糸冬いずく
2024-09-16 00:16:00
157796文字
Public 二次創作:キリングミュータント
 

キリングミュータント【リブーテッド】

完結、夢主あり、赤羽業、暗殺教室、Paranoia

三日月が爆誕した春、新しいクラスが三年E組だろうと、担任教師が犯人だろうと、隣が赤羽業だろうと、成すべきことは変わらない。ミュータントは、すぐそこにいる——。

あなたは椚ヶ丘中学三年E組の女子生徒[$名前が見つかりません]です。
トラブルシューターが前世のミュータントな[$名前が見つかりません]と、隣の席の赤羽業が、ミュータントを殺す話。

クロスオーバーです。複数の作品の要素が登場します。
異世界の描写を含みます。主人公または周辺人物が別の世界へ渡ります。
転生の描写を含みます。主人公または周辺人物が死んで生まれ変わります。
主人公または視点人物が異性からの性暴力の被害に遭います。
主人公または視点人物が暴力の被害に遭います。


  三

 船旅、昼食、班別行動、そして予約の晩餐会。極めて順調に計画が進む中、先生の日焼けも進行した。船上で食事をとる頃には妙を越して全身が黒く焦げていたほどだ。とはいえ大きく想定を外れた部分はなく、時間には余裕さえあり、既知の奥の手を切らせることに成功する。舞台は計画のとおりに水上へ。宿泊施設を含め周辺一帯は今やE組の貸し切りだ。
 これからE組は水上の小屋で精神攻撃を実行して暗殺に移る。小屋ではすでにクラスメイト数名が、攻撃の準備にとりかかっている。
「いよいよですね」
 満天の星空の下、他に利用客もない道で、奥田さんが声を震わせた。
「そうだね」
 私はこたえて次を待った。
 奥田さんは肩を丸めている。幾らでも小さくなれそうなほどに。無理もない。彼女は理科の学年一位だった。期末テストにおける標的との賭けにより彼女、彼女ら七名は、触手を一本ずつ損なわせる権利を得た。これは今回の計画の要でもある。暗殺は彼女たちの必中の一撃をもって、次の段階へ移行する。万に一つも外すことはない、とはいえ、奥田さんでなくとも緊張するものだろう。
 一方で奥田さんの首の上には確かな笑顔が存在した。緊張はあった。しかし恐怖はない。彼女が震わせる喉はかすかな期待をにじませている。「今日は殺して、明日一日、遊びましょうね」
 心身ともいたって健康そうな中学生。奥田さんだけではなく、誰も彼もが平然と明日の話をする。今夜を終えての、明日の話を。いとも楽しげに。
 私はただ同じ笑顔でうなずいた。ちょうどそのとき、いよいよ舞台に到着する。
 奥田さんとは入口で別れた。これも計画の内で、学年一位を獲得した者とできなかった者とでは役割が異なるためだ。彼女は他六名と、そして先生と共に、これから精神攻撃の鑑賞会だ。設営の完了した小屋で席に着き、正面中央には画面が一つ。再生時間は一時間。一時間後、彼女たちは一斉に触手を破壊する。それが合図だ。やがて、そのとおりに、まず小屋から明かりが失われ、画面が爛々と輝きだす。
 ——ここまで来たらもう一時間は発症しないのだろう。
 最後の最後までクラスメイトは誰も不調を示さなかった。ともすると毒のことを忘れてしまいそうになるくらい。誰より先生が黙していた。マッハ二十で生徒に気を配り続ける、あの担任教師が。しかし確実に毒は盛られた。改めて頼んだトロピカルジュースは毒を含んでいなかった。
 犯人はE組の暗殺を許すつもりだろう。当然に失敗すると踏んでいるのだ。どうせ失敗する暗殺なら、その失敗の直後、怪物が消耗したところに絶好の機会が訪れる。
 この島には小さな診療所が一つだけあるそうだ。島の外から来た医者が日中だけ患者を受けつけている。おそらく夜は島の外に帰るだろう。仮にそうならなかったとしても、処置には限度があるはずだ。未知の毒である可能性も十分に考えられる。標的の有能性を踏まえれば、むしろ検討するべき選択肢だ。あの担任教師を相手に、人質を用意するならば。
 結局、先生を殺すつもりなら、生徒を人質にとるべきだった。先月、シロが実証したように。
 だから誰もすぐには死なない。人質は生きてこそ用途を見いだされる。
 どうにもならない思考の間にも、最後の準備は着々と進んだ。予定の時刻まであと十分となって、水着とフライボードを装備する。顔をあげれば同様の装いが、あと八つ。クラス委員の合図で、九人で水上の小屋を囲む。周囲にはクラスメイトが銃やホースを備えていた。陸上から、海上から、海中から。クラスメイトの他にはイルカまで控えており、一方で烏間先生やビッチ先生は遠くで暗殺を見届けるという。
 それから、まもなく最後の合図が打ち鳴らされた。
 装置を利用して飛びあがると、先生の姿は視認できたが、小屋が様変わりしてしまっていた。屋根も壁も失って、床ばかりが残されている。併せて私たち九人はその頂点に到達する。水圧のおりである。
 閉じ込められた先生を四方八方から銃弾が襲った。それらは決して先生には当たらない。いつしか浮上した自律思考固定砲台は、はっきりと宣言する。
「照準、殺せんせーの周囲全周一メートル」
 精神攻撃、水のおり。今夜の暗殺計画には、標的の弱点が詰め込まれている。当たらない攻撃もその一つだ。先生は殺気に過敏に反応する一方で、自らを殺さない、当たらない攻撃には反応を鈍らせる傾向がある。現に眼下の黄色の頭はすっかり落ち着きをなくしてしまった。今となっては小さな床だけが彼の居場所となってしまって、水のおりに囲まれては飛んで逃げ出すこともできない。
 こうして存分に標的を追い詰めたところで、水中から本命が顔を出す。
 すべては一瞬のうちに、目がくらむように終わった。突然ひらめいた光に私も思わず目蓋を合わせる。直後、体勢が崩れて背中から海に倒れ込んだ。——本命の狙撃手の発砲で、先生の身体が弾け飛んだのだ。
 私はすぐに海面から顔を出した。周囲を見回すと、クラスメイトが次々と頭をのぞかせる。大方の生徒は衝撃で海に落ちたようだが、離れた所で暗殺を見届けた教師二人は無事らしい。しかし誰もが視線をさ迷わせた。小屋があった場所、今いる海、遠い陸、空を見あげて、ただ一人、先生の姿が見つからない。
「油断するな」と烏間先生が即座に指示を飛ばした。本当に標的の身体が弾け飛んだとしても、彼には再生能力が備わっている。闇夜とはいえ、マッハ二十の超生物は全長が三メートル弱。隠しおおせる体型ではない。
 そう。とても隠しきれる体格ではない。誰が何を言おうと、先生が見つからなければ見つからないだけ、徐々に空気が浮ついていく。先生が一瞬でかき消えたことなど幾度もあった。だが爆発を起こしたところは見たこともない。かつてなく大規模な暗殺と、前例のない現象と、標的が見つからない現状と、それらが組み合わされば、それはそう。死ぬということは、二度と——
「あっ」
 ——そのときクラスメイトが声をあげた。目を見開いて微動だにしない。大きくもない音だったのに、そこにあらゆる視線が集まった。彼女の視線のその先に、ぶくぶくと、あぶくが立っている。
 私は銃を抜かなかった。だって持ってこなかったから。

 満天の星空の下、小さな球体が浮上する。「これぞ先生の奥の手中の奥の手——完全防御形態」
 硝子のような膜の内側に、先生の頭だけが入り込んでいる。