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kurotera
2025-02-24 08:27:05
174619文字
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You are what your back bears
2022年6月に発行したイノセントブレス IB本の再録です。
発行から一年経ち、頒布も終了しているので掲載。
当時手に取っていただいたかた、ありがとうございます。
【概要】
ぼくのかんがえたさいきょうのイノセントブレス本(非公式)
無印三部前提
出てくるメンバー:教会勢、ラプラスの悪魔、ダーククロウ、LL、無銘
ですが無銘の四名とダーククロウさんは本当に一瞬です。あくまでIB中心。
戦闘と日常の比率は6:4ぐらい。当社比。
書き手の趣味が爆発してえらいことになりました。
要素/注意
九割捏造。特に過去。
公式ファンブック旧版と一部キャラクターメッセージカードを元に当時は執筆していますが、未所持のカードもあるので設定にずれが生じています。
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翌日、太陽が真上に来る頃に森に入った。シスターから譲り受けた地図によればこの先に村があるという。鬱蒼とした木々を縫うように続く道を馬で歩く。
規則正しい蹄の音が静かな森の中に響く。ハニエルは力を使って、悪魔が潜んでいないか確かめているようだった。
「ハニエル、何かおかしな気配はしないかい?」
「はい、今のところは
……
」
僅かな緊張を互いに感じているのか、言葉少なに進んでいく。小鳥が囀る声が聞こえて視線を上げてみれば、栗鼠の親子が枝を走っていった。
どれほど進んだだろう、一向に森を抜ける気配がない。
「
……
そんなに大きな森だとは聞いていないけどな」
困ったようにザドギエルが方位磁針を取り出して見つめる。それは進む先を北西と指していて、二人の進んでいる道が間違いないことを示していた。
「
……
あの、ザドギエルさん」
ハニエルがおずおずと呼びかける。どうしたとザドギエルが愛馬を止めて、仲間を見返した。きょろきょろと周囲を見渡して、眉を下げる。
「さっきより
……
暗くないですか
……
」
「え
……
」
元々薄暗い森だ。しかし僅かなりとも木漏れ日が注いでいる筈だったのに、今や夜のように暗い。小鳥の囀る声も、梟の眠たげな声に取って代わられていた。
もう夜になったのか、と考えるがそれにしては早すぎる。
「ハニエル」
「
…………
悪魔の姿は見えません」
目の届く範囲に悪魔がいれば冥い炎
――
彼らの弱点が見える筈である。
しかし姿も見えず、ハニエルが首を横に振った。それならとザドギエルが眉を寄せる。
「とにかく、森を抜けよう」
再び馬を歩かせる。虫か蝦蟇の声を聞きながら、方位磁針に逸れないよう慎重に進めばようやく森の出口が見えてきた。
「
…………
」
「
……
わあ
……
」
夜空の下に草原が広がっている。そこには白く愛らしい花がそこかしこに咲いていて、凜としたような甘い匂いを漂わせていた。道はなおも続いており、草原を抜けた先には家屋の群れと思わしき影が見えた。
「もう夜になっていたのか」
夜の帷に浮かぶ満ちかけた月をザドギエルが睨みあげる。ハニエルはそよ風に揺れる花が気になったのか、愛馬から下りて近くの一輪に歩み寄った。
「これ、ガランサスです
……
こんなにたくさん
……
」
このよい香りがする白い花を籠に摘み、持ち帰ればその家は清められるという言い伝えを思い出しハニエルは頬を緩ませる。張り詰めていたものが少しだけ、癒やされた。
「ガランサス?」
対してザドギエルはあまり花というもの馴染みがないのか反応が鈍い。
そういえば少し前に訪れた養護院でもハニエルが別の花を嬉しそうに見ていたのを思い出しつつ、遙か向こうを見据えた。ともあれ、目的地には着きそうだ。
「
……
ハニエル、渡したいものがあるんだ」
再び馬に跨がろうとするハニエルに呼びかければ、その低い声にぴくりと肩を跳ねさせてハニエルはザドギエルを見た。ザドギエルが馬から下り、ハニエルに歩み寄る。
「これ、念のため。いざって時に使ってくれ」
ザドギエルが渡してきたのは、掌大の小さなナイフだった。天使の彫刻を施された銀製のそれの柄には細い窓があり、その中で赤い液体が揺れているのが見える。
それを見て驚いたのはハニエルだ。
「え、あの、これ
……
もしかして」
「俺の血が入ったナイフ。ハニエルなら使いこなせると思うよ」
「で、でもっ、駄目です! ザドギエルさんの大切な武器だし
……
それに
……
」
「カートリッジは任務の前に補充したから大丈夫だよ。一人ぐらいなら分けても充分足りる。だから、さ」
「
……
そんな、オレ
……
」
手の上で鈍く輝くそれを見下ろし、なんと言えばいいのか迷い、ハニエルは視線を泳がせる。この赤い液体は間違いなくザドギエルの血だ。彼の身の内に流れる悪魔を殺す血潮。しかし、それ以上に
――
。
「これは俺の我が儘だ。ハニエルが持っていてくれるなら安心出来る。もちろん、それを使わないほうがいいんだけどな」
ザドギエルが苦笑いを零す。頼むよ、持っていて欲しい。彼にしては強く押してくるのに思わず頷いてしまった。その手前、突っ返すことも出来ず、それを懐にしまう。胸のあたりに加わった重みに、目を伏せればさあ、行こうとザドギエルが馬に跨がる。ハニエルも慌てて愛馬に跨がり、それに続いた。
「
…………
ザドギエルさん、どうして」
ハニエルの疑問を乗せた呟きは夜風に乗って消える。靡くヴェールを深く被り直して、ハニエルは駆けていった。
一見、普通の村だ。村の入り口には他の地と変わらず門番がいる。ただ
――
。
「おとまりください」
「
……
」
門番の声に従い、ザドギエルが馬を止める。門番は突如やってきた訪問者をじっと見つめ、穏やかに問いかけてきた。
「どちらさまでしょうか」
「
……
神学校の生徒です。見識を広める為に巡礼の旅をしております」
「それはそれは、ようこそおいでくださいました」
「この村には敬虔で名高い神父様がいらっしゃると聞き
……
あー、説教を受けたく
……
アンリ神父という方なのですが
……
」
言葉を選んでいるのか僅かに辿々しいザドギエルの言葉に、門番が表情を曇らせる。そして静かに首を振った。
「アンリ神父は
……
」
「村を襲ってきた悪魔を礼拝堂に封印したきり、戻ってこない?」
門番に案内されたのは村長の家だ。この集落の長である老爺が頷き、言葉を続ける。
「お恥ずかしながら我々は数ヶ月前まで、二つに分かれ対立をしておりました。今思えば本当につまらない事だったと恥じ入っております。そんな我々を狙ったのでしょう、聖誕祭の準備が始まる頃に悪魔がやってきたのです。聖誕祭を行えばこの村を滅ぼす
……
そう脅す悪魔に我々は為す術もありませんでした」
「
……
アンリ神父は元は聖都の方だと伺っています。どうして『教会』に助けを求めなかったのですか?」
「それは
…………
」
老爺が言い淀む。震える唇を青い目が冷ややかに見つめた。
「
……
続けてください」
「
…………
我々は聖誕祭の準備をすることが出来ませんでした。しかし前夜、神父様は一人で悪魔に立ち向かい、村の礼拝堂に悪魔を封じ込めたのです
……
今あの礼拝堂の中がどうなっているのか誰にも分かりません。村人には立ち入りを強く禁じております。もし悪魔が生きていて、あそこを開ければ再び
……
」
言葉の続きは聞かずとも分かった。村人達はまた悪魔の脅威に晒されるのを恐れているのだ。神父一人を犠牲に得た平穏を崩したくはないのだろう。思うところがあるのかザドギエルが何かを言おうとしたが、しかしそれは老爺の言葉に遮られる。
「我々の平穏は保たれています。神父の犠牲と
……
主の怒りによって」
主の怒り、とザドギエルが眉を寄せ、老爺の言葉を繰り返す。皺の刻まれたまなじりの奥がむなしさを孕んだ。
「朝が、来ないのです」
「つまり神父には会えないしお礼拝堂には入れない。一晩したら出て行けってわけか」
ザドギエルが腕組みをして、少し離れた場所にある礼拝堂を見据える。ずっと夜が続いているからか、村の中はどこか元気がない。
住民とおぼしき人の歩みも重く、どこか表情もうつろだった。
「『教会』に伝えると言っても駄目だと言われましたね
……
」
「床に頭をつける勢いで頼まれたな、やめてくれって」
その時の様子を思い出してザドギエルがため息を吐く。酷く怯えた様子で『教会』には言うなと懇願する様子も不可解だった。
「きな臭いな」
「
……
神父様の手紙通り、村の中で争っていたみたいですが、今はそんな素振りなんてなさそうです」
「うん、普通はもう少し気まずくても
……
まあこんな状況になるとそれも吹っ飛んだか
……
とにかく、ひっかかる」
「ねえ!」
「ひゃっ!?」
いきなり声をかけられてハニエルの身体が跳ねる。いつものようにハニエルが背中に隠れるのを感じながら、ザドギエルは声の方を見た。小さな子どもが、立っている。
「もしかして神父様のおともだち?」
「
……
君は?」
僅かに警戒しながらザドギエルが聞き返す。ぱちりと瞬きをして、少年が首を傾げた。
「エミール」
「そう、エミール、すまないが俺達は」
「お願い、神父様を助けて!」
ザドギエルの言葉を遮る少年の言葉に二人が顔を見合わせる。
「アンリ神父は生きているのですか?」
「うん、礼拝堂から声がするもの」
「
……
君は礼拝堂に近づいたのかい? 怒られるんじゃないか」
ザドギエルの問いに少年が俯く。だって、と決まり悪そうに言い淀むのを慌ててハニエルが宥めた。
「お話
……
聞かせてください」
ハニエルが促せば、少年が顔を上げる。あ、とハニエルが何かに気付き声をあげたが、少年は気にとめなかったのか、言葉を続けた。
「僕
……
呼ばれるんだ。神父様の声が頭の中に響いて、礼拝堂に来なさいって」
「
……
それは」
「悪魔なんかじゃないよ、神父様の声なんだ。それで礼拝堂に行ったら、神父様が聞いてくるんだ。元気に暮らしているのかとか、村の皆は仲良くしているかって」
「エミール、どうして神父様は出てこないんだ?」
ザドギエルが問えば少年はふるふると首を振る。そうか、と頷いてハニエルを見た。
「どう思う?」
「悪魔なんかじゃないよ、本当に神父様なんだ! まだ神父様があの中で悪魔と戦っているんだ! おねがい、神父様を助けて!」
「お、落ち着いてください
……
、しーっ、です
……
!」
興奮して声が大きくなりそうな少年を宥める。少年の必死な様子にザドギエルが目を細めて、切り出した。
「君は神父様が好きなんだな」
「だ、だって
……
村の皆が喧嘩していたときも神父様は優しかったし、僕の話もちゃんと聞いてくれた
……
それに、約束したんだ」
「約束?」
「聖誕祭でお歌を聴いてくれるって。聖誕祭の日はもう終わっちゃったけど
……
でもまた冬が来れば聖誕祭はやってくるんでしょ?」
歌、という言葉を聞いて二人に過ったのは聖歌だった。この少年は純粋に、神父の帰還を待っているようだ。
「
……
わかった」
ザドギエルが頷き、少年の頭を撫でる。わ、と声をあげ、くすくすと少年は笑った。
「少し待っててくれないか、エミール。俺達が神父様とお話して、エミールの歌を聴くために外に出てくるように言ってあげる。だから
……
この話は皆には内緒、いいかい」
「
……
うん!」
表情を明るくさせる少年の背中を叩き、じゃあもう帰れ、と促す。ぱたぱたと駆けていく少年を見送って、ザドギエルが頭を掻いた。
「とはいっても
……
どうするかな」
「
……
礼拝堂に行くしか
……
」
ハニエルの言葉に頷く。皆が寝静まった頃に、と声を抑えて告げれば、仲間が頷いた。
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