kurotera
2025-02-24 08:27:05
174619文字
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You are what your back bears

2022年6月に発行したイノセントブレス IB本の再録です。
発行から一年経ち、頒布も終了しているので掲載。
当時手に取っていただいたかた、ありがとうございます。

【概要】
ぼくのかんがえたさいきょうのイノセントブレス本(非公式)
無印三部前提
出てくるメンバー:教会勢、ラプラスの悪魔、ダーククロウ、LL、無銘
ですが無銘の四名とダーククロウさんは本当に一瞬です。あくまでIB中心。
戦闘と日常の比率は6:4ぐらい。当社比。
書き手の趣味が爆発してえらいことになりました。

要素/注意
九割捏造。特に過去。
公式ファンブック旧版と一部キャラクターメッセージカードを元に当時は執筆していますが、未所持のカードもあるので設定にずれが生じています。


 詰め所に戻るとそこにはハニエルがいた。部屋に入ってきたザドギエルとシスター・ゴーを見るなり、あ、と小さく声をあげてぺこりと頭を下げる。
「こんにちは、ハニエル。急に呼び出しちゃって悪いわね」
「いえ……
 シスターの労いに小さく首を振り、横目でそろりとザドギエルを見る。しかしすぐに視線を逸らしてしまった。
「あの、お話があるって……
「そうなのよ、上から任務を仰せつかって……ザドギエルも、要件はそれよ」
 なるほど、とザドギエルが頷きながらハニエルの隣に座る。そして今この部屋にいるのは自分とハニエル、シスターしかいないことに気がつき、あれ、と首を傾げた。
「じゃあ三人も来るのか。サンダルフォンはそんな素振り見せなかったけど」
「いいえ、今回はあなた達二人だけで行って貰うことになるの」
 シスターの言葉にえ、とハニエルが顔をあげた。軽く狼狽えながらシスターとザドギエルを交互に見つめ、眉を下げる。
「あの、どうしてでしょう」
「理由はまあ、色々とあるのだけど……今回の任務は五人だと多すぎるの」
……多すぎる?」
 理解が追いつかずにきょとんとした顔でシスターを見る二人をじっと見返す。
 いつもは穏やかなその表情が一瞬こわばり、ゆっくりと語り始めた。

 北西部にある村から連絡が途絶えたのは、生誕祭の頃からだろうか。その村には聖都出身の神父が布教の為に駐在していて、定期的に報告があがってくる筈なのだが冬からずっと連絡がつかないでいる。最後に届いた報告書には村に派閥が出来てしまい、互いにいがみ合っている旨と、それについて心を痛めていることが書かれていた。
「えっと……村長派も、村長の息子派も、互いにいがみ合っております。夏頃からそういった兆しは見受けられたのですが私の説得も空しく……
「村長派が云々、その対立派が云々、なんてよくある話ね」
 ハニエルが神父からの手紙を読み上げればシスターが呆れた声で返す。その手には同じ送り主らしい手紙が何通か握られている。
 まあそれはどうでもいいことよ、とシスターが続けた。
「とにかく、『教会』とこれほどやり取りをしていた神父からの便りが途絶えたのが気がかりみたいね。村に悪い奴らが攻めてきて全滅はまだいいほうなんだけど……
「わかったよ、シスター。村を見てこいってことだな」
 ザドギエルが頷く。ハニエルは少し迷った後、二人、ともう一度呟いた。不安を隠せないでいる仲間の肩に手を置き、大丈夫、と目で訴えればおずおずと頷いた。
「出発は三日後。それまでに準備を怠らないようにするのよ」
「ああ、分かった……ハニエル、よろしくな」
「っ、は、はいっ……よろしくおねがい、します……
 たどたどしく返してくるハニエルにザドギエルがああ、と答える。この引っ込み思案な少年と同じ部隊になって随分経ったように思えるが、まだ彼からは遠慮というか、怯えのようなものを感じ取っていた。
――上手くいけばいいけど……――
 少しの杞憂を抱えながらザドギエルが立ち上がる。
 とにかく、準備は万全にしなければならない。部屋を出て行く二人の使徒を見送り、シスターはゆっくりと息を吐く。それからしばらくして、残った仕事を片付けるべく椅子に座り直した。

 出発前夜、鳩舎では白鳩達が羽根を休めていた。
「ボー、おいで、おやすみの時間です」
 ハニエルが窓の傍で羽根を繕っている白鳩を呼ぶ。
 優しい声を聞いた白鳩は少年の腕に登った。
「ヴァン、ブリーズ、ラファルも戻って……エクレールは東部地域にお手紙を届けに行っているんでしたっけ……
 鳩舎で眠りに就こうとする彼らに声をかけながら、数を数える。明日の朝には暫く留守にするのだ。自分がいない間は他の飼育委員、特にオファニムが世話をしてくれるだろう。いい子でいてくださいねと呼びかけながらも頭に浮かぶのは任務に対する不安だ。
……オレ、ちゃんと任務を遂行出来るでしょうか……
 すごく不安なんです。思わずそう零してから誰か聞いていないだろうかと周囲を窺って、言葉を続ける。
「ザドギエルさんは強いんです。弱いオレをいつも助けてくれて……オレも頑張って援護をしないといけないのに……
 大きなため息を漏らせば白鳩が手の甲を軽くつつく素振りを見せたのに慌てて彼を、寝床に戻した。
「おやすみなさい、皆」
 鳩舎を出て扉に錠を付ける。急いで帰ろうと寄宿舎への道を歩こうとすれば、サンダルフォンと出くわした。
「サンダルフォンさん?」
 どうしてここに、と戸惑いながらハニエルが問いかけるのに、ふふ、とサンダルフォンは悪戯っぽく笑いかけてくる。
「少し散歩がしたくて、でももう戻るよ」
「そう、なんですか……?」
「まあそれは建前なんだけどね。実のところはハニエルと話をしたかったから」
 明日から任務だろ、とサンダルフォンが問えばハニエルが頷く。
 なんと言われるのだろうか、彼は普段は優しいが『IB』の隊長として厳しい所もある。ちゃんと任務を全うするようにだとか、ザドギエルの足を引っ張るなだとか、そういう忠告をされるのではないかとハニエルは眉を下げた。
 そうして強ばる指先を、サンダルフォンがそっと握る。
「気をつけて行ってくるんだよ。シスターから今回の任務は二人だけだと聞いて……いてもたってもいられなくてね」
「あ……あの、はい……ありがとうございます……
 予想に反したサンダルフォンの言葉に戸惑いながらハニエルが頷けば、飴色の瞳がすっと細められる。それから口元に笑みを浮かべて、言葉を続けた。
「ザドギエルのことを、頼むよ」
「えっ」
 その言葉に驚いてすぐにぶんぶんと首を振る。狼狽えながらハニエルが言葉を探す。
「あ、あのっ、逆ですっ! オレのほうが……ザドギエルさんの足手まといになるんじゃないかって……もしかしたらザドギエルさんなら倒せる強い悪魔でもオレがいるせいで、もし……
 少しずつ声が小さくなっていくのにサンダルフォンは遮ることなく耳を傾けている。
 ついにハニエルの言葉が潰えた後、うーん、と軽く思案してそれから、サンダルフォンはゆっくりと首を振った。
「確かにザドギエルは強いよ。いつも真っ先に悪魔に向かっていくし、彼の能力も、強力だ。でもね、それがいつも最善であるなんて限らないじゃないか」
……、でも……
 サンダルフォンの言葉の意味を考えてみるが理解に及ばない。力も強い、度胸も自分では考えられないほど据わっている。こと悪魔との戦いに関しては、彼は何も恐れない。それがハニエルにとっては、理想の使徒そのものだった。
 しかしサンダルフォンがそれを必ずしも、と否定する。ハニエルの言いたいことをくみ取ってか、サンダルフォンは頷いた。
「彼は自分を大切に出来ないとオレは思ってる」
 サンダルフォンの言葉にハニエルが目を見開く。
「ザドギエルは悪魔と相対した時、真っ先に先陣をきるだろう。裏を返せば真っ先に敵の的になりにいくということだ。そしてもし、オレやハニエルが悪魔の爪に引き裂かれそうになればザドギエルは身を挺して庇うだろう。それは自分が引き裂かれてもいいと思っていると同義だ。彼の血が悪魔に対して強い作用を及ぼすからと言って、ザドギエルが傷ついていいという理由にはならないよ。オレは時折どうしても考えてしまうんだ。彼がそうするのは……彼が無意識に死に向かっているんじゃないのかって」
「そんなこと……
 ない、とは言い切れなかった。
 思い返せばそうだ、どれほど悪魔が群れていても、強い悪魔でも、彼はお構いなしに剣を抜いて走っていく。仲間を庇って傷つくのにも一切の躊躇を見せない。
 それは、強い使徒の姿ではある。しかしどこかその振る舞いにハニエルは憧れと共に畏怖のようなものを抱いていたのではと今、自覚した。
……でもどうしてそこまで」
「さあね。オレは彼の過去を知らないし、彼も話さないだろ。ただ使徒として強い使命を持っているだけなのかもしれないけど……
 サンダルフォンが言葉を切る。脳裏に浮かぶのはいつか先輩と彼が交わしていた会話と、マリアヴェールのことだ。
 どうして彼は加護のマリアヴェールをかたくなに被らないのだろうか。自分の血で汚れたくないからと言っていたが、それこそ、その理由は別の事情を覆い隠すヴェールのように思えた。
 ハニエルの不思議そうな視線を感じ、とにかく、と仕切り直す。
「オレは……少し嫌だなって思ってる。あいつ本人は納得して怪我をして、そうしていつか死んでしまっても悔いはないだろうね。でも遺されたこっちとしてはたまったものじゃないよ。ふざけないでくれって言いたくならないかい、ハニエル」
 サンダルフォンの声色は僅かな苛立ちを孕んでいた。ザドギエルの自己犠牲じみた振る舞いに思うところが何度かあったらしい。
「だからハニエル、お願いだ」
 サンダルフォンが立ち止まり、ハニエルの手を握る。
「いざという時にはハニエルがザドギエルを助けてあげて欲しい。君のやり方でいいから……そして、二人で無事にここへ帰ってくるんだよ」
 サンダルフォンの飴色の眼差しを真っ直ぐに向けられて、ハニエルは琥珀色の双眸を軽く、見開いた。でも、オレは、と言いかけて口を噤む。
 でも、だなんて逃げだ。
 この時ばかりは、そう思った。
「はい、必ず」
 真っ直ぐに見つめ返し、はっきりとそう答えた。