糸冬いずく
2024-09-16 00:16:00
157796文字
Public 二次創作:キリングミュータント
 

キリングミュータント【リブーテッド】

完結、夢主あり、赤羽業、暗殺教室、Paranoia

三日月が爆誕した春、新しいクラスが三年E組だろうと、担任教師が犯人だろうと、隣が赤羽業だろうと、成すべきことは変わらない。ミュータントは、すぐそこにいる——。

あなたは椚ヶ丘中学三年E組の女子生徒[$名前が見つかりません]です。
トラブルシューターが前世のミュータントな[$名前が見つかりません]と、隣の席の赤羽業が、ミュータントを殺す話。

クロスオーバーです。複数の作品の要素が登場します。
異世界の描写を含みます。主人公または周辺人物が別の世界へ渡ります。
転生の描写を含みます。主人公または周辺人物が死んで生まれ変わります。
主人公または視点人物が異性からの性暴力の被害に遭います。
主人公または視点人物が暴力の被害に遭います。


  二

 用を足した。怪しい供述を聞かされたさらに翌朝、同じクラスの中学生はプラットホームにはいなかったが、乗った車両には立っていた。早起きに挑戦しているそうだ。私は、ついに殺人劇を演じるつもりだろうかと、内心では考えていた。二か月前に殺すと予告されたことを、当然、忘れるわけがない。だが、ひとまずは殺意の一つも示されず、一つの車両に揺られて、同じ駅に降りた。
 朝の通学路に赤羽が現れて二日目、つまり一緒に登校するほかなくなって二日目、改札を出た途端、クラスメイトが口を開いた。
「プレゼント、何か考えた」
「無難なものでよければ」
 今日の話題はビッチ&烏間・くっつけ計画の第二弾。と付くからには第一もあって、ちょうど夏休みの旅行の最後の晩に実行された。二人きりの晩餐会を生徒で演出してやったのだ。色仕掛けの達人である英語教師は、あだ名されるほどの堅物——体育教師にどうも恋情を向けているらしい。愚痴をこぼす潜入暗殺者に中学生および下世話なクラス担任で協力した形だった。
 とはいえ第一弾はおよそ失敗に終わった。訓練教官は懸想されていることにも気づかなかったと見られている。今回は、その結果を踏まえての第二弾らしい。目標はビッチ先生の誕生日を祝うこと。手段は一つ。彼女が恋慕の情を寄せる相手に、贈り物をさせるのだ。
「無難ね」
「花束とか」
「それは無難だわ」と赤羽は繰り返した。
「ただ正直これでも無理がある、気がする」
「定番じゃない」
「烏間先生が用意するかな、ってところが」
 偏見だけれども。
 定番は定番、だからこそ無難。しかし当の烏間先生が選ぶかというと、実に微妙な線である。偏見だけれども。赤羽も同意するようにうなずいた。
「けど五千円で用意しようってなると、たしかにそこらへんか」
「ビッチ先生、セレブだから」
 難問だった。昨日の今日の計画で、中学生が二百円程度といえども出し合って、五千円の予算をつくった。だが前提として贈る側になる烏間先生は二十代後半の(おそらくは稼いでいる部類の)大人である。贈られる側に至ってはちょうど二十歳といえども本職の潜入暗殺者で、過去の標的の傾向か、金銭感覚は有名人のそれだ。すでに今年の誕生祝いとして高級車を貢がれているらしい。
 いや幾らかの恋物語を真に受けるなら、贈り物とは金額より内容より真心が肝要である。真心、誠意、実直さ。——無理難題だ。真実はこう。生徒が誕生祝いを企んでいることを、烏間先生は直前に知らされる。
 嫌な予感しかしない。けれどもクラスメイトは一人として反対しない。この計画が単純な好意、下世話、そういったものの他に、ある種の責任の元に生じたがゆえだろうか。
「当日にお祝いできたらよかったんだけど」
「それは——それが一番だっただろうけど。どうしたの、おまえ」
「きっと、私たちからお祝いできた」
 きっと、かくも面倒なことにはならなかった。それは、この私には言えないことだったから、音になることはなかったが。赤羽は目を鋭くさせた。
「どうしたの」
 この私はとぼけた返事をした。赤羽は無言で正面を向く。視線で射殺す準備ではなかったか。私も心中では考えていた。どうせ脳天を撃ち抜くには足りなかった

 誕生祝いは花束になった。かすり傷の一つもなく迎えた放課後のことである。昨日の今日の計画を敢行した。いつもの四班に分かれて、うち三つの班が標的たち(特にビッチ先生)を引きつけ、引き離し、その隙に渚くんの班が烏間先生からの祝いの品を用意する。と、よりにもよって買い出しに選ばれてしまった班の一員であるので、放課後は班員と共に街に繰り出した。
 何も決まらないまま最後の授業を終えてしまったが、私は花束を提案しなかった。班員の内一名には通学路で話してしまったが、彼もまた何も言わなかった。意外なことに。後から攻撃の材料にするつもりだったのか、彼自身も思うところがあったのか。いずれにせよ私たちの班は最後まで花束にたどり着かなかった。では何かと言うと——花屋が自ら姿を見せた。
 あるいは偶然にも通りかかったのだ。お花屋さんが。そして、「やっぱり、そうだ。ねえ君たち——
 何やら知った風に呼び止めてきた。その瞬間には花屋ともわからず、ただ帽子に前掛け、さらには軍手と、土いじり中らしい大人、との印象はあったものの、ますます覚えのないことは確かだ。しかし続いた言葉に渚くんと杉野くんが反応を示した。いわく二週間前に救急車を呼んでくれた花屋である。奥を見れば花屋の車両も停まっていた。ということだ。
 二週間以上も前の事故を覚えており、この近辺にはありふれた制服の一団に、当時居合わせた大勢の内のただの二人を見いだしたようだ。よほど事の顛末が知りたかったらしいので、班員一同は足を止め、渚くんと杉野くんを中心に話せることは話してやった。花屋は表情を和らげた。
「そっか。大事にならなくてよかったね」
 そして私たちは花束を買うことに——。いや口止め料などではなくて。中学生たちの悩みを聞いていた花屋が、では花束はどうかと、一輪の花を差し出してきたのだ。偶然、最も花屋に近かった私の目と鼻の先に。突き出された植物を私がおとなしく受けとる様子を見届け、商売人は電卓を片手に名演説。満場一致で決定した次第である。一輪の花は花束に、手の中から腕の中に。
 私たちは花のような微笑に見送られ、安心さえ錯覚しながら来た道を戻った。まるで、と思うまでにはまだ粘性が足りなかったけれど。
 ぬるりとした視線はといえば、戻った旧校舎で事態の推移を見守っていた。生徒がうまく二十歳の気を引く様を、そして労せず教員室へ入る私たちを。
 事務仕事にとり組んでいた多忙な二十代後半は、花束を前に首をかしげた。「なぜ俺が。君らが渡したほうが喜ぶだろう」
 押し黙る一同。昨日の今日の計画の、間違いなく最大級の難所である。だが最後の授業まで花束を知らなかった生徒たちは、もちろん説得の言葉も知らない。ところが私たちの中から、烏間先生を呼ぶ声がした。
「いろいろ大変だったんでしょ、二週間ずっと」
「それこそ同僚の誕生日も祝えないくらい」と班員は言葉を続ける。英語教師の誕生日は実はとうに過ぎている。例の二週間の特別授業の最中に。対して教師は返事を選んだ。
「だからといって君らが気にすることじゃない。何度も伝えたが仕事の内だ」
「仕事ってんなら職場の人間関係も、仕事の内に入るんじゃないの」
 訓練教官はうなずかない。彼の教え子もそれでも引かない。
「責任者の仕事だと思うけど。——あのビッチが必要な戦力と思うならさ」
 もう駄目押しだった。
 暗殺教室の監督者はようやく首を縦に振った。「一理ある」と言って渚くんから——上り坂の手前で引きとってくれた——花束を受けとった。
 烏間先生には口止めをして、他班へ準備完了の通達。生徒および下世話な担任は速やかに身を潜め、標的たちが二人きりになる時を待つ。
「ちょうどいい、イリーナ」
——烏間」
「誕生日おめでとう」
 さて二度目のくっつけ計画はものの見事に失敗した。