糸冬いずく
2024-09-16 00:16:00
157796文字
Public 二次創作:キリングミュータント
 

キリングミュータント【リブーテッド】

完結、夢主あり、赤羽業、暗殺教室、Paranoia

三日月が爆誕した春、新しいクラスが三年E組だろうと、担任教師が犯人だろうと、隣が赤羽業だろうと、成すべきことは変わらない。ミュータントは、すぐそこにいる——。

あなたは椚ヶ丘中学三年E組の女子生徒[$名前が見つかりません]です。
トラブルシューターが前世のミュータントな[$名前が見つかりません]と、隣の席の赤羽業が、ミュータントを殺す話。

クロスオーバーです。複数の作品の要素が登場します。
異世界の描写を含みます。主人公または周辺人物が別の世界へ渡ります。
転生の描写を含みます。主人公または周辺人物が死んで生まれ変わります。
主人公または視点人物が異性からの性暴力の被害に遭います。
主人公または視点人物が暴力の被害に遭います。


十一月、そして学園祭

  一

 進路相談が終わったら、いよいよ期末テスト、ではなくて、その前に椚ヶ丘学園には最大の学校行事が訪れる。学園祭だ。例年、十一月中旬の土日二日間で、中学校のみならず高校と同時に開催される。さらに独自の風習もあり、最も学校がにぎわう季節だ。
 旧校舎の三年E組も例外ではない。今年のE組はどんぐりつけ麵を中心に、山の幸を出す飲食店を開く。——被差別待遇のE組も学園祭には出店できるのだ。先の中間テストから今日までに劇的に待遇が改善したわけではなく、ただ毎年のことである。そして毎年やはり待遇が悪い。学園祭の規則が一つ、すべてのクラスはクラスの教室がある校舎に店を出さなければならない。
「おい、店、外だってよ」
「だよね、わかった。配置は」
「磯貝がやってる」
「ありがとう、寺坂くん」
「おー。——それで俺に話ってのは」
「うん。人力車のことなんだけど」
 寺坂くんは虚を突かれたような表情で「人力車」と繰り返した。
「まだ聞いてなかったみたいだね。——来てくれるお客さんを中腹まで送ってあげようって話。ただ引く人が必要になって」
「それが俺だと」
「あと吉田くんには声をかけたって、赤羽くんが」
「クソカルマ」
 寺坂くんは吐き捨てた。「俺にも直接、言えよ」
 基本的には、中学生は中学校の校舎で、高校生は高校の校舎で、というだけの規則なのだが、E組にとっては大打撃だ。十二クラスが本校舎に店を出す裏で、E組だけは旧校舎に店を出さなければならない。山の下から山の上まで、その距離およそ一キロメートル。登り慣れ、登るよりほかないE組生徒はともかく、ただの客が、なだらかとはいえそれだけの上り坂をわざわざ歩こうとは思うまい。
 そこで人力車が人員と併せて提案された。見るからに体格がよく、体力も伴った寺坂くんたちだ。
 経緯を理解した寺坂くんは、しかし諦め交じりにうなずいた。
「いいぜ、休憩できるんならな」
「もちろん。基本は二人にお願いすることになるけど、ちゃんと交代要員は用意するよ。——さっそく吉田くんとイトナくんの所に行ってもらってもいいかな。グラウンドにいるはずだから。人力車の件で確認することがあるんだって」
 寺坂くんは最後にもう一度だけ悪態をついた。最初に赤羽の名前を出した影響だろうか。
 私は手元の端末に視線を戻す。幾つかの操作を挟んで、作業が一つ減り、二つ増える。画面の端で通知がさらに一件、薫製について。詳細を確認しようとしたところに、ちょうど渚くんが訪れた。
「薫製のことかな」
「うん。みんなの確認がとれて、倉庫でやることになったんだ」
「道具も用意できたんだってね。メンバーも——
 改めて詳細を開くと、渚くんの他に茅野さんと杉野くんの名前があがっている。
——これで大丈夫だよ。それにしても薫製なんて、いったい誰が考えたの」
「えっと、たしか茅野だったかな」

 学園祭準備期間に突入してから、私の前には入れ替わり立ち替わりにクラスメイトが訪れる。寺坂くん、渚くん、磯貝くん、イトナくん、それから。また誰かが来た、そういう体で顔をあげると、赤羽に見下ろされていた。
「忙しそうだね、マネージャー
 まるで他人事のように私を呼んだ。
「赤羽くんも、お疲れ様」
「どーも。——嫌がらせ対策なんだけど、やっぱ何人か置くことにした」
 赤羽はこの学園祭で防犯まわりの相談役として起用された。対策が効力を発揮するような事態など訪れないに越したことはないが、少なからず可能性があることを、E組はこれまでの経験で学びに学んでしまっている。もっともマッハ二十の担任が目を光らせる中で異物混入などを試みることは、至難の業ではあるだろう。烏間先生とて先月あの自称「死神」を倒した猛者だ。
「律から聞いてるよ。調達班でローテ組むんだってね」
「それ。麓のやつらも制服ってことになったから。エプロンは着ないけど」
「わかった」
 私は返事とともに端末を操作する。触れて現れたキーボードをたたき、指先でオブジェクトを移動させ、瞬時にクラスメイトから返答され、
「うまくやれてるみたいで何より」
 正面から感想をいただいた。私は中断して顔をあげた。
「赤羽くんが推薦したんだよ」
「得意そうだったから」
 つけ麵、人力車、薫製、防犯、クラスメイトが学園祭のために様々な役割を担う中で、私も一つ役割を与えられた。マネージャーと呼ばれることもあるが、要は自律思考固定砲台の補助である。
 類まれなる人工知能はこの最大の学校行事に当たって、情報処理を担うことになった。モバイル律をはじめ、常日頃からクラスの暗殺のために様々なアプリケーションを開発してきた人工知能だ。文句をつける者などE組にはいない。
 その一方で、人工知能であり固定砲台でもあるこのクラスメイトは、本体が教室に根づいており、物理世界での活動に明確な課題を抱えていた。その解決に向けた試みの一つが、各クラスメイトの携帯端末にインストールされたモバイル律である。とはいえ根本的な解決には至っていない。いまだこのクラスメイトの制約は多く、よって誰か補佐が必要だと、直接に求められ、なぜか私が推薦された。
 赤羽に推薦された。他に候補がいなかったわけではない。たとえば人工知能と親しく、時に鋭い推理を披露する不破さんもいた。だが彼女はイトナくんの偵察ヘリや他数名と敵情視察を任されてしまって、候補から外れてしまったのだ。他にはただでさえ忙しいクラス委員の二人だとか、もっと適役があるだとか、元よりしたいことがあるとか。この私に特に用事も希望もなく、一つの異議もあがらなければ、甘んじて引き受けるよりほかない。
「律が全部やってくれるから、私がすることはほとんどないんだけどね」
 すべて情報は人工知能の下に集約され、そこでありとあらゆる加工を受ける。私はほとんど整然とした情報を眺めているだけで、準備期間を過ごしていた。
「裏山でとれるキノコのリストなんかもつくってくれて——あのマツタケがとれるなんてことから、タマゴタケとベニテングタケが似てるなんてことまで」
「あ、それ俺だわ。キノコとって殺せんせーに見せたら分別してくれた。タマゴタケは絶対に毒キノコだと思ったんだけど」
「たしかに毒々しい見た目だね」
「実際はレア食材らしいよ。ただ、そのベニテングタケって毒キノコと間違えやすいって」
 間違えて食べたところで死亡例はまれだが、報告はあがっている。死なずとも食後数十分で消化器系の症状や、神経系の症状まで現れることもあるようだ。
「気をつけてね、赤羽くん」
「間違えてなくて残念だって素直に言えば」
 退屈になった赤羽がそのようなことを言うので、この私は苦笑して一覧を閉じた。
 学園祭まであと五日。期末テストまで、あと一か月。