糸冬いずく
2024-09-16 00:16:00
157796文字
Public 二次創作:キリングミュータント
 

キリングミュータント【リブーテッド】

完結、夢主あり、赤羽業、暗殺教室、Paranoia

三日月が爆誕した春、新しいクラスが三年E組だろうと、担任教師が犯人だろうと、隣が赤羽業だろうと、成すべきことは変わらない。ミュータントは、すぐそこにいる——。

あなたは椚ヶ丘中学三年E組の女子生徒[$名前が見つかりません]です。
トラブルシューターが前世のミュータントな[$名前が見つかりません]と、隣の席の赤羽業が、ミュータントを殺す話。

クロスオーバーです。複数の作品の要素が登場します。
異世界の描写を含みます。主人公または周辺人物が別の世界へ渡ります。
転生の描写を含みます。主人公または周辺人物が死んで生まれ変わります。
主人公または視点人物が異性からの性暴力の被害に遭います。
主人公または視点人物が暴力の被害に遭います。


八月、又は特別夏期講習

  一

 毒を盛られた——かもしれない——グラスをどうにか落とさずに、あたかも観光客のごとくにテラスを見渡す。給仕はいない。ただ同じグラスを手にしたクラスメイトが、そして現在唯一の大人が、ただ楽しげに内容物を味わっている。
「おいしい」
 横で奥田さんも口元を緩めた。ストローで甘酸っぱい液体をすいあげ、グラスにはもう半分も残されていない。「おいしいです」と奥田さんが繰り返す。それはそう、だったのだ。おいしいトロピカルジュースだったのだ。ただし毒入りのと、注釈がつくだけの。
 船に揺られて六時間、東京の椚ヶ丘中学の三年E組は沖縄に来てごくごくと毒を飲み干した。今にして思えばサービスの飲料水などに口をつけるべき——ではなかった——だろう。アルファコンプレックスでザ・コンピューターは、すべての市民の安全と利益のために奉仕サービスしていた。安全と利益は幸福である。だから市民もまたザ・コンピューターに奉仕した。
 だから私はその得体の知れた液体を奥田さんと同じだけ喉奥へ流し込む。同じ表情をつくって浮かべる。同じ言葉を口にする。「おいしいね」
 クラスメイトははた目には普段と変わらない。弧を描く唇も、大事にグラスを支える両手も、慎ましく閉じられた脚も、同じ食卓を囲む全員が、同じテラスの全員が、生徒も、先生も。当然にここに不幸の影はない。反逆は存在しない。あるいは時間経過を考えれば、今は当然の景色かもしれない。今度の殺し屋も腕利きだろう。腕利きの、科学者だろう。
 私はただ昼食のために品書きをとった。それから、祈った。もはや、そうするよりほかになかった。毒は盛られた。先生には盛られなかった。だからといっても生徒一同は飲み干した。今の私には最悪でない結果を望むこと、ただそれだけが許されていた。
「二人はもう決めたの」と茅野さん。
「私はこのジュースと、あとサラダかな」
「私はまだちょっと迷ってて。茅野さんと神崎さんは決まったんですか」
「ごはんはいいから、私パフェ頼もっかなあ。見て、このプリンパフェ」
「いいね、私もサラダはいいからパフェにしようかな。トロピカルパフェとか」
「二人は甘い物が好きよね」
 神崎さんが口元に手を当てながらくすくすと笑った。「そういう神崎さんは」と茅野さんが身を乗り出す。当人も品目を教えてくれた。実に均整のとれた昼食だった。奥田さんが「なるほど」とつぶやいて、再び品書きへ視線が落ちる。
 こうして昼食を選んだ二、三人が、たとえば計画が失敗した夜に、そろいもそろって毒に倒れたら。生徒の中でただ一人、私だけが平然と立つ結末を迎えたら。整合性がとれるだろうか。通用する反証があるだろうか。あるいは退路を確保するべきか。そうだろう、それは、そうだろう。ミュータントパワーが私を生かすのだ。そのときはミュータントパワーを行使せねばならない。
 外を見たら青々とした世界が今は毒々しく目に映って、私も再び視線を落とす。