ユーリ・ローウェルの日記

青年が日記を書く話。


ノール港に着いた。時間はないが、みんなの身体が動くようになるまで休んでいる。つっても、街全体が混乱状態で、気持ちはちっとも休まらねぇんだけど。
バウルも大怪我を負って動けなくなっちまった。どうやらヘラクレスの主砲で地形も変わっちまったということで、明日には流氷を渡ることになりそうだ。どんな道だろうと行くしかない。
回復役のエステルがいないので、応急処置の道具をあれこれ物色していたら、おっさんがふらっと現れた。
おいおい、あんたも骨何本かいったって言ってたよな?
「寝てなくていいのかよ」って言ったけど、いいのいいの、と手をふって、包帯や薬をあっという間に見繕ってくれた。
「ダングレストじゃ、あんな優秀な治癒術師はいなかったからね。簡単な処置くらいならおっさん、お手の物なのよ」
騎士団でも散々教わったし、と言って、からからと笑っていた。そんな笑顔にはもう騙されない。オレはレイヴンの手をとって歩みを止めた。
「あんたがエステルの代わりに傷ついたって、誰も喜ばねぇからな」
レイヴンは、じっとオレの目を見つめていた。オレは歯を食いしばって言った。
「1番悲しむのは、あのお姫さんだろ。違うか」
ずいぶんと長い時間見つめ合っていた気がするが、実際は10秒にも満たない時間だっただろう。レイヴンは詰めていた息を足元に向かって吐き出して、「そんな、つもり……いや、うん……」とか何とか、もごもご言っていた。
「帰るぞ、おっさん」と声をかけたら、素直に付いてきた。
書いていて気付いたが、手を繋いだまま帰ってきちまった。ジュディが「おかえり」と言いながら変な顔をしていた訳がようやくわかった。急に恥ずかしくなってきた。おっさんも振りほどけよ、そういう時は。