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kurotera
2025-02-24 08:27:05
174619文字
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You are what your back bears
2022年6月に発行したイノセントブレス IB本の再録です。
発行から一年経ち、頒布も終了しているので掲載。
当時手に取っていただいたかた、ありがとうございます。
【概要】
ぼくのかんがえたさいきょうのイノセントブレス本(非公式)
無印三部前提
出てくるメンバー:教会勢、ラプラスの悪魔、ダーククロウ、LL、無銘
ですが無銘の四名とダーククロウさんは本当に一瞬です。あくまでIB中心。
戦闘と日常の比率は6:4ぐらい。当社比。
書き手の趣味が爆発してえらいことになりました。
要素/注意
九割捏造。特に過去。
公式ファンブック旧版と一部キャラクターメッセージカードを元に当時は執筆していますが、未所持のカードもあるので設定にずれが生じています。
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流石に夜は冷える。肌を這う冷たさにぶるりと身体を震わせながら庭に出れば、そこに彼女はいた。昼間に見たような荒々しい振る舞いが嘘のように、置かれたベンチに腰掛けて庭を眺めていた。
「ルイーズちゃん?」
ラジエルが近寄り、声をかける。どこか夢を見るような瞳が少年をじっと見つめた。何してんの、とラジエルがその隣に腰掛けようとして、少し躊躇う。
しかし少女は何も言わず、自分を悪魔と罵ることもなかったのでそのまま腰掛けた。
「何か見てた?」
「花」
少女の細い指が庭を指差す。たしかあれは、ミオソティスとハニエルが言っていた筈だ。ブルーの小さな花の群れが、夜風に揺れている。
「
……
かわいい。勿論、君のほうがかわいいけどさ」
愛らしさのある花を見つめながらお決まりの褒め言葉を無意識に口にしたが、少女はその言葉に嬉しがるでもなく、怒るでもなく、ぱちりと瞬きをしている。そしてふと気がついたように夜空を見上げたので、ラジエルもつられて上を向いた。
「ここ星がキレーだよな。さっき窓から見てたんだけどさ、ルイーズちゃんが庭にいるのが見えたから来ちゃったぜ」
「星」
「うん、星。暖かくなったけどまだ冬の星空なんだよな、あれが犬の親子。それと双子、あとは
……
三つ星ベルトを持つオイオン」
ベイビーブルーの眼差しが夜空に散らばる神話達を探し当てる。ゆっくりと指でなぞっていると、少女が首を傾げた。
「何でも知っているのね」
少女の言葉に驚いてラジエルがそちらを見やる。しかし彼女は何ごともなかったかのように、口を閉ざして星空を眺めている。
――
ねえ、×××って何でも知っているのね。
頭の中で誰かの幼い声がフラッシュバックして、頭がつきん、と痛んだ。この声は誰だっけ、と思い出そうとしてみるが、叶いそうにない。
「
……
なあ、君って星好き? 俺の仲間は好きだってさ。気が合うかも」
気を取り直してサマエルの事を指して笑うが、少女は答えない。そのまま立ち上がって、花壇に向かって歩き出したのをラジエルは見つめる。荒れ狂っていないとはいえ、意思の疎通は難しそうだ。やがて少女は花壇の傍でしゃがみ、すぐに立ち上がってラジエルに振り向いた。
「〝あなたの指のわざである天を仰ぎ、あなたが整えられた月や星を見ますのに、人とは何者なのでしょうか〟」
掠れた声で囁く少女のその手には摘み取られたミオソティスの花があった。謎めいた問いかけと共にそれを差し出され、へ、とラジエルが首を傾げる。聞き覚えのある言葉だったが、なんだったか思い出せない。
「
……
ええっと、俺にくれるってこと?」
「〝あなたが心を留められる、人の子とは、何者なのでしょう〟」
「うーん、よく分からないけど
……
貰っておこうかな! ありがと、ルイーズ!」
ラジエルが少女に歩み寄り、その手に咲く愛らしい花を受け取る。ラジエルをまっすぐ見つめた後、少女は急に踵を返して、どこかに去って行った。
「
…………
」
ふらふらと去って行く少女の背中を見つめる。それから、その手の青い花を見つめて、ラジエルも部屋に戻るべく庭を去った。
――
シスターに教わった聖句もすぐに覚えるなんて、とっても凄いわ!
誰か、女の子の声が聞こえる。自分は俯いてしまって、何も言えない。そうでしょ、と自慢するのも気恥ずかしいものだ。
――
そうだろ、×××は何でも知っているんだぜ!
女の子の声に答えたのは元気のいい、友達の声だ。肩をぽん、と叩かれてまるで自分事のように誇る、友達がいた。
――
あれ、違う。それ、って
――
女の子と友達が喋っている。誰とでも打ち解けることが出来る彼が、羨ましかった。
彼みたいに、なれたら。
――
ええっと
……
ちがう、そうじゃなくて
――
夢の中、頭の中に浮かび上がる疑問符の正体を掴めないままラジエルはその光景を見ていた。子ども達の影はおぼろげで、判別がつかない。ただ大人しい男の子と、明るくて元気な男の子、そして女の子が会話している。いや、会話しているのは元気な方と、女の子で、大人しいほうはただ黙って話を聞いていた。
――
そう、あっちが
――
「ラジエル! いい加減に起きろ!」
頭上で怒鳴り声が炸裂する。石けんの泡が弾けるように、目の前の光景はぱちん、と消え去ってしまった。
「んぁ?」
間の抜けた声と共にラジエルが目を開けば、柘榴のように真っ赤な双眸がこちらを睨んでいる。窓の外からは雄鶏のけたたましい鳴き声が聞こえてきた。
「ザドギエルさんっ、ザドギエルさんっ!」
「うーん
……
あと五分
……
」
「だ、駄目ですっ、起きてください
……
!」
隣から地獄の底から聞こえてくるような声と、その声に怯えながらなんとかその声の主
――
ザドギエルを起こそうと必死になっているハニエルの声がする。
「
……
おはよ?」
「早く支度をしろ、礼拝に遅れるぞ。
……
ザドギエルもいい加減に起きろ! ハニエルをこれ以上困らせるな!」
「あと十分
……
」
「ザドギエル!」
サマエルの怒号が部屋に響く。朝の騒がしさは寄宿舎であろうが任務先であろうが変わらないと諦めながら、ラジエルがベッドが抜け出す。そういえばいの一番に朝の支度を取り仕切るサンダルフォンがいない。
「なあ、サンダルフォンは?」
いつもの日課? と問えばようやくザドギエルを起こしたハニエルが首を横に振る。
「サンダルフォンさんは礼拝の準備があるので、先に支度をして部屋をでました」
「なるほどね」
だからサマエルが仕切っているのかと納得しながらザドギエルを見やる。銀髪のそこかしこを跳ねさせながら寝ぼけ眼を擦る仲間に苦笑して顔を洗うべく洗面所に向かった。
サンダルフォンの歌が礼拝堂に響く。
神学校、いや『教会』きっての歌声は天使のようだともっぱらの評判だった。
とうの本人はそういった評価はあまり気にしていないようで、聖歌隊としてであれ、人であれ、ラジエルから見てもサンダルフォンが心を込めて歌っているのは手に取るように分かる。そしてその姿から自分とは違う、何かを感じることもあった。
ラジエル達四人は壁際に立っていて、礼拝が滞りなく、厳かに執り行われるのを見守っていた。礼拝堂の長椅子に昨日一緒に遊んだ子どもや、話した大人達が座っている。ハニエルに強請っていた子ども、ザドギエルに手を握られて頬を赤らめていた娘、管理人の言葉すら何の反応も返さずに虚空を見つめていた青年も、ほぼ全ての人が静かにそこに座っていた。
――
あの子
……
いないな
――
夜に言葉を交わした、あの少女を探す。ベイビーブルーの眼差しを彷徨わせていたがサンダルフォンの聖歌が終わり、神父の祈りの言葉が始まれば、慌てて目を閉じた。
「御身の加護が、皆に等しく吹き渡りますように」
神父が十字をきり、まことにかくあれかしと唱えれば礼拝堂いる者達が同じく唱える。午前の柔らかな光が、信徒達を包んでいた。
礼拝が終わった後、パンを焼き振る舞う予定だった。本館に備え付けられたパン窯を借りハニエルとザドギエルが焼くことになっている。
サマエルが心底羨ましそうにパン焼きをしている二人を部屋の外から眺めていたが、その隣にはサンダルフォンが立っている。
暫くしてほら、オレたちも食堂で用意をするよと腕を引っ張られ渋々と立ち去るサマエルに苦笑いしながらラジエルも続こうとすれば。
「ラジエル様」
背後から呼び止められ、足を止める。そこには管理人が神妙な顔で立っていた。
「ん? 何?」
「昨夜の件について調べてみたのですが」
「本当? あ、でも俺、今は奉仕活動の準備中で
……
」
「いいよ、オレとサマエルとなら手間取らないさ」
迷うラジエルにサンダルフォンが背中を押す。そちらを見ればサマエルも頷いていた。
悪い、行ってくるとひらりと手を振りながらラジエルが管理人の後についていく。
それを見送ったサンダルフォンはサマエルを促して、食堂に向かった。
「
……
私達の持っている資料を調べてみたのですが」
管理人の書斎、ソファに腰掛けたラジエルに申し訳なさそうな視線を向けて管理人が口を開く。その答えは明らかであった。
「そっ、か
……
」
出された紅茶を一口飲み、ラジエルが目を伏せる。正直な話、期待というものは持っていなかった。なにしろ自分ですら記憶が曖昧なのだ。
古い記憶の中にぼんやりと存在しているらしい友人をこの広い国で探すことがどれほど無茶であるのかは自分だって分かる。
「孤児院や養護院は元々親を亡くした子どもや、戦争や病によって傷ついた人々が保護される場所。弱ってしまっている者も多い。悪魔にとっては格好の餌食でしょう。当時は使徒も今以上に少なく、無事でいたものも僅かだったそうです」
「
…………
」
「しかし、教皇様はそんな私達を見捨てなかった。悪魔憑きとなった者、それが正気を保っている者であれ、失った者であれ、こうして暮らす地を与えてくださった。時にはあなた達を遣わし気をかけてくださる。どれほど彼らにとって救いになるか」
管理人が十字をきる。部屋の中に沈黙が流れたが、俯いていたラジエルがぱっと顔を上げた。
「俺
……
祈ってるよ。友達だけじゃなくて、ここの皆が一日でもよくなるようにってさ! それで悪魔も一人残らずやっつけてやるから!」
「ラジエル様
……
」
紅茶を飲み干し、立ち上がる。そろそろ行かなければ、サンダルフォンとサマエルが大変だろう。
「紅茶おいしかった、ごちそうさまでした! 俺、そろそろ皆のとこに戻るから!」
それじゃ後で! と一礼してラジエルが部屋を出る。その様子をじっと、管理人
――
年老いた男は皺の刻まれたまなじりの奥でじっと見つめていた。
四人は既に、人々にパンを配り始めていた。
「ほら皆、順番に並んで! そう、いい子だね。みんなに一つずつあるから」
サンダルフォンとザドギエルが並ぶ人々が持つ皿に、一つずつパンを乗せている。ハニエルはその後ろでせっせと焼きたてのパンを運んでいるようだった。
そこから少し離れた場所で、サマエルが静かにその様子を眺めている。
「サマエル」
「
……
ああ、戻ったか。お前も行ってこい」
「いいよ。お前が寂しいだろ」
「
……
俺を口実に使うな」
サマエルの苦言に肩を揺らして笑う。そんなラジエルの様子をまじまじと眺めて、サマエルが切り出した。
「どうだった」
「んー
……
収穫ナシ」
ま、そんなもんだよなとぼやくラジエルの言葉に目を細めた。
「諦めるな
……
きっと見つかる」
「らしくねーじゃん、サマエル」
「本心だ」
「
……
あんがと」
焼きたてのパンを食し、喜ぶ人々の群れが見えた。あの女の子は相変わらず、いない。
後でパンを渡して貰うよう頼んでみようかと考えながら、ぼんやりとラジエルとサマエルは、おしゃべりをしながらその光景を眺めていた。
奉仕活動が終わり五人が出発する頃合いになっても少女は結局最後まで現れなかった。
昨夜の彼女は何故あの部屋を抜け出せたのだろうか。
最初に出会った様子では無理もない話ではあるのだが、彼女は一生この館の中で暮らしていくのかと思うと何故かそれがひどく寂しく思えてくる。
それが安易な同情だと咎める者もいるだろう。それでも
――
。
「ありがとうございました。聖都の教皇猊下や皆様にもよろしくお伝えください」
「はい、皆様もお元気で。〝御身の加護が、皆に等しく吹き渡りますように〟」
サンダルフォンが管理人と握手をする後ろで、ラジエルは目を伏せ、祈る。その手には彼女から手渡されたミオソティスが握られていた。
まだみずみずしさを保ったまま、その花は愛らしく咲いている。
――
あの子の中にいる悪魔が一日でも早く立ち去ってくれますように
――
養護院の門を出て大通りに差し掛かった時、思わず振り返る。
あの大きな屋敷の向こう、彼女がいる棟の方向に視線を向けた。
「え」
つきり、と頭の奥が痛む。
ひとつ、音がした。
堕ちる音だ。なにかがひとつ、ぼとりと。
そして、僕は見てしまった。
「ラジエル?」
最後尾を歩いていた筈のラジエルが静かである事に気付いて、サマエルが振り向く。養護院の方向を見つめたまま呆然と立ち尽くすラジエル見つけて、歩み寄った。
「おい、どうした。忘れ物か」
「
……
」
「ラジエル、おい」
「っ
……
!」
サマエルが肩に手を乗せて揺さぶれば、ラジエルのノドがひゅ、と鳴る。
「え、あ、なに」
「それはこっちの台詞だ。何か忘れたのか?」
「
……
忘れ、た?」
「
……
しょうがない奴だな」
ラジエルの曖昧な返答にサマエルがため息を吐く。他の三人もラジエルの異変に気がついたのか、歩むのを止めてこちらを向いた。
「何か忘れたらしい」
「そうなのかい? 戻ろうか」
サンダルフォンが心配そうに首を傾げて、提案する。
「あ、いや、いい! 大丈夫たいしたものじゃないから、さ」
はは、と笑うラジエルの表情がどこか青ざめているのを察して、サマエルが眉を寄せた。そうは見えないと問い詰めようとした瞬間、逃げるようにその隣をラジエルが駆けていく。
「あ、おい!」
「ほらほら、帰ろうぜ! また数日移動するんだろ、早いほうがいいじゃん!」
にかっと笑ってラジエルが手を振る。そのまま走り去っていったのをハニエルがぽかんと見て、おーい、とザドギエルが困った様子で呼びかけた。
「
……
ラジエル?」
サンダルフォンもラジエルの様子にただならぬものを感じたらしい。理由が見当たらず、サマエルが首を振り、足早に仲間を追いかけていった。
――
何も見ていない、俺は何も見ていない!
――
走りながら、ラジエルは心の内でそう繰り返し、自分に言い聞かせる。背中にじわりと嫌な汗が流れるのにも気付かぬふりをして大通りを抜けて、村の門、愛馬たちの待つ厩に辿り着く。
「っ、わ
……
!」
眼前の木々からギャア、と鴉が喚きながら飛び立って、驚いたラジエルが片腕で顔を
覆う。すぐにしん、と静かになり、ぬるい風が木々を揺らしている。
「
…………
っ、は
……
」
走ったからか、それとももっと根本的な恐怖か、己の鼓動がばくばくと暴れているのを肩で息をしながら落ち着かせる。額に伝った汗が、目に染みた。瞬きをして視線を落とす。右手に握っていた愛らしい花はその花びらを散らしていた。
「
…………
」
「おい、ラジエル!」
追いかけてきたらしいサマエルが叫んでくる。
「なんだよ、サマエル」
「お前
……
本当にどうしたんだ」
いつもならばラジエルの突拍子もない行動に呆れて詰ってくる筈のサマエルが、戸惑ったような声をさせている。どう躱そうか、と考えながら首を傾げる。
「んー? どゆこと? 俺はいつもどおりだけど」
「顔を真っ青にさせているのを見て普通だと思えるほど俺は鈍感じゃない」
むすっとした顔で問い詰めてくるサマエルに思わず笑い、その目を見返す。
「話なら
――
」
「サマエル」
ラジエルに言葉を遮られたサマエルは息を飲んで、口を閉ざした。
「俺は大丈夫だから、心配すんな」
ベイビーブルーの瞳が真っ直ぐに柘榴色の瞳を見据えているが、その言葉の下に何かを、抱えている。付き合いは短いが、サマエルには手を取るように分かる。
しかし、それを今、無理矢理に引っ張り出すことを躊躇ってしまう。
「
…………
分かった。お前を信じる」
「
……
大げさだなぁ、サマエルは」
あはは、と笑ってラジエルが見つけた愛馬に歩み寄る。その背中は今は何も聞くなと言外にサマエルに伝えていて、思わずサマエルは右手をぎゅ、と握りしめた。
――
俺にはお前が何を見たのかは分からない。だがきっとよくないものに違いない
――
分かっている。
この『教会』が真っ白でないことぐらいは、分かっている。身を以て、知っている幼い日、あの施設にいた三人は理解している筈だ。ただ、ここが最善の拠り所であり、この呪われた身体が唯一、居ることを許される場所であるという事を分かっているが故に、少し目を瞑るしかないだけなのだ。
「おい待て、だからといって先に行っていいとは言っていない!」
サマエルが一歩踏み出す。
なら早く来いよ、と手を振るラジエルにサマエルはいつものように腹を立てながら、仲間に向かっていった。
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