糸冬いずく
2024-09-16 00:16:00
157796文字
Public 二次創作:キリングミュータント
 

キリングミュータント【リブーテッド】

完結、夢主あり、赤羽業、暗殺教室、Paranoia

三日月が爆誕した春、新しいクラスが三年E組だろうと、担任教師が犯人だろうと、隣が赤羽業だろうと、成すべきことは変わらない。ミュータントは、すぐそこにいる——。

あなたは椚ヶ丘中学三年E組の女子生徒[$名前が見つかりません]です。
トラブルシューターが前世のミュータントな[$名前が見つかりません]と、隣の席の赤羽業が、ミュータントを殺す話。

クロスオーバーです。複数の作品の要素が登場します。
異世界の描写を含みます。主人公または周辺人物が別の世界へ渡ります。
転生の描写を含みます。主人公または周辺人物が死んで生まれ変わります。
主人公または視点人物が異性からの性暴力の被害に遭います。
主人公または視点人物が暴力の被害に遭います。


  四

「まあ初めて顔を合わせたときにわかったことはあったよ、お互いに」
 私たちは足を止めずに歩き続けた。
「私たち、修学旅行で同じ班になったよね。おまえが渚くんに誘われて、私が奥田さんに誘われて」
「え、おまえが奥田さん誘ったんじゃなかったの。——あ、でも、そっか。おまえが渚くんの班を選ぶわけないか」
「高確率でおまえがついてくるからな」
「ってことは奥田さんは——茅野ちゃんが誘った」
「そういうこと。で、そのまま奥田さんをけしかけてきたの」
「ふうん、『けしかけて』ね」
 べつに、背中を押して、と言い換えてやってもいいが。茅野さんはよく人を見ていた。多かれ少なかれ奥田さんの気持ちも察していただろう。
「何も全部が私を班に引き入れるためだったとは言わない。けど、奥田さんが私を誘えば儲けもの、くらいには思ってただろうよ。実際、奥田さんは私を誘ってくれたし、あれ以来、一緒に過ごす機会は増えた。お互いに、余計なことを言わないようにね」
 そして私たちは互いに「余計なこと」を言わなかった。余計なこと。些末なことだ。私たちがある種の演技をしていたことは、私がミュータントパワーを隠していることと比べたら、茅野さんが触手を隠し持っていたことと比べたら、本当に些末なことだった。しかし、すべてを水の泡にする可能性を秘めていた。そのことを一目で看破した私たちは、同時に看破されたことをも理解して、暗黙のうちに協定を結んだのだ。
 些末な秘密を暴露しない。余計な詮索も一切しない。だから茅野さんは、私がミュータントであることは今も知らないだろう。私が茅野さんの触手を知らなかったように。
「その結果があれだ」
 歩きながら、カルマは冷たく言い放った。その責めるような声色については否定しないでおく。
 触手を隠し持っていたということは、単に容器に保管していたということではなく、実に半年以上も改造人間であることを隠していたということだ。つまり茅野さんはおおむねイトナくんと同じ状態だった。シロの手によるものではなかったが。だからメンテナンスも受けずにいたという点においては、最も状態が悪かった時期のイトナくんと同じだったとも言える。
 とはいえ茅野さんの暗殺は過去の誰より賞金首に迫った。失敗という結果だったが、それは彼女の命を危ぶんだ先生と生徒の協力によるものだ。そして触手は無事に摘出され、さすがに入院することにはなっても、始業式には問題なく出席できる見込みだという。
「あれだけの危険を冒して全治二週間。休み明けには暗殺訓練にも参加できるって話だったか」
「そうでなきゃおまえを——
 カルマは何かを言いかけて、そこで、はたと顔をあげた。駅の入口だった。彼は足を止めなかったが、速度はやや緩められる。考え事がある様子だ。私は尋ねはせずに、携帯端末をとり出して、時間を確認する。それだけで端末をしまうと、再び同行者が口を開いた。
「飯、食わね」
 つぶやくような声量で。
「いいよ」
 私はこたえて、足の向きを変える。

 私たちは通りに出た。駅周辺にも神社周辺にも飲食店はあるが、どちらからも離れるように道を進む。すると街は一気に閑散としてきた。前にも後ろにも人の姿がなく、右でも左でも店が閉まっている。東京といえども正月である。結局は数駅程度を歩いたところで、チェーンのファストフード店などに入ることになるだろう。数駅程度を歩いたところで、私たちの話が終わったところで、だ。
 カルマは白い息を吐いた。
「おまえは最初から全部わかってた」
 茅野ちゃんのことだけじゃない、と。私がものを言うより先に、昨年の事件を振り返るように。沖縄で盛られたときだけじゃない、と。
「京都で高校生に襲われたとき、そうなる前から、狙われてたことを知ってたんじゃないの。シロのこともわかってたはずだ。プールの爆破、下着泥棒の真相、イトナが捨て駒だったことまで」
「今さらそんなことを責めたいのか」
「ああ、そうだね。あんなの結果的に助かっただけだ。花屋が殺し屋だったときも、ビッチ先生が寝返ったときも。俺らは死ぬかもしれなかった。おまえも何かしなきゃいけなかったんじゃないの」
「そうかもね」
 十月に花屋を装った殺し屋は、誘拐した英語教師を籠絡した。英語教師の救出に向かった私たち、そして私たちの救出に向かった担任教師は、まんまとおりに捕らわれる。格子は対触手物質で加工されており、尋常な手段による脱出は困難だった。そのうえで、そこに大量の水を流し込むことで、触手生物の肉体を対触手格子に押しつけ、ところてんのように切断するという暗殺計画だ。
 結果的に殺し屋たちの計画は失敗した。烏間先生が殺し屋を倒したのだ。私たちは水に脅かされることなく外に出られて、ついでにビッチ先生も教室に戻ってきた。結果的には。
「けど、何もしなかった。正体を隠すためなら周囲の人間を見殺しにできるからじゃない。おまえは京都でいざ高校生にさらわれたら、身を挺してクラスメイトを守った。殺し屋でもない高校生なんかを相手に、わざわざ力を使ったんだ。だから——そうする必要がなかったんだ。だから何もしなかった。『結果的に助かる』って、わかってたんでしょ。殺せんせーが必ず俺らを助けてくれるって」
 そしてカルマは口を閉じた。ひゅうと風が吹き抜ける。ちょうど私たちの間を、冷たい空気が通り過ぎる。その行方を追ってみたら、自然と空を見あげる形になって、真昼間から三日月が視界に入る。もはや驚くことではない。だが隣の同行者も同じ場所を見あげていた。足が止まって、私は白い息を吐く。
「おまえは妙に回りくどいな。——わかってたよ。最初から全部、とは言わないが。いずれにせよ、そんなことは今さらおまえに隠すことじゃない」
「殺せんせーが話さなきゃ言わなかったくせに」
「先生が隠すのをやめなきゃ、聞こうとも思わなかっただろ」
——おまえが妙に殺せんせーを信頼してる風だったのを、もっと疑うべきだった。おまえは誰も信じない。それは殺せんせーだろうと例外じゃない。おまえは殺せんせーの正体を知ってたんだ」
「お互いに、わかったことはあったよ」
 同じ教室で過ごすうちに、私は先生のことを把握していった。同じように先生も私のことを把握していった。すべてではない。ただ、私は先生に地球を壊してほしかった。だから個人的に先生を殺さなかった。先生は生徒に自分を殺してほしかった。だから積極的に怪物としてあり続けた。
「もうわかってると思うけど、生徒の殺意が鈍ったら、暗殺教室は簡単に崩壊する。だから私も先生を怪物として扱った。先生が私を生徒として扱ってくれたから。個人的に暗殺しないことを、とやかく言わずにいてくれたから」
 それだけの協力関係だ。
 カルマは口を閉じてしまって、何も言わずに歩き出した。私も追うまでもなくついていく。だから渚くんや奥田さんを誘わなかったのだろう、とでも言ってやればよかったか。だが、私は次にカルマが口を開くまで、何も言わずに歩き続けた。
 幾つもの店を通り過ぎた。幾つもの店が閉まっていた。いつか通り過ぎたばかりのファストフード店から、五人組の客が出てきた。私たちと同年代のようだった。彼らは午後の予定を話しながら、私たちに背を向ける。足音と一緒に話し声が遠ざかる。それらが十分に聞こえなくなったところで、
「おまえってさ、結局幾つなの」
 そんなことを尋ねられた。
「体感のうえでは十五歳かな」
 我ながら妙な言い回しだが、元より妙な問いかけで、カルマは前の私のことを知っている。アルファコンプレックス市民がクローン槽で教育を受けることも、十二月の期末テストの後に話してあった。前の私は成年になって初めて意識と自我を知ったのだ。
「ああ、でもアルファコンプレックスの成人年齢を教えてなかったのか。正直、実感はないが、前の私は十四歳だったらしい」
 したがって厳密に計算すると、二十九歳ということになる。
「そっか」
 反応に困ったのか、カルマの返事は短く小さかった。
 まあ二十九歳となると、E組生徒つまりカルマと比べて、ほぼ倍だ。教師陣でさえ担任教師はともかくとして、英語教師が二十、二十一歳、訓練教官が二十八、九歳。たしかにカルマとまったく同年代という気はしない。しかし烏間先生と同年代だという見方はともかく、二十九年を生きた自覚も持てない。あくまで覚醒してからの約十五年——前の私が拡張クローニング施設を出てからの三か月と、その次の私のこの十四、五年が、私の活動した年月である。
 カルマは返事をしたきり黙り込んで、かわりに幾らかの物音をさせた。神社の売店の袋である。彼は袋の口に手を差し入れた。購入した物の確認だろう。先刻の彼は少々買い物に時間をかけていた。
 と、視線を外したところで、ちょうど、そこから物が飛んできた。
「何だ」
 あえて捕らえるまでもなく片手を出せば、軽い音とともに透明の包装が手の平に落ちる。お守りである。白色のお守りだ。刺繡が金色で入っており、
「『えんむすび』——何だこれ」
「見たまんま」
「いや何の嫌がらせだ」
前世は縁に恵まれなかったみたいだから」
 カルマは悪びれず言い切った。それが嫌みだと私は言っているのだけれど、カルマが気に留めた様子はない。そのまま売店の袋を閉じたからには、もう私に与えたつもりなのだろう。実際、後から「あげる」と声も聞こえた。
「要らないんだが」
 返事に合わせて、笑い声も聞こえてきた。隣から顔を見られている。
「すっ、げー、嫌そうな顔」
 肩も震わせていた。
 私は無言で手元に目を向ける。手の平に載せたままの、えんむすび守。当然に無料ではなかっただろうに、どうやら私のしかめ面のためだけに購入されたらしいそれ。包装ごと握り潰してやろうか。指に力を込めようとしたところで、まあまあ、と制止の声。
今世は良縁に恵まれますようにって、ほんの気持ちだと思ってよ」
「笑いながら言われても伝わらないな」
 しかし気は削がれて、歩みは止まり、顔は空を向いた。
「言ってみろ、こんな物で何の取引だ」
 カルマは声をあげて笑い、目を細める。
「さすが——。俺、昼飯ラーメンがいいな」
——開いてたらな」