ユーリ・ローウェルの日記

青年が日記を書く話。


皆ぐっすり眠っている。オレは散歩中。
この街での騎士団連中の動きはどうにも見逃しがたい。フレンの奴にあとで問い詰めてやろうと思う。街の連中をがんじがらめにして苦しめて、平気でいられる奴だとは思いたくねぇが。
そういや、エステルが一人で行くと言い出したときは、頭のどこかで予想してたとはいえ、驚いた。しかしまあ最終的に、話し合って全員で砂漠へ行くことになった。エステルなりに悩んで自分で決めたことなんだろうが、オレ達はもうギルドの掟に従って動くギルドの人間だ。――っつーのは建前だな。単純に放っておけねぇ。オレだけじゃなくて、カロルやジュディも同じ思いでいたことが心強い。たぶん、おっさんも。
砂漠での長旅だ。気を引き締めたい。しかし外に出ると夜は寒いな。防寒もいるかもしれない。
ともかく明日は、
……
……
今、驚いたことに、おっさんに会った。散歩かと聞かれたから、そうだと答えた。ぶらぶらと歩きながら、少し話した。
胸の痛みについて尋ねると、目を丸くされた。そんなに意外だったか?
「青年、おっさんのことよく見てるわね」などと目を眇めるので、「分かるだろ、それくらい」と答えた。そうすると、見た事のない顔で固まるから、オレは可笑しくなって笑っちまった。
結論から言えば、体調は絶好調らしい。体質上エアルが濃すぎると胸のあたりが締め付けられるのだとか、よる年波には勝てんとか、そういう説明をされた。「体の不調は隠すなよ、年なんだから」と指をつきつけてやれば、自分で年波がどうだとか言っていたくせに「一言余計よ」とその指をへし曲げられた。どうやら今後は不調を隠さずにいてくれるらしい。……おそらく、多分。
オレが勝手に満足していたら、今度はおっさんが指をつきつけてきた。
「青年もね」と言われた。
何のことか一瞬分からなかったが、どうやらオレも体の不調を隠す性質だと思われているらしい。余計な世話だしあんたに言われてもな、と手を振ると、存外真面目な声が返ってきて黙っちまった。
「お前さんはあの子らの実質リーダーみたいなもんでしょ。そりゃギルドの首領はカロル少年ではあるけれど、まだまだお前さんを頼りにしてるのよ。だからね青年、お前さんの一番の仕事は自分自身をよく知って、労うこと」
――ギルドのナンバーツーの言葉は非常に重い。是非もなく頷いた。するとおっさんの顔がぱっと緩んで「ん~、よし!いい子」と、あろうことか頭を撫でられた。これでも成人済の、オレの頭を。何なんだこのおっさんは。30過ぎるとこういうこと平気でやれるのか。つーかいい子って何だ。
やめろ、と手を払おうとしたんだが、うまくいかなかった。
要するに、オレは大人しくなでられていたのだった。
……そんなわけで、また櫛を返しそびれた。おっさんは礼を言わせるのが下手だ。