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kurotera
2025-02-24 08:27:05
174619文字
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You are what your back bears
2022年6月に発行したイノセントブレス IB本の再録です。
発行から一年経ち、頒布も終了しているので掲載。
当時手に取っていただいたかた、ありがとうございます。
【概要】
ぼくのかんがえたさいきょうのイノセントブレス本(非公式)
無印三部前提
出てくるメンバー:教会勢、ラプラスの悪魔、ダーククロウ、LL、無銘
ですが無銘の四名とダーククロウさんは本当に一瞬です。あくまでIB中心。
戦闘と日常の比率は6:4ぐらい。当社比。
書き手の趣味が爆発してえらいことになりました。
要素/注意
九割捏造。特に過去。
公式ファンブック旧版と一部キャラクターメッセージカードを元に当時は執筆していますが、未所持のカードもあるので設定にずれが生じています。
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望郷
神学校には図書館があった。
聖書は勿論、『教会』や教えに関する書物、悪魔討伐に関する報告書、諸国から集められた物語、資料、おそらくはこの国で一番知識が集まった場所だろう。元来、書物というものは国に仕え、資格を得た者によって一文字ずつ書き写され綴られるものであった。しかし現教皇であるミカエルが就任して間もなく、『教会』は人々に新しい技術をもたらした。
――
金属を使った活字印刷。
それは人の手でしか複製出来ず、書物の価値を貴重なものとしていた人々にとってはまさに天啓、託宣と言っても過言ではない。瞬く間に『教会』の教えが編纂された聖書は人々の手に行き渡り、信仰も急速に広がっていった。それを皮切りに『教会』は組織が認めた書物を刷り、まずは各地の教会に配ったのである。
騎士物語、寓話、童話。娯楽の少ない人々はそれを求め、教会に集う。信仰の為に聖書を読み、子ども達は聖書の後で読み聞かされる物語に目を輝かせた。
そんな世の中で、神学校の図書館に全てがあるのは必然であった。
「ああ、サマエルは図書委員だったな」
放課後の図書室、今日の当番だったサマエルが聞き慣れた声に顔を上げれば、同じ部隊の仲間が深く青い目を興味深そうにこちらへ向けて、小さく首を傾げている。
「ザドギエル」
何か用か、と聞けば、何って、とザドギエルが瞬きをする。
「本を返しに来たんだよ」
「本?」
お前、本を読むのかと言いたげなサマエルの視線に心外だなぁと片眉を上げて持っている本に視線を落とす。
「ガキの頃は
……
村の教会にあった本を片っ端から読んだものさ。何せ冬の楽しみはそれぐらいしかないからね。いつしか日課となっていたというわけだな」
「なるほど」
ザドギエルが机に置いた本を見やる。聖杯探索を成した騎士の物語だ。
羊皮紙を取り出し、書かれた生徒の名前を指で追っていく。確かにザドギエルの名前は書きとめられていた。返却済みのチェックをつけ、本をしまう。
「確認した」
「ああ、ありがとう。次は何を読むかな」
「新しく入れた物はあっちの棚だ」
サマエルが入り口近くの棚を指差す。見てみるよ、と礼を言いながらそちらへ歩いて行ったザドギエルを見送り、眺めていたリストに視線を落とした。そこには都市で出版された書物、その中でも『教会』の許可が下りたものが列挙されていた。哲学、文学、数学書、そして絵本。サマエルは図書委員の中では絵本の選書を任されていた。
さて、どうするかと絵本の表題達をなぞる。この前は巡礼者が見聞きした度の物語を子ども向けの絵本に書き直したものを仕入れた筈だ。
次はもう少し対象年齢をあげた題材にしてみようか、そんな事を考えていると。
「お邪魔しまーす!」
聞き慣れた声が静まりかえっていた図書室に響き渡る。室内にいた生徒達が一斉にそちらを見て、しかしすぐに各々の読書や勉学に戻ったようだった。
声を聞いたサマエルも羊皮紙から視線を上げ、そちらを見る。
「あ、サマエルじゃん! ちょうどよかった!」
アプリコット色の髪を跳ねさせて、ラジエルが机にやってくる。サマエルは苦い顔をさせて仲間を睨みあげた。
「わっ、悪い悪い
……
でもこっちも急いでいてさ」
急いでいる、という言葉に嫌な予感を抱きながら手にしていた羊皮紙を傍らに置く。
「急いでいる?」
「うん! 明日までに提出の課題があるのを忘れちゃってて!」
「帰れ。帰ってさっさと課題をやれ」
やはりか、とため息を吐きながらサマエルが吐き捨てる。違うんだってぇ! とラジエルが情けない声をあげればもう一度大きなため息が自然と零れた。
「また課題を見せろなんて言うんじゃないだろうな」
「え、見せてくれんの?」
「見せるか馬鹿」
だよなぁ、とラジエルがうなだれる。柘榴色の眼差しを冷ややかに向けながらサマエルが口を開いた。
「課題の『突発性悪魔憑きに対する対処法及び応急処置に関する研究』関連の書物ならばD棚の二段目にある」
それは課題の為にサマエルも読んだ本だった。おそらくあれが一番手っ取り早く課題を片付けられる資料だろう。棚の方向を指差せば、表情を明るくさせたラジエルが礼を言ってそちらに向かう。その背中を見送り、再び羊皮紙と向き合った。
穏やかな時間が流れる。本を読む者、課題に勤しむもの、時折生徒同士のおしゃべりがうるさい時には、静かに、と赤い目で咎めればすぐに黙った。次に読む本を探し当てたザドギエルが再びカウンターに現れ、サマエルの差し出した表に名前を書き込む。そのまま出て行ったのを見送ったのだが、その入れ違いで現れたハニエルが、困り果てた顔でこちらにやってきた。
「
……
ハニエル、どうした?」
「あ、サマエル
……
あの、動物さんに関する本は
……
」
「ああ、あるにはあるが
……
どういったものがいいんだ」
動物にも色々あるだろう、家畜やら、馬やら、それこそお前がいつも世話をしている鳩やら。ひどく真剣な顔のハニエルに戸惑いながら聞き返せば一瞬黙った後で答えた。
「笑いませんか」
「
……
どういう意味だ?」
「そ、そのままの
……
意味です」
質問の意図を掴めずに聞き返せばそう返されて、思わず頷く。周りを気にするようにそろりと視線を動かし、それからサマエルをじっと見つめた。
「鳩の言葉が分かる本を探していて」
「鳩の言葉」
思わず聞き返してしまい、慌てたハニエルに口を塞がれる。何人かの生徒はサマエルの声に反応したようだが、すぐに自分の作業へと戻ったようだ。
「声が大きいです
……
!」
「す、すまん
……
しかし一体それはなんだ? 鳩が喋るのか?」
混乱のまま問いただせばハニエルは椅子を引き寄せて向かい側に座る。サマエルもこの控えめだが真面目な仲間の話を聞こうと、居住まいを正した。
「オファニムさんが、鳩と話をしていて」
オファニム、といきなり出てきた背が高い先輩の姿を思い浮かべる。鳩と会話をする彼の姿はあまりに想像しづらい。なにせ任務中の彼は自分ぐらいに無口で、普段もつかみ所がない節がある。その背格好と奇妙な振る舞いのせいか、『AC』や自分達『IB』以外の他の使徒と会話している所すら見たことがなかった。
「見間違いではないのか」
「オレ、はっきり見たんです」
ハニエルの抑えた声がやけにはっきりと耳に届く。その圧に口を閉ざし、サマエルは頷くほかない。
「オファニムさん、すごく楽しそうに鳩とお話していて。同じ飼育委員で鳩舎の担当なのにオレが気後れして中々喋ることが出来ないから
……
鳩の言葉を覚えて
……
」
「鳩の言葉を覚えれば、もう少し彼と喋れるんじゃないかということか」
こくりとハニエルが頷く。
鳩の言葉を覚える労力と、先輩と少しでも話すようにする労力、どちらが大変なのだろうかという疑問を頭の隅に追いやり、ハニエルの助けになりそうな本に心当たりはないかと考える。
とりあえずは鳩の本に候補が絞られたぶん、大助かりだった。
「
……
やっぱり無いですよね」
「いや、少し待て」
小さくため息を吐き、変なことを聞いてすみませんと謝り席を立とうとするハニエルを引き留める。暫く考え込んだ後、サマエルが口を開いた。
「鳩の言葉
……
が書かれているかは分からないが鳩の習性や飼育の仕方が書かれている本ならある。別に鳩の言葉じゃなくてもそういった話題から会話をしていけばいいんじゃないか」
サマエルの言葉にハニエルがはっとした顔をさせて、ゆっくりと瞬きをする。確かに、と小さく呟けばがたりと勢いよく立ち上がった。
「ど、どこにありますか!?」
「あ、ああ
……
確か
……
A棚だ。動物関係の本はそこにある」
「ありがとうございます!」
意気消沈していた先ほどとはうって変わって嬉しそうに礼を言い、ハニエルがぱたぱたと歩いて行く。取り残されたサマエルは近くの席に座っていた何人かの視線を受け止めざるをえず、いたたまれなくなりながらも、軽く咳払いをした。
今日はやけに騒がしい日だと憂いつつ、業務に戻ろうとすれば。
「やあ、サマエル」
「お前もか」
サンダルフォン、と現れた仲間を見れば、お前も? とサンダルフォンが首を傾げる。
「今日は頼んでいた聖歌の楽譜を取りに来たのだけど」
「ああ、そういうことか
……
すまない、さっきから騒がしくてな」
「ふふ、図書委員も大変だね」
サインを、と羊皮紙を差し出す。神学校に保管されている楽譜の管理も図書委員の仕事で、ひと月ほど前に聖歌隊のリーダーとなったサンダルフォンが次に練習する成果の楽譜を取りにくることは多々あった。サインをして受け取った楽譜を確認するサンダルフォンの表情は嬉しそうだ。普段は使徒として、『IB』の隊長として学内で振る舞っている彼も、この時ばかりはこういった顔を見せる。
「今回はどんな聖歌なんだ」
「一○二番さ。クリスマスだからね」
番号で言われても、といった顔でサマエルがサンダルフォンを見つめる。悪戯っぽく笑い、礼拝でね、と鞄に楽譜の束を仕舞った。そこにやってきたのはラジエルで、その手にはようやく探し当てたのであろう本が握られている。
「げ、サンダルフォン」
「人の顔を見るなりそんな声を出すなんて、失礼だよ、ラジエル」
ラジエルの反応を咎め、しかしどうしてそういった反応をするのか疑問に思ったのかサンダルフォンがラジエルをまじまじと眺める。慌てたラジエルが後ろ手に本を隠したものの、めざとい隊長に隠し立ては出来なかったらしい。
「もしかしてラジエル、まだ課題をやっていないのかい?」
「そ、そんなわけ」
「ああ、こいつはやっと資料を探し当てた所だ。サンダルフォン」
「サマエル!」
「図書館では静かに、ラジエル。なるほどね
……
オレもこれで用事は済んだことだし、行こうか、ラジエル?」
一見すれば見惚れるような整った微笑みだ。しかしこの微笑みを仲間に向ける時のサンダルフォンは大抵、怒っているということを二人は知っている。
「え、いや。あの
……
オレってば課題をやらないとだし
……
はは
……
」
「素晴らしいじゃないか、手伝ってあげるよ。さあ、行こう。遠慮をすることはないよ。お前がもし課題で不可をとった時に迷惑を被るのはオレ達なんだからね。こういう時の仲間じゃないか」
「サマエル、お前覚えていろよ!」
「その前に課題の締め切りぐらい覚えておくんだな」
喚くラジエルの腕を引っ掴んで、サンダルフォンが去って行く。恐らくラジエルの今日の自由は消え失せてしまっただろうと鼻で笑いながら、ようやくサマエルは自分の作業に集中することが出来たのだった。
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