kurotera
2025-02-24 08:27:05
174619文字
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You are what your back bears

2022年6月に発行したイノセントブレス IB本の再録です。
発行から一年経ち、頒布も終了しているので掲載。
当時手に取っていただいたかた、ありがとうございます。

【概要】
ぼくのかんがえたさいきょうのイノセントブレス本(非公式)
無印三部前提
出てくるメンバー:教会勢、ラプラスの悪魔、ダーククロウ、LL、無銘
ですが無銘の四名とダーククロウさんは本当に一瞬です。あくまでIB中心。
戦闘と日常の比率は6:4ぐらい。当社比。
書き手の趣味が爆発してえらいことになりました。

要素/注意
九割捏造。特に過去。
公式ファンブック旧版と一部キャラクターメッセージカードを元に当時は執筆していますが、未所持のカードもあるので設定にずれが生じています。


追蹤

 いつもの授業の筈であった。
 先生の代わりに読み書きや数の数え方をいつも教えてくれるシスターが教壇に立って、子ども達はいつものようにそれぞれの席に座る。年齢はばらばらだったが皆、戦争、疫病、飢饉、様々な理由で親を喪った孤児であり、また自分も例外ではなかった。
 今となっては何故親を亡くし故郷を追われ、あの小さな孤児院に身を寄せたのかは覚えていない。全てがぼんやりと霞がかかった彼方にあって、思い出せるこの記憶でさえ、自分の記憶なのか、それとも自分の頭が勝手に作り出した幻なのか分からない。
 考えると頭の奥がじくじくと熱を持ち、痛むのだ。

 机の上に、本がある。
 いつも読んでいる聖書ではなく、なめした真っ黒な革で出来た本だった。まだ開いてはいけませんよ、とシスターが釘を刺すので触らないようにした。
「ねえ、これってなんだろう」
 隣の席の友達がそっと呼びかけてきた。同い年の眼鏡をかけた、いつも木陰で本を読んでいるような大人しい奴だ。
 さあ、と首を傾げればざわつく教室を静めるべく、シスターがぱん、と手を叩く。
「今日の聖書日課はおやすみです。『教会』の指導者であらせられる教皇猊下から皆さんへの贈り物を賜りました」
……教皇?」
「偉いひとだよ、一番偉いひと」
 こっそりと友達が教えてくれる。でも一番偉いのは神さまだろ、と言えばそうだけどと言い淀んだが、やはり首をゆるりと振ってそれでも偉いひとだよと言った。
「その本は××××の書。教皇様が身寄りのない貴方達を哀れみ、自ら編纂してくださったものです。これを読めば御使い××××の加護が得られるでしょう」
 シスターが十字をきり、まことにかくあれかしと祈りを捧げる。その声は少し聞き取りづらく、目の前の本が何であるのか、読めばどうなるのかを聞き逃してしまったが、もう一度言ってくださいと言うのも憚られるような空気を彼女は纏っていた。
「なあ、どういうこと?」
「君ってば聖書はちゃんと読んでる? 天使さまが守ってくださるってことさ」
「それって本当に?」
「さあね」
 友達が肩を竦めれば、さあ、とシスターの声が耳に飛び込んできた。おしゃべりをやめてそちらを見る。また何か聞き逃すと面倒だ
「では……今から読んでいきましょう。本を開いて」
 シスターに言われるがままに本を開く。指先に触れた革製の表紙、その冷たさにぞくりと背筋が震えた。おそるおそる、ゆっくりと。そこに書かれていたのは奇妙な図形と、自分達がいつも教わるような文字ではない、文字のような、ものだった。
 それが視界に入った瞬間、少年は自分の中に嵐が巻き起こったような心地に襲われた。どう読めばいいのかすら分からない文字列から目を離せないまま、ぐらりと視界が揺らいだが、身体、指一本、視線ひとつすら動かせない。ぐらぐらと強い目眩の中、目頭から涙だろうか、とろりとした何かが溢れたのを感じる。
 耳元で優しい声が笑い、囁き、歌う。
 その声は少年の脳を締め付けてきてたまらず呻けば肺を、身体を、燃えさかるような熱が満たした。
「あ、ぐ……!」
 嵐のまっただ中のようなの感覚に抗い、ようやく文字列から視線を外すことが叶って少年は顔を上げた。霞む視界は教室を映しているが、異様な空気を孕んでいる。先ほどまで自分と同じように行儀良く座っていた孤児達の様子がおかしい。
 己の爪で頬を引っ掻きながら叫ぶ少年、ただひたすらに十字をきり、聖句を唱える少女、虚空を見つめたままぴくりとも動かない少年。
 誰も彼も、おかしくなっている。
 しかしシスターは皆の異変にも動じず穏やかに微笑んだままだ。
……×××?」
 重たく、まともに動かせない頭を動かし、隣の友達は無事であろうかとそちらを見やる。彼ならば何か教えてくれるかもしれないという淡い期待もあった。
 何故なら彼はいつも本を読んでいて、色々と知っていて。
「×××――

 
 ひとつ、堕ちる音がした。金切り声、聖句を唱え続ける声、笑い声、囁く声、歌声。
 全てが頭の中で渦を巻いている。
 嵐は激しくなるばかりだが、そんな中ではっきりとひとつの音を聞いた。
 熟れすぎた林檎が、木から堕ちるような音だ。