糸冬いずく
2024-09-16 00:16:00
157796文字
Public 二次創作:キリングミュータント
 

キリングミュータント【リブーテッド】

完結、夢主あり、赤羽業、暗殺教室、Paranoia

三日月が爆誕した春、新しいクラスが三年E組だろうと、担任教師が犯人だろうと、隣が赤羽業だろうと、成すべきことは変わらない。ミュータントは、すぐそこにいる——。

あなたは椚ヶ丘中学三年E組の女子生徒[$名前が見つかりません]です。
トラブルシューターが前世のミュータントな[$名前が見つかりません]と、隣の席の赤羽業が、ミュータントを殺す話。

クロスオーバーです。複数の作品の要素が登場します。
異世界の描写を含みます。主人公または周辺人物が別の世界へ渡ります。
転生の描写を含みます。主人公または周辺人物が死んで生まれ変わります。
主人公または視点人物が異性からの性暴力の被害に遭います。
主人公または視点人物が暴力の被害に遭います。


  三

 狙撃手が辞退した。消灯前の談話室で聞かされた。共同暗殺は失敗らしい。しかし即席の暗殺者たちは、今夜も支給品の武器を手に手に、旅館の廊下を駆け抜けた。貸し切りだから苦情は来ない。「捕らえて吐かせて殺すのよ」とは男子禁制恋愛話をマッハで聴かれた女子一同。同時になぜかやはり殺気立った男子一同。あの先生が両大部屋で同時に盗み聞きを働いていても、驚くには値しないが。
 挟撃、狙撃、斬撃、連撃。支給品の玩具はすっかり両手に馴染んでしまった。思い立って後ろへ下がり己の腹を刺そうとしても刃先は決して布を裂かない。ぐにゃりと刀身を曲げ、力が緩むと元の形に戻ってしまう。そして銃の引き金に力を込めたところで、飛び出したるはBB弾で、蒸発どころか怪我もできない。しかし先生はその玩具から身をかわさねばならないのだった。
 通称、対先生武器。床を転がるBB弾を、摘まみあげても潰そうとしても、私の指は溶けださないが、先生の触手は崩れ落ちる。だから政府は素人の中学生に武器を支給できた。
 とはいえ、特製の武器もたちどころには致命傷を与えない。腕や脚の先端といった部位を攻撃できた者はいるが、いずれも致命的な損傷にはつながらなかった。結局、他の多くの生物と同じように殺害することになるだろう。攻撃を浴びせ、急所を突き、心臓を破壊するのだ。マッハ二十の標的を相手に。
 ——もしも先生が死ぬときは。
 ふと後退すると裸足が敷居を踏んでしまった。それで下がったら畳の上だ。今は空の客室だが、立ち入りは許可されていたので、もう中へ進んでしまう。窓の前に立って、構えた拳銃を外に向けて、照準を合わせて、引き金に指をかけてみる。
 ——もしも地球が爆発するときは。
 月のない星空に見下ろされて、撃つ振りをして数秒、数十秒たつか、たたないか、クラスメイトが私のように独り輪を離れ、まっすぐにこの部屋を訪れた。敷き詰められた畳の上を一歩、二歩と近づいてくる。私はさも足音で気づいたように構えを解いた。振り向くと二、三人ほどの感覚の先に、クラスメイトの顔が見える。
「何してるの」
 クラスメイトは二、三人ほどの間隔で隣に並ぶと、緩慢な動作で窓に指を向けた。まもなくぬるい空気が入り込んで、彼は素直な感想をつぶやく。それから私より十センチ高いところについた目で星空を見あげると、再び問いを投げてきた。
「空なんか見てたんだ」
「そんなところかな」
 私が普通のクラスメイトの距離感で答えてみると、クラスメイトは相槌で返事した。昼間の喧嘩がうそのような、さも退屈な表情だ。そして沈黙した。当然有意義な時間を求めるならば、私たち二人で話すよりも、夜空の星を数えるべきだ。彼は私に用事があるのだろうけれど。無言の時間は、この私には多少なりとも居心地が悪い。このクラスメイトと私は、その程度の関係だから。
 ——もしも今日が先週だったら。もしも誘いを断っていたら。もしも六人班だったら。もしも、同じ班にならなかったら。
 先週の午後だった。渚くんが茅野さんと杉野くんを誘って、茅野さんが奥田さんを、杉野くんが神崎さんを、そして奥田さんが私を誘って、七人班に六人が集まった。最後七人目は班長の渚くんがまた自ら声をかけた。渚くんだけが誘った。赤羽業。彼が最後に選ぶ相手は赤羽以外ではありえなかった。二人は一年の頃からのクラスメイトで、親しい間柄だったのだ。
 ——もしも。
 私は結局無難に暗殺大会の結果を尋ねた。赤羽は軽い調子で答えた。「全然」だと。驚くような結果ではない。
「明日も暗殺しなきゃだね」
「そこで千葉と速水さんを駆り出そうって話が——
「二人とも狙撃成績がいいもんね」
——磯貝と片岡さんに却下されてた」
「二人にも修学旅行があるもんね」
 私たちは徐々に話を広げた。今日午後に立ち寄った神社で先生が大吉を引けず落ち込んだ。まんまと破魔矢を買わされて、明日は木刀までつかまされる。それから「東京でも買えそうな京都土産を買わそうぜ」と赤羽。
「しおりに『京都で買ったおみやげが東京のデパートで売っていたときのショックからの立ち直り方』ってのがあって」
「それを言ったら破魔矢だって『家で置き場に困る』って、書いてた、けど、買っちゃったんだ」
「そ」
 赤羽は悪戯っぽく笑った。「絶対、後から落ち込むから。木刀も買わせて、あと大凶も引かせたい。——落ち込んでるときが狙い目だと思うんだよね」
 話は尽きない。今日はただでさえ修学旅行で、私たちは同じ班になり、観光も食事も新幹線も一緒だった。この日のために一週間以上も共に準備した。そして何より暗殺教室だ。生徒が担任を殺すクラスは、他に類を見ない、そのものが話の種である。
 暗殺する生徒、爆破する担任、爆破される地球、爆破された月。窓の外に浮かぶ三日月。それを見あげるばかりであっても、言葉の形を選びさえすれば、ウンもアーもエットも要らない。だから。
 赤羽はなかなか本題に入らなかった。
 控えめなクラスメイトではない。気も声も主張も体格も、少しも控えたところがなく、しかし消極的ではあった。
 赤羽の積極性はことさら関心事にのみ強く発揮された。おかげで今やクラスには彼の得意分野を知らない者などいない。よって喧嘩の用件ではない、とは消去法だが、赤羽が部屋に訪れてかれこれ五分は経過している。もはや予想は無駄である。だが私は一度も尋ねなかった。五月も締め、しかし今すでに私たちは、ただのクラスメイトではありえない。
 暗殺ではない、旅行でもない。だが関係はあった。一週間以上前から、一か月以上前から、三年生が始まる前から。
「俺に言いたいこと、ないの」
「まあ一つくらいは」
 二年生の冬だった。その頃すでに私たちは三年次のクラスを同じくすることを確固たる事実として知っていた。三年目のクラスメイトになることを。
 驚くような偶然ではない。国家機密の賞金首がクラス担任を務める前から、椚ヶ丘中学校三年E組は特別だった。特別なクラスだった。この学校では劣等生は末路を用意されている。特別強化クラス、通称、エンドのE組。劣等のまま二年生を終えた中学生は、三年E組に落ちることを当校の規則で定められている。