kurotera
2025-02-24 08:27:05
174619文字
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You are what your back bears

2022年6月に発行したイノセントブレス IB本の再録です。
発行から一年経ち、頒布も終了しているので掲載。
当時手に取っていただいたかた、ありがとうございます。

【概要】
ぼくのかんがえたさいきょうのイノセントブレス本(非公式)
無印三部前提
出てくるメンバー:教会勢、ラプラスの悪魔、ダーククロウ、LL、無銘
ですが無銘の四名とダーククロウさんは本当に一瞬です。あくまでIB中心。
戦闘と日常の比率は6:4ぐらい。当社比。
書き手の趣味が爆発してえらいことになりました。

要素/注意
九割捏造。特に過去。
公式ファンブック旧版と一部キャラクターメッセージカードを元に当時は執筆していますが、未所持のカードもあるので設定にずれが生じています。


「ばらにつつまれて なでしこにかこまれて おねむりなさい あしたのあさにかみさまが ちゃんとおこしてくださいますよう」
 明け方の地平線からのぼりゆく光をバルコニーで眺めながら、クシエルがぽつぽつと歌を口ずさむ。悪いものたちはあの光に追い立てられ、影の中に姿を隠すのだといつだかにカマエルに教わったことがある。それはとてもよいことなのだ。
 それならずっと昼であればいいのに、とそれを聞いたときに考えた。煌々と燃える太陽がずっとあればきっと明るいまま、悪いものは出てこられずにそこで朽ちていくのにと。クシエルの言葉にカマエルは苦笑いを零して、ゆっくりと首を振った。
 それでは皆眠ることが出来なくなってしまう。夜は悪いものを呼ぶけれど、俺達の眠りも共に運んでくるのだと。そして朝を迎えたものだけが、神の祝福を受ける権利を得ることができるのだ、と。
「ばらにつつまれて なでしこにかこまれて おねむりなさい あしたのあさにかみさまが ちゃんとおこしてくださいますよう」
 この子守歌は、『教会』に教わったものではない。親も知らず、自らの名も知らない自分が唯一持っていた記憶だ。これは教皇ミカエルや、あのカマエルにも秘密にしているが、時折こうして、口ずさみたくなる。
 ――朝が始まる。神が世界を呼びさます。


 今日はどこも賑やかだ。復活祭を祝うだけでも活気づくというのに、今回はそれ以上だ。この地に『教会』の長たる教皇がやってきたのだ、当然と言える。
 信仰の厚い信徒達がいそいそと家を出て大聖堂へ向かう様を眺める。彼らは知らないのだろう、自分達が崇拝している対象が、悪魔と同意義であることを。
 無知は罪であると誰が言っただろうか、しかし、幾重にも重ねられた偽りの教義を暴くことは容易くは無い。自分達だって彼女の手紙がなければ、気づきすらしなかった。
「いやぁ、盛り上がっちゃってるねえ」
 マホガニーのくせっ毛を弄りつつ、青年は表通りを行き交う人々を眺めて呆れ声を漏らす。薄暗く狭い路地裏に、三人の男の影があった。
「教皇を見に来た民衆に紛れて、彼を暗殺する……本当に上手くいくと思うか?」
 疑念を孕んだ青紫色の眼差しが、ヴァーミリオンの髪の男に向けられる。日の当たる表通りを睨み付け、忌ま忌ましそうに鼻を鳴らした。
「どうだかな。奴らはまだオレ達を信用してねえって事だろ」
「本当はベリアルがやりたかったんでしょ。でも選ばれたのは別の同胞。ま、思う所はあるよねえ……でもさ」
 その方が良かったんじゃない? どこか冷たさも感じるような声にトパーズ色の瞳が細められ、二人の同胞に向けられた。
「とにかく……こちらも打てる手は打った。あれを殺せるかどうかはともかく、『教会』に跪く人間だけじゃねえってことをあいつらや信徒共に知らせる事が出来れば上等だろう。『教会』の好き勝手にはさせねえってな」
……そうだな、まだ『教会』の中には保守派が少なからずいる。手紙を渡した司教がどうでるか……危険な賭けだが」
「で、俺達はどうするの?」
 暢気に問われ、刀の柄を握る。
「今は動くな。何が起こるか分からねえからな、警戒しろ、カスピエル、クザファン」
「ああ」
「はいはいっと」
 再び身を隠すべく、路地裏の奥へと向かう。あ、とカスピエルが小さく声をあげ、それからベリアルに振り向いた。
「彼、いるかな。そろそろ使徒になっててもいい歳でしょ」
……さあな。どうでもいい」
 吐き捨てるようなベリアルの声ににやりと笑い、カスピエルも歩き出す。表通りは相変わらず、賑やかであった。


「教皇様! 神に似たる御方!」
「アレルヤ、教皇ミカエル様、アレルヤ、教会!」
 口々に祝福を唱える民衆の表情は喜びに満ちている。
 教皇を湛える彼らの姿に、サンダルフォンは一瞬圧倒された。こんなにも国の人々に愛されている教皇は、後にも先にも現教皇ミカエルぐらいではないだろうか。聞く話によると教皇を一目見ようとする民衆が多すぎて、『教会』側が招く民衆を貧富の区別無く選んだという。選ばれたといっても殆どが普段は街で慎ましやかに暮らす人々だ。それがこんなにも熱狂しているのは、どこか異様ですらある。
――すごい熱気だな……怖いぐらいだ。何ごとも起こらなければいいのだけど――
 サンダルフォンは式典広場の警備の一人に任命されていた。他の仲間は街の住宅区での警備だ。皆も位置についただろうか、とふと気になったところで、楽隊のファンファーレが鳴り響いた。大聖堂の扉から何人かがこちらにやってくる。
 この大聖堂の司教達と、キザキ神父、そして。
「あれが教皇ミカエル様……! なんとお美しい」
 民衆の一人が感嘆の声をあげる。白い法衣を身に着けた、鳶色の髪の若い男が静かに歩んでくるのを、サンダルフォンは見た。
 ここからでは小さくしか見えないがどこか惹きつけられるような雰囲気を纏っている。
 彼が壇上に上がれば彼の傍にいたキザキ神父が口を開いた。
「みなのもの、静粛に。ミカエル教皇猊下のお言葉に耳を傾けよ」
『教会』の持つ道具の力だろう、キザキ神父の声が式典会場全体に響き渡る。重々しいその声に祝福の言葉を口々に唱えていた民衆が、さざ波がひくように静まった。
「皆、盛大な歓迎感謝するよ。俺は神の代理人として『教会』の頂を預かる者、教皇ミカエル。復活祭のこのよき日を皆で祝おう」
 凜とした声が民衆へと向けられる。
 拍手が沸き起こり、信心深い人は十字をきって祈りを捧げだすのが見える。民衆の喝采が鳴り止むのを待ち言葉を続ける。
「百年戦争、そして黒い病の蔓延から随分と時が経った。だが昔の平穏な日々を取り戻したとは未だ言いがたい。北部地域を覆った永い冬もそうだ。我らの敵対者たる悪魔も、
戦禍の残り火も火傷のようにこの国を、皆を苦しめている。あなた達が感じている苦しみには我らが主も胸を痛めておいでだろう。私にはわかる」
 教皇の演説に静かに聴き入る民衆の中、人混みが手薄な中に奇妙な人影を見つけた。 
 それが小刻みに痙攣を起こした男であることに気付き、サンダルフォンが目を細める。
――具合がよくないのだろうか――
 一歩踏み出し、失礼、と民衆の群れをかき分ける。男は俯き、ぶつぶつと何かを呟きながら震えていた。どことなく顔色も悪い。
「どうされましたか、お体の具合でも……
 男の肩に軽く手を置き呼びかける。その瞬間、ぐりん、と首を捻り男がこちらを向く。
 その手には銃が握られていた。
「っ、!」
 それを見た瞬間、サンダルフォンがとっさに男の腕を押さえる。民衆だと思っていた男の力は予想以上に強く気を抜けば振りほどかれそうなほどだった。
 聴衆のど真ん中で取っ組み合いが始まったのに、周囲から悲鳴があがり空気が一変する。蜘蛛の子を散らすように、サンダルフォンと男の周りから人がひいた。
「お前、何を!」
「ア、アア……!」
 呻く男の眼と口からは血がぼたぼたとこぼれ落ちている。
 そんな状態にも関わらずついにサンダルフォンの腕を振りほどき、男が銃を教皇へと向ければすぐに銃声が響き、悲鳴が上がった。