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kurotera
2025-02-24 08:27:05
174619文字
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You are what your back bears
2022年6月に発行したイノセントブレス IB本の再録です。
発行から一年経ち、頒布も終了しているので掲載。
当時手に取っていただいたかた、ありがとうございます。
【概要】
ぼくのかんがえたさいきょうのイノセントブレス本(非公式)
無印三部前提
出てくるメンバー:教会勢、ラプラスの悪魔、ダーククロウ、LL、無銘
ですが無銘の四名とダーククロウさんは本当に一瞬です。あくまでIB中心。
戦闘と日常の比率は6:4ぐらい。当社比。
書き手の趣味が爆発してえらいことになりました。
要素/注意
九割捏造。特に過去。
公式ファンブック旧版と一部キャラクターメッセージカードを元に当時は執筆していますが、未所持のカードもあるので設定にずれが生じています。
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黒い鉤爪がザドギエルの身体を裂かんと振り下ろされる。すんでの所で反応し身を捩れば、コートの端が紙のように千切れた。
「っ
……
く
……
!」
二人の使徒、地を這う獲物を啄まんと巨大な黒い雄鶏が睥睨している。黒い羽毛と鉤爪は夜闇よりも冥い。
「弱点がないって
……
」
「黒い火が
……
ど、どこにもなくて
……
!」
ハニエルの琥珀の目が燃えるように輝いて、目の前の悪魔を見据えているが『神の光』はどこにも弱点をあぶり出さない。
「くそっ」
ホルスターから残り少なくなったカートリッジを抜き、剣に装填する。空になったカートリッジが地面に落ち、砕ける音を聞きながらザドギエルが悪魔へと立ち向かう。敵を踏みつけようと舞踏する趾の間をかいくぐり、懐に潜り込むと同時に斬りつければ、雄鶏は甲高い声を上げて怯んだ。傷口から噴き出した血は悪魔のものか、それとも刃を通して注がれた自分のものか。血潮を浴びながらザドギエルは追撃の手を緩めず剣を突き刺そうとしたが、使徒を薙ぎ払おうとする気配に反応し、飛び退いた。
傷を付けられた悪魔が怒り、鶏冠を震わせ咆哮を上げる。しかし勢いが衰えなない様子は下級悪魔のそれではなかった。中級、いや、『名前付き』と同等。カートリッジが少なくなった今、劣勢に近い。黒い雄鶏は二人を睨み付けながら、ばさりと羽を広げた。
「ハニエル!」
仲間の声に合わせて、ハニエルが雄鶏に斬りかかる。それを防ごうとした悪魔の隙をつき、ザドギエルも脚に狙いを定めた。
――
しかしそれも羽根の一撃で吹き飛ばされる。
「が
……
っ」
「あぐっ
……
!」
礼拝堂の壁に叩きつけられ、ザドギエルが血を吐く。ハニエルも地面に倒れ伏し、痛みに蹲った。
「何故、貴方達はそうまでして戦うのです。貴方達がここを去るだけで、この村は永久の平穏を得るというのに」
悲しげな悪魔の問いかけにザドギエルが目を細める。全身の痛みに耐えながら、ゆっくりと相手を指差し、笑った。その深く青い双眸はぎらりと凶暴に輝いている。
「
――
……
俺が、それを平穏と認めたくねえからだ。大勢の死の上で一人が満足するだけの平穏を
……
少なくとも俺は認めねえ。それが悪魔と手ェ組んで作ったってもんなら尚更ってだけさ。なあ、知ってるか? 悪魔と契約した奴はな、地獄に堕ちるって決まってるんだよ。だから俺が
……
この村ごとてめえを地獄に叩き落とす。それだけだ」
「では問いましょう、あの子一人が死んで出来上がる平穏と何が違うというのか、数でしょうか? 大人だから、子であるから
――
どちらにせよこの村はもはや死の上に平穏を築くほかなかったでしょう! 何故、神は毎日祈りを捧げていたあの子を死なせ、争いあっていた大人を生かしたのでしょうか? 私には分かりません!」
「それは
……
オレ達にも分かりません
……
どうしてって思うことなんて、沢山あります
……
でも!」
ハニエルがふらつきながら立ち上がる。剣を支えにしてようやく立っている事が出来るような痛みが襲ったが、それでも燃える琥珀色の双眸は悪魔から逸らされない。
ザドギエルの左手がカートリッジの最後の一本を剣の柄に装填した。足下で硝子が砕ける。ハニエルが口元の血を指で拭って、その剣を構える。二人の若い使徒が戦意を失わない事に一歩、その趾を後退させる。しかし悪魔は激昂し羽ばたきを繰り返す。
「所詮は神の木偶か! あの子がこの村で永久に、穏やかに暮らす為ならば私は死や地獄をも恐れないぞ!」
「ああ、だろうな。そうだろうよ、てめぇはな!」
ザドギエルが叫び、悪魔へと駆ける。痛みはあるが、畏れはない。ただ悪魔への強い殺意がザドギエルを突き動かしている。鉤爪が空を裂き、羽根が舞う。
「ハニエル、右を!」
「はい、ザドギエルさん!」
風の刃が頬やヴェールを裂くのにも畏れず、二人の使徒がそれぞれ両翼の翼に斬りかかる。ザドギエルの剣は雄鶏の片翼を両断した。ハニエルの剣も、もう片翼を切り落とそうと食い込んだ。
「くっ
……
そぉ
……
!」
力を込めるがあと一歩及ばない。軋む身体で剣を握るハニエルに鋭い嘴が襲いかかる。
――
やられる
……
!
――
襲い来る痛みにハニエルが目を瞑れば、どん、と鈍い衝撃が響いた。身体が再び地面に叩きつけられる。しかしそれ以上の痛みもなく、悪魔のひずんだ声に目を開ければ。
「ぐ
……
っ」
ハニエルの傍ら、ザドギエルが倒れていた。慌てて仲間の身体を抱き起こせば、脇腹に触れた手が真っ赤に染まっていることに気付きハニエルが目を見開く。深手を負ったせいか、ザドギエルは意識を飛ばしかけている。
「ザドギエルさん!」
「っ
……
よかっ
……
た
……
」
「なんで、ザドギエルさん
……
!」
「
…………
守るって
……
決めてる
……
お前達を守る
……
ことが
……
、出来るなら
……
なんだってしたいんだ。っ、この身から
……
いっさいの血が抜けようとかまわない
……
」
「っ、
……
ザドギエルさ
……
」
息絶え絶えに答えるザドギエルの手を、震えた手で握る。目の前には片翼を失った悪魔が立ち塞がっている。その嘴はザドギエルの血の効果か、軽く凍り付いていた。
「手こずりましたがお終いです
……
せめてもの慈悲、二人共に主の元へ召されなさい」
雄鶏の片脚が二人に狙いを定めれば、よろめきながらハニエルが立ち上がり、剣を構える。ザドギエルも辛うじて剣を握っていたが、起き上がることすら出来ないでいる。
――
逃げるな、オレが
……
今度はオレがザドギエルさんを守らなきゃ
……
!
――
戦意を失わずに立ち向かおうとする若い使徒に、最後まで足掻くかと哀れんだ目で悪魔が見下ろす。ぎらりとその爪が死を与えるべく輝いた。刹那。
「お兄ちゃん達!」
聞き慣れた蹄の音と共に子どもの声が両者の耳に届く。
その声にいち早く反応したのは悪魔だった。
「
……
!」
幼い声がした方向をみやる。そこには愛馬二頭と、あの少年の姿があった。そしてその後ろには村人達が迫っている。ただ彼らは教会の敷地内に一歩も踏み込めないようだった。背後から聞こえる懇願と怨嗟の声に一顧だにすることなく少年は三人を見つめている。エミール君、とハニエルが小さく呟いた瞬間。
「エミール、何故来たのです!」
雄鶏が叫ぶ。瞬間、その首元に一瞬、冥い火が灯るのを、ハニエルは見た。琥珀色の双眸が燃えるように熱い。頭の中で、本能が囁く。
――
あれを殺せ。
痛む全身の力を総動員し、ハニエルが走り出す。胸ポケットの中、仲間から受け取った武器を取り出し握りしめ、跳んだ。強襲に反応出来ず、悪魔が怯む。
「〝邪な骨を散らせ、骸は捨て置かれ、お前は恥辱を晒すであろう〟
……
!」
ハニエルの唇が聖句を唱える。双眸に宿った『神の火』が今度ははっきりと、悪魔の首元に冥い火を炙りだした。
「ああぁあああ!」
叫び、そこ目掛けてナイフを振り下ろす。銀色に輝くそれは正しく悪魔の弱点をとらえ、深く突き刺さった。雄鶏と神父の叫び声が混じる。
ザドギエルの血で満たされたナイフで穿った場所から悪魔の身体が凍り付き、ひび割れ、羽根の先からがらがらと砕け、崩れ去っていく。
「
……
神父さま
……
?」
少年が悪魔に歩み寄る。地面に降り立ったハニエルが少年を止めようとしたが、痛みに膝をつく。どうして、なぜ。ついに悪魔は、頭だけを残して地に転がっていた。それでも苦しげに息をしている雄鶏の目が幼子を悲しげに見つめる。少年はそれを見下ろし、その悪魔に問うた。
「神父さまなの? どうして、そんな姿なの?」
「えみー、る
……
エ、ミぃ
……
ル
……
」
悪魔の嗄れた声が少年の名前を呼ぶ。凍り付いた嘴が足掻くように動くのをどうすればいいのか分からず、少年は呆然と立ち尽くす。すると不意に、悪魔の首と少年にゆらりと影が落ち、少年ははたと顔をあげる。
「
…………
」
そこにはザドギエルが立っていた。悪魔に穿たれた傷から血を滴らせながら、右手には剣を握りしめ、二人を見下ろしている。
その深く青い双眸は冷たく炯々として、何の感情も映していない。
少年が目を見開きあ、と声をあげると同時、ザドギエルの剣が閃く。死闘で赤く染まった刃が正確に悪魔の頭を突き貫けば、断末魔もなくそれは息絶えた。
「
…………
どうし、て
……
」
悪魔を殺した男を少年が悲しげに見上げる。使徒は少年から目を逸らさず、そして何も答えない。そして、ざあ、と強い風が吹き抜ければ少年の身体が塵となり散っていく。それが彼らを陰府へと導く標となるのか、礼拝堂の外で嘆く大人達の声がザドギエルの耳に届いた。意識のあるまま死へと向かう苦痛、神への遅すぎる懺悔。
あれらももう、長く保たないだろう。そう悟れば急速に意識が遠のく。怨嗟と嘆きの声が少しずつ、消えていくのが分かる。
あの日、あの忘れられない夜と同じようにひとつ、ひとつ、全て地獄へと堕ちていくのだ。
――
恐らく、自分もすぐに。
目を瞑る。痛みすらも感じなくなった身体、かろうじて動く手で脇腹に触れる。ぐらりと身が傾ぐと同時、仲間の呼ぶ声を聞きながらザドギエルは意識を手放した。
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