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kurotera
2025-02-24 08:27:05
174619文字
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You are what your back bears
2022年6月に発行したイノセントブレス IB本の再録です。
発行から一年経ち、頒布も終了しているので掲載。
当時手に取っていただいたかた、ありがとうございます。
【概要】
ぼくのかんがえたさいきょうのイノセントブレス本(非公式)
無印三部前提
出てくるメンバー:教会勢、ラプラスの悪魔、ダーククロウ、LL、無銘
ですが無銘の四名とダーククロウさんは本当に一瞬です。あくまでIB中心。
戦闘と日常の比率は6:4ぐらい。当社比。
書き手の趣味が爆発してえらいことになりました。
要素/注意
九割捏造。特に過去。
公式ファンブック旧版と一部キャラクターメッセージカードを元に当時は執筆していますが、未所持のカードもあるので設定にずれが生じています。
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ひゅ、と冷たい空気が肺を満たす。窓の外で叫ぶ雄鶏の声にゆっくりと目を開ければ、見慣れてきた天井が視界に入った。寝返りを打ちもう一度目を瞑ってみたものの、その瞬間に大きな鐘の音が鳴り響くのに深い息を吐きのろのろと起き上がれば瞬きをする。窓から差し込む陽光が、痛い。身支度を済ませ、机に歩み寄る。そこには自分の持ち物としては不相応に豪奢な、天使の姿が彫刻された箱が置いてあった。
自分にしか分からない仕掛けを解いてその蓋を開ける。
そこにはザドギエル自らの血で満たされたカートリッジが収められていた。ひとつ、ふたつと取り出してホルスターに差し込めば、あれ、とザドギエルは声を漏らした。
「
……
そんなに使ったかな?」
最後の一本を指で摘まみゆるく振りながら思い出すのは最後に就いた任務だ。
中級の悪魔が一体とその取り巻きの討伐に向かったのだが、ハニエルのサポートもあってあまり損害は出なかった。幾分か強くなったもののハニエルの戦闘能力の低さはやはり課題であるとは感じたが、ザドギエルはハニエルの力はそれを補って余りあるものだと思っていたし、なにより大切な仲間だ。どれだけ血を流しても惜しくはない。
補充しないと、と思い立ち箱の蓋を閉める。
部屋を出て一階に下りれば、おはよう、とサンダルフォンが声をかけてきた。聖歌の練習を終えたらしい彼は一休みをしていた所らしくソファで紅茶を味わっていた。
「おはよう、サンダルフォン。相変わらず早起きだな」
「そう? ザドギエルはいつも通りだね」
くすくすと笑うサンダルフォンに反論出来ず、テーブルに残っていたクッキーを摘まみ食いする。行儀が悪いよ、と軽く窘めてくるサンダルフォンの声を躱しながら水と共に飲みこんだ。
「そうだ。シスターが話があるって」
「俺に? また小言かな」
「心当たりでもあるのかい」
「それはもう」
悪びれる素振りもないザドギエルをちらりと見やって、サンダルフォンが目を細める。
「確かにオレも言いたいことは少しあるけど
……
まあ、行っておいでよ」
「了解」
寄宿舎を出て、神学校にある詰め所へと向かう。
時折、強い風が吹き抜ける中で道行く生徒が寒い寒いと足早に歩いて行くのが見える。そろそろ暦の上では春だが、寒さは未だ居座っているらしい。
学舎内の詰め所、アイリスの紋章が刻まれた扉を叩く。どうぞ、と柔らかな声が促すのを聞いて、静かに扉を開いた。椅子に座って羊皮紙を眺めていたシスター・ゴーがこちらに微笑んできたのに、やあ、と軽く手をあげた。
「あら、ザドギエル」
「おはよう、シスター」
いつにも増して寝ぼすけねえ、とシスターに笑われながら部屋に入り、ザドギエルが苦笑いする。
「ここ数日、寝付きが悪くてさ。話を聞きに来たんだけど、その前にカートリッジを作りたいんだ。もうストックがなくて」
「あら、大変じゃない! 育ち盛りなんだから寝ないと大きくなれないわよ」
「
……
これ以上でかくなったらいよいよハニエルの首が痛むね」
それもそうね、とシスターが笑う。いいわ、と立ち上がりちらりと時計を見た。まだ時間はあるし、先にそちらを片付けましょうと言い、引き出しから鍵を取り出した。
窓から陽光をたっぷりと取り込んだ廊下は、白く目映い。シスターの少し後ろをついていきながら、彼女が今朝がたに遭遇したラジエルとサマエルの言い合いの経緯をほとほと困った様子で語るのに、適当に相づちをうつ。
「ラジエルももう少し落ち着きがあればね
…………
ちょっとザドギエル?」
「ん、あ? なに」
シスターの不満げな声に意識を引き戻されて、ザドギエルがそちらを見やると呆れた顔でシスターが少年を軽く睨む。
「なに、じゃないわよぉ。レディのおしゃべりにはちゃんと付き合わなきゃ、いい男になれないって教わらなかった?」
「レディ
……
ね。もちろん敬虔でお淑やかなレディがいれば喜んで拝聴するけど」
「まっ、生意気ねえ」
軽口を叩くザドギエルにどこか嬉しそうに笑っていたシスターが、ある扉の前で立ち止まる。重厚なつくりをしたそれは重く閉ざされていおり、鍵穴に鍵を差し込む。
重い音と共に開いた扉の中は薄暗く、数本の蝋燭が壁や床、調度品を照らしている。彼にしては少し小さめの扉をくぐって、ザドギエルがその傍の壁にコートをかけた。
シスターが静かに扉を閉めれば、蝋燭の明かりだけが頼りの静謐な空間となった。
ザドギエルがシャツの腕を捲り、白い手套を外す。滅多に人前に晒すことがない手のひらに視線を落とせばそこには裂傷の痕があった。色素沈着した痕は色白だと言われる彼の肌ではよく目立つ。
ゆっくりと右手を握り締めて、また開く。痛みは日常に寄り添うものと化していた。
聖水が満たされた水盆で手を清める間、シスターは部屋の奥にある作業台で準備を進めている。空のカートリッジと、薬品の入った瓶を手際よく並べていたがふと手を止めて、ザドギエルに振り向いた。
「最近
……
ちょっと減りが早いんじゃないかしら」
「忙しいからな」
特段気にすることではないと言いたげなザドギエルに眉を寄せて、シスターがゆっくりと首を振る。
「それにしても、よ。いつも言っているけど無駄遣いは禁物、どれだけ自分のものだからってこんなに頻繁にカートリッジを作っていたら持たないわ」
「
……
人が死ぬよりマシだろ」
「それはあなたも含まれているのよね?」
シスターの言葉を聞き飽きたと言いたげにザドギエルが笑みを浮かべ、肩を竦める。そんな彼にため息を吐き、ほら、と手招きをするシスターの傍らには銀の水盆が置かれていた。それに近寄り、水盆の上に右手を差し出す。向かいに立ったシスターがその手をとれば、ひんやりとした指先にまあ冷たいと零した。
彼女のもう片手には、銀色のナイフが握られている。いいわね、とシスターが視線で問えば、こくり、とザドギエルが頷き、そっと息を吐いた。
「〝主よ、慈しみ深く私を顧み、豊かなあわれみによって我が咎をお許しください。悪に染まった私を洗い、罪深き私を清めたまえ〟」
低く呟き、目を伏せ十字を切る。ゆるりと目を開ければシスターの持つ銀のナイフ、その刃がザドギエルの掌、傷痕のあたりに当てられていた。それが躊躇いなく引かれると共に、痛みが走る。奥歯をぎり、と噛んで耐えれば傷つけられたそこからじわり、と赤いものがあふれ出した。手のひらを伝い、それは水盆の底へと滴り落ちていく。
新たに出来た傷口の燃えるような痛みに、ザドギエルが呻く。そこから溢れる血液はゆっくりと器を満たしていくがそれにつれて痛みも酷くなり、苛んでくる。
ぽたり、ぽたりと滴るそれをじっと睨み付ける深いコバルトブルーの瞳はぎらぎらと獣のように輝いている。その様子を見ていたシスターが、台座に置いたザドギエルのもう片方、左手の甲にそっと触れた。
「ザドギエル」
「っ
……
まだ、大丈夫。あと一本分ぐらいは」
いまや水盆の半分ほどが、ザドギエルから流れた血潮で満たされている。そろそろと止めようとするシスターの声に若い使徒はゆるく首を振り、血の気の失せかけている顔で微笑んだ。その眉間は苦悶を刻み、額には汗が滲んでいる。震える唇から零れる息も荒く、左手で身体を支えるのも危うくなってきたのが見て取れた。
「
…………
御名によってあなたを許します」
柔らかな声が若者の耳に届く。掠れた息を漏らして目を瞑ればぐらりと身が傾いだ。とっさにシスターに支えられ、近くのカウチソファに導かれる。痛みと失血で指一本動かすことの出来ない右手を再びとられれば、ぬるい聖水が傷口に注がれた。丁寧に洗われてもそこは熱を孕んでいたが、手早く包帯を巻かれてようやく強ばっていた身体の力が抜けた。支えの失った右手がだらりと揺れる。
「カートリッジに充填するまでそこで休んでいなさいな。今お茶を淹れてあげる」
「ありがとう、助かるよ
……
」
ポットからティーカップに紅茶を注ぐ音を聞きながら、ザドギエルは目を瞑る。背もたれにもたれかかりながら痛みが引くのをじっと待っていたが、ふと思い立ちゆるりと瞼を上げた。深い青の眼差しが、シスターに向けられる。
「シスター、俺が言っていたあの話ってどうなった?」
「なんのこと?」
シスターのそっけない返答に眉を下げながらザドギエルが続ける。
「俺の血をサンダルフォン達に使ってもらいたいって言っていたじゃないか。サマエルの毒は安定させるのは難しいけど、俺の血ならいけるって」
「あのねえ」
シスターがくるりと振り向き、ザドギエルを睨む。駄目に決まっているじゃないとティーカップを彼の前に置きつつ呆れた声を出すのに、ザドギエルは口をへの字に曲げた。ティーカップに満たされた紅茶を一口飲み、わざとらしくため息を吐く。
「いい案だと思うんだけどなあ」
「人体が流していい血の量には限りがあるということを除けばね。あんなもの上にあげるまでもなく却下よ」
辛辣なシスターの声に圧され、それ以上何も言えずにいるザドギエルに背を向ける。今しがた捧げられた若い使徒の血液はカートリッジを満たし始めていた。ザドギエルがその様子をぼんやりと眺め、ややあって口火を切る。
「俺はね、シスター。とにかく皆を守ることが出来るならなんだってしたいんだ。この身からいっさいの血が抜けようとかまわないよ」
「それを皆が許してくれるって思ってるなら、言っちゃ悪いけどあなた相当の馬鹿よ」
「俺からすれば皆優しすぎるんだ。サンダルフォンもハニエルも、ラジエルも、サマエルも
……
あんたも。相手は悪魔だ
……
手段なんていくらあってもいいじゃないか」
そう愚痴をこぼしながらも、ザドギエルの表情はどこか嬉しそうだ。もう一度紅茶を飲み、添えられたビスケットをかじればおいしいと呟く。お互いこの話題については今までも随分と話し込んできた。今回も堂々巡りのやり取りになるのだろうと、話題を変えて最近の授業や任務について話す。そうそう、とシスターが充填の終わったカートリッジをゆるく振れば赤黒い液体が蝋燭の灯りに照らされて怪しく揺れた。
「あなたを呼びだしたのはね、任務を仰せつかったからなのよ」
「任務?」
そう、とシスターが頷く。少しだけ迷う素振りを見せたが後で伝えるわと話を切り上げ、ベルベットを敷いたトレーにカートリッジを並べた。
ちょうど二ダース分が蝋燭の灯りに静かに照らされ、赤黒く輝いている。
「出来たわよ」
カウチソファの前のローテーブルにトレーを置く。深く青い目をきゅ、と細めながらザドギエルがそれを一本手に取る。慣れた手つきでホルスターにしっかりと差し込んで、満足そうに笑みを浮かべる。顔色も幾分か良くなったようだった。
「
……
これ何?」
ふと、トレーの横に置かれた小型ナイフが目に入り、ザドギエルが首を傾げる。天使の姿が刻まれた手のひらほどのそれを取り、まじまじと見つめた。
「
…………
カートリッジを装填出来る銀製のナイフよ」
答えるシスターの声はどこか苦々しい。その言葉に嬉しそうな声を軽く上げながら、ザドギエルがそれを指でくるくると弄び、子どものように目を輝かせた。
「いいじゃないか」
「自分の拳がぶっ壊れるまで悪魔を殴るぐらいならナイフのほうがマシってわけ」
いつだかにあの白い手套を自分の血だか悪魔の血だか分からないほど赤く染め上げて帰ってきたこの若者を思い出しながらシスターがぼやく。あれはスカッとしたなぁと暢気な声で答える少年を軽く睨めば悪かったってとザドギエルは慌てて取り繕った。
銀製のナイフに視線を落とし、そっと撫でる。
「これでまた悪魔を殺せる」
「
……
ええ、期待しているわ、ザドギエル。でも無理はしちゃいやよ、本当に」
シスターの憂う声にどうも、と包帯を巻かれた右手で答える。テーブルに置かれた手套をつけ、コートを羽織る。それじゃあ本題だね、と扉を開けてシスターを促すザドギエルに、ええ、とシスターが頷いた。
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