに口説き抜かれただろうから、今さら詳しくは言わない。
「ずっと心配してたけど、ちゃんといい雰囲気のクラスだね」
 ただ両親がほほ笑んで、まもなく丼を空にした。すると前言のとおりにちょうどデザートが運ばれる。二人は再び笑顔になった。——それだけでよかった。この様子なら私は三月までこの教室にいられる。
 ついにデザートまで食べ終えて両親が山を下りたので、私は後片づけがてら数十分ぶりに校舎に戻る。すると来客を教えてくれたクラスメイトが、かばんに何かを片づけていた。声をかけたわけでもないのに気づかれて、何やら袋を見せつけられる。メイド服である。たしかに彼はコスプレ喫茶を熱心に訴えた一人だったが、
「着たいの」
「着ないよ。なんで持ってきてるの」
「万が一のためにね」
 何の万に一つだか。給仕係の女子生徒は頭にそれこそメイド的ヘッドドレスを装着しているが、後は男子生徒と一緒にただ制服と前掛けの組み合わせだ。きちんと否決されたおかげで、E組の模擬店はコスプレ喫茶にはならなかったのだ。しかしこのクラスメイトは種類も豊富に衣装を用意していた。本当にどうしてと改めて顔を見たら、彼はこのような言葉でこたえた。
「ねえ、渚くんにはどれが似合うと思う」