糸冬いずく
2024-09-16 00:16:00
157796文字
Public 二次創作:キリングミュータント
 

キリングミュータント【リブーテッド】

完結、夢主あり、赤羽業、暗殺教室、Paranoia

三日月が爆誕した春、新しいクラスが三年E組だろうと、担任教師が犯人だろうと、隣が赤羽業だろうと、成すべきことは変わらない。ミュータントは、すぐそこにいる——。

あなたは椚ヶ丘中学三年E組の女子生徒[$名前が見つかりません]です。
トラブルシューターが前世のミュータントな[$名前が見つかりません]と、隣の席の赤羽業が、ミュータントを殺す話。

クロスオーバーです。複数の作品の要素が登場します。
異世界の描写を含みます。主人公または周辺人物が別の世界へ渡ります。
転生の描写を含みます。主人公または周辺人物が死んで生まれ変わります。
主人公または視点人物が異性からの性暴力の被害に遭います。
主人公または視点人物が暴力の被害に遭います。


七月、又はプール開き

  一

 誰も信じやしないだろうが、ミュータントパワーは身体能力である。持久的能力や筋力に並ぶ力である。走ることも走り続けることも、暗示をかけることもかけ続けることも、何も変わらない行為である。私にとっては。かつてアルファコンプレックスで生まれ、そして死んだときから、ずっと。
 この時代この地上都市よりはるかな未来の地下都市で、死んだ、否、致命的なできごとに襲われたことがある。数えること六度。そのたびにクローンを用いて生き永らえてきた。地下都市アルファコンプレックスの市民にはバックアップが存在するのだ。常に活動を再開できるように、常に最新の状態を保存されている。運営者たるザ・コンピューターの慈悲がもたらした完全な制度である。
 よって私もこの記憶について差し挟むべき疑問を持たない。かつて五体のクローンと共に出生した。
 しかし他者はそうではないのだと確かめるには、この地上都市の赤子として覚醒してからの十四、五年はあまりに長く、短かった。記憶を引き継ぎ、ミュータントパワーをも備え、現に活動を再開した——。はたして私だけだろうか。
 否。誰もが私の密告者だ。
 したがって、梅雨が明けようとも、鮮烈な日差しに襲われようとも、ミュータントパワーの発動は愚行である。せめて人目につかない廃墟などで誰もが余裕を失っているべきで、誰もが知性を失っているべきで、しかしながら今現在の旧校舎は、夏服がその場しのぎだろうとも、そよ風が熱風に変わろうとも、とうとうプール開きを迎えようとも、まったく一切そのような者を抱えてはいないのだった。
 嫌な朝ではあったけれど。クラスの大半は、その取り返しのつかない事実を覆そうと躍起になっていた。違うものといえば、たとえば隣の席のクラスメイトの第一声。
「鷹岡が辞めたんだってね」
 挨拶の次にはこれだった。プールとは一切関係ない、とうにE組には昔の話、昨晩のうちに烏間先生から一斉送信された連絡だ。とはいえ私は親切にも答えてやった。
「最初の授業でクビになったよ」
 昨日、一昨日のただの二日間、鷹岡明なる体育教師が存在した。暗殺素人のための暗殺訓練のために、防衛省から訪れたのだ。同じく本来は防衛省の職員である烏間教官に、より重要な仕事に専念させるために。烏間教官の訓練もとい授業は好評で、生徒との関係も決して悪くはなかったけれど、人類の存続に代えられる事実ではなかっただろう。三年E組の暗殺教室はおそらくまるで期待されていない。
 ところが鷹岡先生の寿命は授業時間に直して一時間もなかった。
 赤羽は白々しくも質問してくれた。「大丈夫だった」
 この私は気にせず回答してくれる。「大丈夫だったよ。烏間先生と渚くんのおかげ」
 鷹岡は暴力教師だった。隣の席のクラスメイトは、転校生暗殺者の到来からしばらく、なぜか遅刻欠席だけはしなくなったのだが、昨日は久々に欠席を決め込んだ。新しい教官のすばらしい人格とそれによる訓練模様とを、前日から肌で感じてしまって高熱でも記録したのだろう。だからと言って私の説明に、目を見張って反応することもないだろうに。彼は僅か斜めへ頭を動かした。
 疑問が口をついて出た。「誰にも聞かなかったんだ」
 赤羽は別の方向を気にかけながらも答えた。「教室に来ればわかるでしょ」
「律が話しそうなものだけど」
「律、ね」
 そこで赤羽がこちらに視線をくれた。「どうしたの」と尋ねてみるも、彼は「なんでも」とかわして、さらに私の手元を見た。机の上の、会話のために閉じた本が一冊、書店のブックカバーに覆われている。彼は勝手にとり上げるような真似をしなかったが、そうするまでもなく分類を推測してみせた。
「ミステリ、SF——
——よく見てるね」
「ごめん、さっき見えてさ」
「気にしないで。隠してたわけじゃないし、最近はSF小説ばかりだったし」
「好きなんだ」
「ちょっと前に読んだ小説がおもしろくって、つい」
「SFはおもしろいよね。俺も映画は割とチェックしてる」
「たしかに渚くんとよく話してるよね」
「まあね」と返事がある頃には、もう気はそれていたか。赤羽は「渚くん」の名前を出して、話題を一つ前に戻した。
 私はまた親切にも答えてやる。「そうだね、これぞ暗殺って感じだった」
 ——鷹岡は暴力教師だった。
 烏間先生とはまるで異なる過重の準備運動に加え、体罰をいとわない、現代の中学生には不相応な教育理念を掲げていた。生徒も先生も当然反発するが、鷹岡も当然反発を知っている。
 鷹岡は、抵抗する生徒には体罰を、先生には相応の建前を並べ、一度は全員を説き伏せた。けれども忍耐には限界がある。だから鷹岡も二度目は自身の進退を懸けた。すなわち烏間先生の進退を懸けて、そして二人の教育の正当性を証明するために、対戦を申し出たのだ。
 一対一の勝負の相手は当然に鷹岡だ。一方であくまで教育の証明だとして、烏間先生はその成果——生徒——の供出を余儀なくされた。かわりに鷹岡も言った。俺は素手だが、生徒には武器を使わせてやる。生徒たちは暗殺者であるからして、当然に人間を殺害できる凶器を使わせてやる。寸止めでも当たったことにしてやるよと、暴力教師は笑って告げた。
 鷹岡は当然反応を知っていた。おそらくは常套手段だった。彼は素手で凶器を相手どる訓練を施す立場にあって、一方たとえアルファコンプレックス市民であっても——たとえ処刑目的であっても——殺害に足る武器の所持を躊躇し、あまつさえ扱いきれない新人はごまんといる。
 それでも勝者は渚くんだった。
「渚くんが選ばれたときは驚いたけど、選んだ烏間先生も結果には驚いたみたいだったな」
 これは赤羽には教えてやらないけれど、一応、烏間先生は熟慮のすえ、とはいえ長考することなく半ば確信の下で渚くんを選んだ。渚くんはクラスで最も小柄な部類で、併せて身体能力も低い。近接戦闘の訓練でも目立ったところはまるでなかった。戦闘という領域において一目で見下せる弱小者。だから烏間先生は渚くんを選んだ。まさかそれほどまでとは疑うこともしていなかっただろうが。
 渚くんの才能が。まさか元精鋭部隊の首筋に峰を当て、それから何事もなかったかのようにクラスに溶け込んで戻れるまでだとは。
 それとも赤羽なら違和感の一つでも抱いていただろうか。だから友人関係を築いておいて自然消滅的に遠ざかったのだろうか。——赤羽にもある種の才能が備わっている。今朝ずっと気にかけている方向には渚くんの席がある。
 いずれにせよこの私の親切は、それらに言及するまでのものではない。まんまと殺されてくれたところで、私の負う責などありはしないのだ。
「赤羽くんは、プールの用意はしたの」
「まあね。面倒だったけど一応