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kurotera
2025-02-24 08:27:05
174619文字
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You are what your back bears
2022年6月に発行したイノセントブレス IB本の再録です。
発行から一年経ち、頒布も終了しているので掲載。
当時手に取っていただいたかた、ありがとうございます。
【概要】
ぼくのかんがえたさいきょうのイノセントブレス本(非公式)
無印三部前提
出てくるメンバー:教会勢、ラプラスの悪魔、ダーククロウ、LL、無銘
ですが無銘の四名とダーククロウさんは本当に一瞬です。あくまでIB中心。
戦闘と日常の比率は6:4ぐらい。当社比。
書き手の趣味が爆発してえらいことになりました。
要素/注意
九割捏造。特に過去。
公式ファンブック旧版と一部キャラクターメッセージカードを元に当時は執筆していますが、未所持のカードもあるので設定にずれが生じています。
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「教皇様の護衛!?」
ラジエルの叫び声が詰め所に響く。廊下にも届かんばかりの大声にサマエルが顔を顰めて、うるさい、と言い漏らすのはいつも通りだ。
「ええ、一週間後の復活祭にあわせて東部地域で一番大きな都市に訪問なさるの。もちろん教皇猊下には直属部隊の使徒がいるから、彼らが直接の護衛をするでしょうけど」
シスター・ゴーの声も戸惑いを隠せていない。使徒に任命されてまだ半年ほどしか経たない新人が、何故教皇の護衛任務に就かせられるのか理解しかねるといった様子だ。
「あまり納得していないみたいだね、シスター」
「ええ、ええ
……
貴方達に付くシスターとして言うのもなんだけど、教皇の巡礼や訪問の為の護衛任務に就くのは本来、ある程度の実戦経験のある使徒が通例なの」
「まあそうだろうな、組織の一番上を狙う奴なんてごまんといるだろうし、実戦経験が豊富な使徒のほうが適任だ」
そこは分かっているよとザドギエルが頷く。
「じゃあなんで俺達なわけ」
「
……
それがねぇ」
シスターが言いにくそうに眉を顰める。教皇猊下直々の命なのよ、と答えれば五人が顔を見合わせた。
「
……
俺達なんかした?」
「やらかしたとすればお前だろうな、ラジエル」
「ハァ? 最初の挨拶はちゃんとしたし、頑張りますって言ったぜ? 布越しだったから顔なんて知らねーけどさ」
「はいはい、喧嘩するなって」
「
…………
サンダルフォンさん?」
言い合うラジエルとサマエルの二人を宥めるザドギエルをよそに黙ったまま目を伏せているサンダルフォンに気がついたのか、ハニエルが声をかける。
――
……
教皇ミカエル様
――
初めて謁見した日のことを思い出せばつきつきと軽い頭痛がした。思えば『IB』の隊長を自分に任命したのも彼の命だと聞く。とにかく、とシスターが一つ手を叩いた音にはっと顔を上げる。皆も彼女の声に反応して、彼女を見つめた。
「これまでの任務とはまた違った、重要な任務よ。
……
何ごともないことが一番だけど、まだ国内の情勢は安定していない。悪魔と手を組んだ人間が教皇猊下やその周辺を狙うには充分なチャンスよ。気を引き締めてかかりましょう」
「了解、シスター」
つつがなく会議が終わり、仲間が出て行くのを見送る。
最後にハニエルがそそくさと詰め所を出たのを確認してから、開けていた窓をやけにのんびりとした調子で閉めるシスターを見やった。
サンダルフォンの視線を感じたのか、彼女がくすくすと笑う。
「さ、シスター・ゴーちゃんに話してみなさいな」
「
…………
お見通しなんだね」
「きっとハニエルもよ。ずっと貴方を気に掛けていたの、気付いていた?」
シスターの言葉についさっきハニエルが出て行った扉を見やる。確かにいつもより部屋を出る準備が遅かったような気がする。
「今度、街で何か果物か菓子でも買ってあげようかな」
「それがいいわ。喜ぶわよ、あの子」
窓を閉め終わり、シスターがソファに座る。かけなさい、とサンダルフォンのいつもの席を指差せば、若い使徒は素直に腰掛ける。
「
……
今度の任務、東部地域で一番大きな都市だってね」
「ええ、もしかして心当たりがあるのかしら」
サンダルフォンは東部地域の生まれだった。小さな街で、ライ麦畑を育てるのが主な生業だったが今はもう、ない。
「街の神父様に連れられて
……
大きな聖堂に行ったんだ。オレがそこの聖歌隊に興味があることを聞いたんだろうね。友達も一緒でね、あの大聖堂の他にも色んなものを見せてくれた。市場なんてオレ達の街とは比べものにならないぐらいの賑わいだったよ」
「そう
……
」
シスターが淹れてテーブルに置いた紅茶を一口飲む。
「教皇様は何をお考えになって、まだ使徒になって日の浅いオレ達を護衛任務に就くよう命じたのだろう」
「
……
私も分からないわ。教皇猊下のお考えなんてきっと私達には考えもつかないものよ。
……
だからこそ、こう思ってもいいと思うの」
シスターがティーカップを手に、そこに満たされた温かな飲み物に視線を落とす。
「今は考えてもしょうがないって」
「
……
名言だ」
「実際そうよ。理由がどうあれ使徒としての任務は変わらない。成すべき事を成すしかない時もあるわけよ。
……
そしてそれが答えに辿り着く近道だったりするの」
シスターの青い目がサンダルフォンを見つめる。確かに、と曖昧に頷いた。
「勿論、思考停止しろとは言わない。それは楽だろうけど危険なことよ。貴方が貴方でいる為に、貴方が感じたことや心を大切にして。そうすれば主はきちんと見ていてくださる。悩める貴方の道を、照らしてくださる筈よ」
シスターの言葉はともすれば根拠のないものに聞こえた。しかしサンダルフォンにとってそれは納得するに値する響きを孕んでいた。聖書に書かれたどの聖句よりも、たしかな言葉だと思える。
「
……
シスターが修道女みたいなことを言うの、初めて聞いたよ」
「まっ、失礼ねえ」
でも許してあげる。シスターのウィンクに笑って、もう一口紅茶を飲んだ。
「そういえば
……
今朝、いつもの聖堂でとある使徒に出会ってね」
「あら、誰かしら」
「教皇直属の使徒だった。白い儀仗服の
……
」
確か、と今朝の出来事を思い出す。コバルトグリーンの目をした、少年。
「クシエル、そう名乗ったんだ」
「あら、クシエルちゃん? 珍しいわね、いつも教皇のおそばにいらっしゃるから、中々神学校には顔を出さないのよ」
「散歩途中だって」
「あらあら、かわいらしい」
それともう一人。褐色の肌をした男を思い出す。彼も教皇直属の使徒なのだろう。
「あとは
……
褐色の肌で
……
黒い髪の
……
」
「やだ、本当に珍しいわね! カマエル様なんて年に数回の式典ぐらいしか
……
」
「
……
まるで珍しい生き物みたいな言い方だけど、大丈夫かい」
サンダルフォンの言葉にシスターが軽い咳払いをしたのち、ふと首を傾げた。
「もう一人いなかった?」
「いいや」
「そう、まあ彼が教皇様を放って聖堂にいたら本当に明日は嵐ってぐらいには
……
」
「待って、シスター。誰のこと?」
「メタトロン様よ」
貴方は会った筈だけど、と言われるものの心当たりが見つからずに首を振る。その様子に何かを察したシスターが言葉を続けた。
「そうね、貴方は気を失っていたから
……
初めての教皇謁見の時に、倒れた貴方を医務室に運んだ方よ。ちょうど教皇の護衛をしていらっしゃって
……
きっと貴方が目を覚ます前に、教皇様のもとに帰ったのでしょうね」
「メタトロン、さま
……
」
どのようなお方だろうか、と考える。あの時のことは何も覚えていない。それこそ教皇ミカエルの声や話していた事も未だに朧気だ。
「それなら、礼を言いたいな
……
」
「それは
……
難しいわね。普通の使徒が彼らに声をかけるのって、憚られているから」
「みたいだね。クシエル様が仰っていたよ。あまりオレ達と喋ってはいけないって」
どんなお方なのか知っているのかい、と問えば彼女は目を伏せて思案する。
「使徒の鑑のような御方よ。『教会』の教義を体現したような、そんな方。これは噂だけど
……
強い悪魔を倒す為に村一帯を焼き払ったこともあるって。とにかく厳しい方で上層部も一部以外は口出しが出来ないそうよ」
「そんな厳しい方が
……
どうしてオレを」
分からないわ、とシスターが肩を竦める。
「でももしかすると今回の任務でお見かけぐらいは出来るかもしれないわね。教皇様は大聖堂で住民に向けてお話をされるそうだし、彼はいつも教皇のお側にいるから」
「
……
」
ふと窓の外に視線を向ける。
よく晴れていて、ちょうどタイミング良く白鳩が横切るのが見えた。全てシスターの言う通りだ、と腑に落ちたサンダルフォンがティーカップを置く。
「ありがとう、シスター」
「ええ、貴方の力になれればいいのだけど」
シスターの言葉に勿論だよ、とサンダルフォンが笑う。紅茶、ごちそうさま、と言い残して、部屋を出た。春の陽気を浴びながら、廊下を歩く。
「サンダルフォンじゃないか」
不意に声をかけられて振り向く。
そこには黒衣の使徒、アブディエルが立っていた。
「正直、オレも驚いた。護衛に付く使徒のリストにお前達がいたのにはな」
「アブディエルさん達も護衛を命じられたのですね」
「まあ、そうだな。今までにも何度かあるが
……
あまり不安がることもない。ああいった行事に悪魔が出てくることなんて稀だ。事前に怪しい動きが無いか調べるし、何かあればオレ達が対処する。
……
あまり気負いすぎるな」
「
……
ありがとうございます」
アブディエルの言葉は不器用ながらもサンダルフォンを気遣っているように思えた。それでも心のざわつきが収まらず、小さく息を吐く。そんなサンダルフォンの様子をちらりと見て、アブディエルが言葉を探すように視線を彷徨わせる。
「オレはお前達を買っている。初めて悪魔退治に同行させた日を覚えているか」
「
……
はい。厳しい言葉ばかり貰いましたがこうして任務を重ねていくと貴方の言葉は正しいと思うことばかりです。この半年間でどれだけ成長できたかは分かりませんが」
サンダルフォンの言葉にふん、とアブディエルが鼻を鳴らす。それから緩く笑って、首を振った。
「オレからすればまだまだだな」
アブディエルの言葉にふふ、とサンダルフォンが笑い飴色の目を細め、遠くを見る。
「それでも成すべきことを成すだけです」
「ほう
……
良い心構えだ」
「オレ達のシスターからの受け売りですが」
軽く目を見開いたアブディエルに、サンダルフォンが悪戯っぽく返す。それからにやりと互いに笑えば、鐘の音が鳴り響いた。
「とにかく、お前達ならきっと大丈夫だ。また任務でな」
サンダルフォンの肩を軽く叩き、アブディエルが立ち去る。はい、とサンダルフォンが答え、次の授業へと向かうべく歩き出した。
蝋燭の灯りを便りに、届いた文を読む。老いの兆しが刻まれた男の顔はどこか憂いを帯びていた。その文には一週間後の復活祭の為の段取りが書かれている。毎年この都市では盛大な復活祭が執り行われるが、今年はまた別に大きな行事が加わることとなった。
「いよいよ教皇猊下が来られる
……
」
低く唸り、男は眉間を揉む。初めてその通達が来たのは一ヶ月前だ。その知らせのおかげでここ暫く、大聖堂は騒がしかった。
「司教様」
「なっ!?」
不意にかけられた声に男
――
司教はがたりと立ち上がる。ノックもせずに扉から入ってきた人の影を見て、盗人かと衛兵を呼ぶべく口を開いた。
「お待ちください、司教様。このような形でお訪ねする無礼をお許しいただけませんでしょうか」
その者が穏やかに司教を制す。身なりの割には丁寧な、どこか品の良い振る舞いに司教は片眉を上げた。
「もしや、お前」
「はい、数日前に手紙を
……
そこに置いた者です。今宵は司教様に、我々の持つ真実を知っていただきたく馳せ参じました」
男は外套に手を入れ、一通の便せんを取り出す。自分と侵入者以外には誰もいない筈の部屋なのに、司教はそろりと周りを窺った後それを受け取る。
「貴方が今の教会に思うところがある事は聞いております。その文に書かれているのは真実、天上の主に誓って偽りはございません」
男の言葉に司教が唸る。確かに最近の『教会』には思うところがある。元々信仰を司る為の組織だ。それが最近は国の復興、安寧を取り戻すという瞑目で逸脱しつつあるとは考えていた。『教会』はあくまで神を信じ救いを求める人々の拠り所でなければならない。手紙を受け取った司教の葛藤を感じ取ったのか、男が一礼する。
「その手紙、お読みになったならどうか火にくべてください。それを読んでどう感じるかは、お任せ致します
……
そしてもう一つ」
外套のフードの奥で青紫の眼差しが司教を見抜く。
「一週間後の復活祭。それが教皇の最期となるでしょう」
そう言い残し、男が影のように扉から消える。薄暗い部屋に蝋燭の灯が揺れた。
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