糸冬いずく
2024-09-16 00:16:00
157796文字
Public 二次創作:キリングミュータント
 

キリングミュータント【リブーテッド】

完結、夢主あり、赤羽業、暗殺教室、Paranoia

三日月が爆誕した春、新しいクラスが三年E組だろうと、担任教師が犯人だろうと、隣が赤羽業だろうと、成すべきことは変わらない。ミュータントは、すぐそこにいる——。

あなたは椚ヶ丘中学三年E組の女子生徒[$名前が見つかりません]です。
トラブルシューターが前世のミュータントな[$名前が見つかりません]と、隣の席の赤羽業が、ミュータントを殺す話。

クロスオーバーです。複数の作品の要素が登場します。
異世界の描写を含みます。主人公または周辺人物が別の世界へ渡ります。
転生の描写を含みます。主人公または周辺人物が死んで生まれ変わります。
主人公または視点人物が異性からの性暴力の被害に遭います。
主人公または視点人物が暴力の被害に遭います。


六月、又は転校生たち

  一

「車内点検のため、電車の到着が遅れております」
 舌打ちは隣の大人がした。傘で地面をたたく音は、前に並ぶ小学生二人組。頭上では電光掲示板が定型句の並びを繰り返し映し、屋根の外からは日光が降り注ぐ。誰かが額の汗を拭った。それが、いたく季節を感じさせた。すばらしい——望ましくない——事実だった。
 夏が来る。
 夏である。
 朝食の話題は夏の家電。そろそろ動作を確認しなければと、親は壁の高い所を見あげた。三月まで暖房機能を提供した空調設備は冷房機能も内蔵している。私室にも、今日日、学校にも当然のような設備である。創立十年の私立なら、なおさら。椚ヶ丘の本校舎は廊下さえ至適温度を維持している。
 だが、ここが蒸し暑いからといって、舌打ちや、物に当たるようなことはしない。この私は決してしない。どうしても。人に聞かれれば、今年の私はこう答えるだろう。だって旧校舎はもっとひどい。
 梅雨入りからこの方、私の在籍するE組で、屋根というものはとんと信頼を失った。山の上の旧校舎にはあらゆる設備が不足している。充足してはE組制度の意義にかかわる。校舎さえ廃校の再利用だ。それが最低限修繕された結果として空調設備は一切なく、至る所で雨漏りがする。すでに不快極まりない環境は、そして、これから最悪に至ることを約束されていた。
 日本は温暖湿潤気候。東京の夏は高温多雨。マッハ二十はいいよね、が最近流行の愚痴の一つだ。クラス担任は放課後を南半球で過ごすらしい。生徒も放課後は帰宅して文明の利器にあやかるのだろうが、不快なものは不快である。昨年まで天候による多少の不自由は許容できたのに。日中を劣悪な環境で過ごすせいだろうか。——時々ミュータントパワーを行使したくなる。
 繰り返される定型句、社会人の舌打ち、小学生の手遊び。待ち望まれた放送はそれらをかき消さない程度の音量で、しかし全体に響く。大きな音が近づいてくる。私は携帯端末をとり出した。
「電車が来ましたね」

 三年E組、エンドのE組。ほとんどすべての生徒が通う築十年の本校舎に対して、旧校舎に通う劣等生。椚ヶ丘中学の生徒はテスト期間を迎えるまでもなく、E組に落ちないために成績の維持と向上に努める。なぜって、教室は旧校舎、元廃校の木造建築、一キロの山道の先にあって、それでも悪条件は数え足りない。とんでもない冷遇だが、E組は元よりそのために用意されたクラスだ。
 ところが最近になって、例外的に修繕どころか改善された分野があった。通信である。修学旅行以前の旧校舎では、種々の環境要因によって、通信時には二、三の工夫を強要されたものだ。辛抱強く待つだとか、山を下りてみるだとか。しかし近頃のクラスメイトは、むしろ山の上でこそ端末を操作する。
「みなさんとの情報共有を円滑にするため、全員のケータイに私の端末をダウンロードしてみました。モバイル律とお呼びください」
 車内で座席を得て真っ先につないだイヤホンから、聞き慣れたクラスメイトの音声がした。私は言葉を返さなかったが、彼女は気にも留めなかった。電車の中だからと納得したのだろうか。
 先月末の転校生は、その先鋭的な人工知能で多大な軋轢を生み、同時に旧校舎一帯の通信環境を劇的に改善させてしまった。かの機械は、その性能を十全に発揮するべく、膨大な計算と莫大な通信を実行する。この暗殺者には、最高の通信環境が不可欠だった。さすがのE組制度も人類存続には優先されなかったか、あるいは学校側も頃合いだと判断したか。
 さておき一新された通信環境において人工知能の転校生暗殺者は、計算と通信を積み重ね、先生の改造によっては協調性を学習し、備わった自己更新機能によっては反抗期を獲得した。今は開発者の保守点検に日々反抗し、親愛なるクラスメイトの一員たらんと愚かな営みに精を出し続けている。
 この私はそれをウイルスだと拒絶しやしなかった。
 乗車してから、降車した後もなお、操作中たびたびモバイル律が顔を出す。
「保存されたデータへのアクセス権限をいただけませんか。利用環境を最適化できますよ」
「よりよいサービス提供のために、情報を収集してもよろしいでしょうか」
「強固なセキュリティによって、プライバシーは継続的に保護されます」
「原則として収集した情報を許可なく第三者へ提供することはありません」
「検索は任せてください。最適化された検索結果で快適なネットサーフィンをサポートします」
「メールが届きましたね。読みあげましょうか」
「車内点検の影響によるダイヤの乱れは終電まで収束しない見込みです」
「明日はまた雨の予報です。傘を学校に忘れてはいませんか」
 無駄になったかに思われた全身モデルは、モバイル律によって再利用された。五月の終わりには替えのなかった衣装が今や数十種類。仕草も語彙もますます豊富に。加えて学習の領域を獲得したとなると、考えることもバカらしい。
 私はありきたりなクラスメイトとして、それから夜になるまでに、端末の権限をあらかた明け渡してやった。個人情報は守ると宣言された。それが破られたところで困る情報は、この手元にも自宅にもない。許可した分だけモバイル律にとって最大限に環境が最適化され、それらは徐々に操作感に影響し、性能と費用の検証が進む。最新鋭のボットは、当然のように優良な結果を報告して、
「烏間先生です」
 その頃には当然のように、通知の概要を知らせてきた。当然のようにうなずいてやると、ただちに文章が読みあげられる。「『明日から転校生がもう一人、加わる』」
 短文も短文だったがイヤホン越しの音声は、きちんと烏間先生の硬い表情を想起させた。
「いつもながら簡潔ですね」
 受信履歴を遡ったのだろう。画像がにこやかに振る舞う。いつもながら。
 私はそれには適当に返事して、漠然と尋ねてみた。「知り合いなの」
 アバターは迷わず首肯した。「初期の計画では同時に投入されることになっていました。彼は近接戦向きに調整されていたので、私が射撃でサポートする予定だったんです」
 しかし実際には、機械の投入が前倒しになった。
「理由は二つ。一つは彼の調整に予定より時間がかかったから。もう一つは私が彼より暗殺者として圧倒的に劣っていたから」
 初日に指を撃ち落とした暗殺者の言葉とは思えないが、画面の中の顔は目を伏せる。「命令の変更が早かったので、私にも情報が与えられていないんです。プロジェクトも完全に分離してしまって——