糸冬いずく
2024-09-16 00:16:00
157796文字
Public 二次創作:キリングミュータント
 

キリングミュータント【リブーテッド】

完結、夢主あり、赤羽業、暗殺教室、Paranoia

三日月が爆誕した春、新しいクラスが三年E組だろうと、担任教師が犯人だろうと、隣が赤羽業だろうと、成すべきことは変わらない。ミュータントは、すぐそこにいる——。

あなたは椚ヶ丘中学三年E組の女子生徒[$名前が見つかりません]です。
トラブルシューターが前世のミュータントな[$名前が見つかりません]と、隣の席の赤羽業が、ミュータントを殺す話。

クロスオーバーです。複数の作品の要素が登場します。
異世界の描写を含みます。主人公または周辺人物が別の世界へ渡ります。
転生の描写を含みます。主人公または周辺人物が死んで生まれ変わります。
主人公または視点人物が異性からの性暴力の被害に遭います。
主人公または視点人物が暴力の被害に遭います。


  四

 茅野さんはクラスで最も小柄な生徒だ。そのうえで体育の成績を見る限りにおいては、近接戦闘に向かない部類でもあった。もっとも高校生たちは、残りの三人には戦意も示さず、愛玩動物を相手するような気軽さで、茅野さんを捕らえ、神崎さんも縛った。私も盗難車に投げ込まれた。乱暴に、しかし手際よく。
 とはいえ移動距離は短かった。修学旅行の高校生の土地勘の限界だろう。もっとも車種はありふれたもので、ナンバープレートにも細工があった。気休めには程遠い。仮にも学校行事の中で、傷害と拉致を計画した連中だ。廃墟に侵入してなすべきことが、他に幾つあるものか。
 強姦の常習犯たちに暗い屋内をせっつかれて歩かされた。放置されて久しいだろう、散らかったままの遊技場、椅子の欠けた客席、床に転がる空の酒瓶。そういえば班員も地面を転がったと思い出したところで、私たちも地面に投げ出された。足は自由だが、されるがままに体勢を崩しておく。背中にまだソファーだとわかるものが残されていた。
 はたして床の硬さを気にしてくれるような相手だろうか。いや、まずは衛生観念が——
「ツレに召集かけてるからよ」
 ——あるはずもなかった。集団強姦を企画できる人間に期待できる衛生観念が、どこにあろう。
 さて、これからどうしようか。見あげると、(目の前がちかちかした)
 猶予を告げた犯罪者は、たやすく背を向け、椅子に座る。久しく手入れのないだろう椅子に、自由意思で尻を乗せる。
 私たちは顔を見合わせた。三人が三人、「これからどうしようか」という表情だ。だが、まもなく神崎さんが目を伏せる。茅野さんと私は神崎さんを挟んで見詰め合い、結局、茅野さんが口火を切った。
「神崎さんも、ああいう時期があったんだね」
 最初から神崎さんが標的だったらしい。清楚な淑女と名高い彼女が実はおよその期待を裏切り、不良のたまり場に通っていて、見事に目をつけられ、このたびはたまさか旅行が重なってしまった、と。
 神崎さんは自身の制服を見下ろした。「うちは父親が厳しくてね、いい学歴、いい職業、いい肩書ばかり求めてくるの」
 茅野さんが相槌を打つ。神崎さんは泣き出しそうに後悔の丈を吐き出した。「そんな肩書生活から離れたくて、名門の制服も脱ぎたくて、知ってる人がいない場所で恰好も変えて遊んでたの」
 そのうち成績を落とし、学年末テストでE組落ちが決定的になる——。神崎さんは泣かなかった。私たちは黙って耳を傾ける。
「俺らと同類ナカマになりゃいいんだよ」
 不良は黙ってはいなかったけれど。
(呼んだツレが来る前に、様子を見てみる気になった)
 目の前がちかちかした。
 まだ敵の数は五つ。内一名が外で見張りを、つまり屋内の敵は四人。頭目はちょうど口を開いた、この高校生。「ツレ」が五人も十人も加わるそうだが、合わせても彼が頂点だろう。社会の軸は暴力と犯罪、自慢は台なしにした人間の数、その一部始終を残した動画は後生大事に保管している。顔をあげると、その頭目と視線が交差した。
(導かれるように見下ろした)
 不良共が立っている。四人もいて、四人全員がいかにも不幸な面持ちでいる。これが「肩書生活」を外れ続けた者の末路だと、同級生に伝える前に、私の首がつかまれた。
(思わぬ収穫が一つ、二つ)
 本物の衝撃に襲われる。ソファに背中を打ちつけられる。汚い。咄嗟の考えは、この私の口からは飛び出さないが、思わずうめいた声も言葉になりはしなかった。少女の悲鳴のような音声が、私たちの間を鋭く通り抜ける。
(女が苦痛にあえぐ音は、そこを強く揺さぶった)
 中学生より大きな手が制服に伸び、(捕まえた首は男のそれより、幾らもか細く)
 目の前がちかちかした。
(目を離すことができなかった)
 さて、これからどうしようか。
 窒息を知覚しつつ、脳は同時に班員二名の位置を把握する。くわえて敵の位置関係も。いや、私は押し倒されている。敵が覆い被さっている。
 ずきずきと胸が痛んだ。
(どうしても目が離せなかった)
 じっと目を見た(少しだけ)神経が焼けつく(もう少しだけ)幻覚がした(血液が走った)幻覚が侵入する(声が聞こえる)幻覚が聴こえる(幸福)とは何ですか。市民(幻覚)幸福です(幻覚です)義務です(幻覚は)幸福は(聞)こえた。幻覚が聴こえた。私が答えた。幻覚が問うた。——市民、幸福ではないのですか。

 朝だか昼だか夜だか、いや深夜だったか、通信などでブリーフィングルームに呼び出された。最後ではなかったが三番目の到着で、用意された椅子は三脚。座ろうとしたら四人目が来た。大抵のトラブルシューターは四人一組でミッションに当たる。それで、私は椅子を譲った。三脚の椅子に三着の橙色、一際偉そうな椅子には黄色が腰かけ——、隅に積まれた赤色の山を一瞥する。

 心臓がばくばく鳴った。血液がどくどく流れた。神経がひりひり焼かれた。網膜がちかちかひずんだ。久しく知らなかった感覚が、その実初体験にも似て痛覚まで及ぶ。アー、アー、アー、ッははは。胸中の笑みは幸いにして音にならず。ふと敵を見詰めてみると、こちらは——不運にも——相手の不興を買った。手が首から離れて「生意気な」面を張る。
 だが「ナメてんじゃねえぞ」とは無理な相談だった。だって、ほとんど獣だった。せめてテメェのイチモツを鎮めてくれなければ説得力に欠けるというものだ。異性間性交渉はアルファコンプレックスの非の打ちどころのない慈悲を「台なし」にする反逆である。アルファコンプレックス市民は拡張クローニング施設で完璧に出生する。だって、ザ・コンピューターがそれを意図した。
 友にして母、彼女にして彼、善性にして知性。ザ・コンピューターが完璧に運営する完全な地下都市アルファコンプレックスで、市民はすべて生産的で効率的で、つまり秩序があって、すなわち完璧で、ゆえに幸福だった。
 六体を失う前の私が。
 だから、この地上都市はアルファコンプレックスの形をしていない。だから、この——反逆者——ミュータントパワーを持ち得ない。だから。
 ザ・コンピューターが君臨しない地上都市で、異性間性交渉(!)によって産み落とされた私たちは、今また異性間性交渉(!)によって互いに資源を浪費しようというらしい。残る三人も限界だろうか。少なくとも制御装置を一番バカにしてやった私の上のバカは、性欲のままに衣服に手をかけている。したがって体を押さえつける力も緩んだ。普通の中学生には微々たる差だったが、まあ構うことはない。
 いずれ事態は収束する。犯人は班員を殺害しなかった。くわえて殴られず捕らわれず逃げおおせた班員もいる。彼女が遅かれ早かれ全員を助け起こす。そうすれば誰より渚くんが修学旅行のしおりを持っている。
 ——千二百四十三ページ、班員が何者かに拉致られたときの対処法。犯人の手がかりがない場合、まず会話の内容やなまりなどから、地元の者かそうでないかを判断しましょう。地元民ではなく、さらに学生服を着ていた場合、千二百四十四ページ。
「考えられるのは相手も修学旅行生で、旅先でオイタをする輩です」
 急に首が自由になって、私は思わずせき込んだ。かかる体重もなくなったが、ミュータントパワーの発動を解除する。これで不良たちが完全に意識をそらした。少女の悲鳴もやんでいた。だからと着衣を整えようとしたら、そちらは肘をぶつけて頓挫したのだが。
 そういえば腕を縛られているのだった。体も床にずり落ちたので、仕方なし、上体を起こすにとどめておく。と、横で「拉致られ」仲間が物言いたげな顔をつくった。
「大丈夫だよ」
 私は笑顔を見せてやる。だが二人は同時に息をのんだ。いささか衝撃的だったか。反省とともに見下ろした制服は、たしかに留め具を失ったり失いかけたり。カーディガンも高かったのに汚れてしまった。おそらく次の私がもっとうまくやるだろう。
 今は。出入口の扉を背に班員四名が立っていた。重傷者はいないようだ。彼らの足元の不良は除外して。それでも重傷という程度でもない敗者の上で、渚くんたちが種を明かす。
「すごいな、この修学旅行のしおり。完璧な拉致対策だ」
「ねえよ」と言われても「そんなしおり」はあった。私たちのクラス担任は——生徒の安心と安全のために——異常な熱量を注ぎ込んでいる。やがて屋外から足音がしても、警戒は無用だろう。高校生が手数を期待したところで、顔を強張らせた神崎さんには「大丈夫だよ」と再びささやく。だって、

「不良など、いませんねえ。先生が全員、手入れしてしまったので」

 開かれた扉の向こうから、黄色の怪物が現れた。椚ヶ丘中学校三年E組の担任教師、超生物の殺せんせー。
 生徒につけてもらった名前ですと、出会ったその日にそう聞いた。