糸冬いずく
2024-09-16 00:16:00
157796文字
Public 二次創作:キリングミュータント
 

キリングミュータント【リブーテッド】

完結、夢主あり、赤羽業、暗殺教室、Paranoia

三日月が爆誕した春、新しいクラスが三年E組だろうと、担任教師が犯人だろうと、隣が赤羽業だろうと、成すべきことは変わらない。ミュータントは、すぐそこにいる——。

あなたは椚ヶ丘中学三年E組の女子生徒[$名前が見つかりません]です。
トラブルシューターが前世のミュータントな[$名前が見つかりません]と、隣の席の赤羽業が、ミュータントを殺す話。

クロスオーバーです。複数の作品の要素が登場します。
異世界の描写を含みます。主人公または周辺人物が別の世界へ渡ります。
転生の描写を含みます。主人公または周辺人物が死んで生まれ変わります。
主人公または視点人物が異性からの性暴力の被害に遭います。
主人公または視点人物が暴力の被害に遭います。


二月、又はバレンタイン

  一

 教員室の戸を開けたら、閉じ切った窓に迎えられた。呼び出されたつもりでいたのに、無人の寒々しい室内だ。しかし、それほど珍しいことでもないので、気をとり直して廊下に戻ると、ちょうどその端から二人分の気配が歩いてきた。
「お待たせしました。さ、入って入って。廊下は寒かったでしょう」
 閉め直したばかりの戸を、黄色の触手が再び開ける。響いた戸の音に続くように、私は黄色の触手に背中を押された。彼は連れてきた生徒にも同じことをして、まもなく教員室に三人が収まる。先生と、中村さんと。
「この校舎じゃ、どこも変わらんでしょ」
 中村さんは、あきれた様子で腕をさすった。彼女の淡色のカーディガンはいかにも真冬の衣類だが、厚着をしても二月は暖房されていたい。私の黒色のカーディガンも、一枚では防寒には力不足だ。けれども旧校舎に空調設備はなく、それどころか閉め切っても隙間風が吹き込む始末。当然、衛生的に換気も行われるわけで、真夏とは異なる悪条件だった。
 黄色の触手は、廊下で待っていた私をねぎらうためか、後ろ手に戸を閉めた。いや。「二人を呼んだのは他でもない、受験の話なのですがね」

 二月に入った。中学三年生の目下の悩みが、いよいよ絞られる時期である。私たちE組も中高一貫校ながら内部進学できないとあって、各々進路と向き合う日々に突入した。各志望校に合わせた授業、担任教師たちによる個別指導。迫る高校入試のために。ようやく見つめられるようになったのだ。年末年始の私たちを悩ませ対立まで追い込んだ、暗殺教室の真相と進退は、一月末をもって解決へと至った。
 三学期初日の戦争は、殺さない派の勝利に終わった。なんと渚くんがカルマの挑戦を受けて立ち、堂々と降伏を引きずり出したのだ。ついでに仲直りも果たし、さらに友情を深めたとか。ともかく、これで、わだかまりもなく、先生を殺さない、つまり助ける方向でクラスがまとまった。
 実際にはすでに進められている研究を探る形で、先生が爆発せずに済む方法を調べた。さすがに地球を救う研究は国際的な大計画で、各国最高峰の科学機関が内容を分担して進めていた。私たちが求めた研究は、そこに一つだけ存在した。私たちが求めた結果と共に。
 かくして殺さない派の目的が達成された一月末、E組は改めて三学期の方針を話し合い、そして、「おまえら高校どこ行くんだ」
 クラスの誰とも気兼ねなく、来年度の話題も出せるようになった。
 私立高校の受験日まで約一週間。放課後ぞろぞろ校門を過ぎると、その日は志望校の話になった。
 私たちのところでも渚くんが便乗する。最初の標的はカルマだ。
 カルマは前を向いたまま何でもないことのように答えた。
「俺は椚ヶ丘ここに残ろうかなって」
 当然、定期テストの結果によらず、E組はE組、たとえ学年一位のカルマだろうと内部進学は許されない。ので、改めて受験して入り直すということだ。難関校だが、彼なら余裕で合格できるだろう。元より彼は国内最高峰の学校にも合格できることだろうけれど、
「タイマンの学力で勝負しておもしろそうなやつって、たぶん椚ヶ丘ここにしかいないんだ」ということだ。たしかに万年一位だった浅野くんは、絶対に内部進学するだろうから。
 だが奥田さんは横目でうかがうように私を見た。いや皆の注目が徐々に私に移ろうとしている。
「私は本当に外部進学だよ」
「中村さんと一緒なんですよね」
 まあ、そういうことになった。たしかに秋頃はカルマと同様に入り直す心算だったが、あの進路相談をきっかけに、志望校を変更したのだ。超難関の女子校に。だから決して進路が重なることはない。中村さんとは来年も同じ校舎に通うことになるのだろうけれども。ちょうど昼にもそのつながりで、一緒に先生に呼び出されたところである。とはいえ、ここではうなずくにとどめておいて、私も奥田さんを見る。
「奥田さんは、もう理系の学校を受けるんだよね」
「はい。やっぱり理科が好きだから。茅野さんは、たしか——
——うん。椚ヶ丘じゃないけど、同じくらいの所。将来どんな進路も選べるようにって。神崎さんは」
「私も同じ、かな。将来、選んだ道を堂々と進みたいから。杉野くんは高校でも野球をするのよね」
「はいッ、絶対に甲子園に出て、プロでも活躍しますッ」
 杉野くんは目を血走らせて振り向いた。神崎さんは上品にほほ笑んでいる。杉野くんは勢いよく首を縦に振り始めた。応援の意をくみとったらしい。実際誤解ではなかったが、彼女の根底には友情のみがあるので、まだ先は長いようだ。
「渚も受けたいとこあんだよね」
 杉野くんの恋心で中断された問いは、カルマが引き継いだ。渚くんは首肯してから「うん」と答えた。
「茅野も杉野もみんなも、お別れだね、もうすぐ」
 杉野くんが動きを止める。
 最初の受験日まで、あと一週間。それから、もう一か月もしたら、すべてが終わりに向かうのだ。教室が、中学生活が。もしかすると地球までもが。その可能性がたとえ一パーセントにも満たないとしても。
 一月の調査の結果、先生の暴走、爆発の確率が、想定をはるかに下回ることが判明した。さらに特定の薬物を定期的に投与すれば、高くとも一パーセント未満、というところまで危険性を下げることができる。
 先生は爆発しないも同然だと、殺さない派も殺す派も関係なく喜び合った。そして暗殺の必要がなくなったことを承知のうえで、殺す派の意もくむ形で、三学期も暗殺を続ける方針を打ち出した。最後まで。国からの依頼が取り下げられるまで、あるいは中学校を卒業するまで。先生は何も言わなかった。ただ、うれしそうにうなずいた。
 まさか生かされるとは思ってもいないだろう。先生の爆発の可能性が仮に高くとも一パーセント未満だったとして、それは決してゼロではないのだから。そして、このような場合の可能性は大抵どこまで行ってもないとは言えない。元より先生は危険な殺し屋だという正体がある。なおさら生かしておく理由がない。だから今もこの街では、大規模な暗殺計画が進んでいる。
 何もかもが終わるのだ。三月で。私はすべてから解放される。進学先がクラスメイトと重なってしまったことは、まあ潔く受け入れよう。いずれにせよ暗殺から解放される。人工知能から解放される。隣の席から解放される。耐え難い苦痛から、すべて解放される。何も忘れられなかったから。ザ・コンピューターがいたから。幸福が義務だったから。
 私は足元を見下ろした。黒色の外套の下から、黒色のタイツがのぞいていた。ふと、かばんのファスナーをなぞる。引手で指がお守りに触れる。顔をあげると視界の端で物が揺れた。
「どうしたの。ひょっとして、おまえも寂しいとか」
 振り返った黒色の外套の、袖の先の通学かばんの、ファスナーの端の、違う赤色の。持ち主と、私は目を合わせた。
「私だって思うところくらいはある」
 当然。そう付け足すと「あっそ」だか「ふうん」だか相手は短く返事して、それきり前を向いた。私も顔の向きを直す。放課後の帰り道はもう終点が見えている。