kurotera
2025-02-24 08:27:05
174619文字
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You are what your back bears

2022年6月に発行したイノセントブレス IB本の再録です。
発行から一年経ち、頒布も終了しているので掲載。
当時手に取っていただいたかた、ありがとうございます。

【概要】
ぼくのかんがえたさいきょうのイノセントブレス本(非公式)
無印三部前提
出てくるメンバー:教会勢、ラプラスの悪魔、ダーククロウ、LL、無銘
ですが無銘の四名とダーククロウさんは本当に一瞬です。あくまでIB中心。
戦闘と日常の比率は6:4ぐらい。当社比。
書き手の趣味が爆発してえらいことになりました。

要素/注意
九割捏造。特に過去。
公式ファンブック旧版と一部キャラクターメッセージカードを元に当時は執筆していますが、未所持のカードもあるので設定にずれが生じています。


幕間

さて君、そう、君だよ。
 少し時間をくれないか。勿論君たち人間の時間は限られている。それは俺も充分に、理解しているよ。ただ、君にとってはきっと興味があると思うし、俺も語りたいんだ。お茶を飲みながらでもいい、マカロンをおひとつ囓りながらでも、さ、リラックスして。

 知っているかい、胎児は踊るんだ。母親の胎の中で、ぐるぐる、廻りながら踊るんだ。この〝原稿用紙〟に書いてある。君たちの言葉で書いてある。何故かって?
 母親の心が理解って、おそろしい、だそうだよ。母親の胎の中で理解するのさ、彼女の愛とも呪いともとれる心を、神をも畏れぬ、深く生々しい執念を。
 どうしてこんな事を言うかって、これは前置きなんだ。巻頭歌みたいなものだよ。
 続けよう。お察しの通り俺は悪魔でね。とはいっても新参者で天上の神にも君たちの祖たるアダムやイヴにもお会いしたことがなくてね。
 そんな俺にも俺たちの大将はよくしてくれて、悪魔としての仕事をお与えくださったのさ。新米には丁度良いだろうってね。はは、何も神々の黄昏や黙示録を起こすだなんて大層なものじゃあないよ。安心して、君たちと俺たち、そして天上の主たるお方とのちょっとした戯れさ。なにせ大将は暇を持て余していてね、地獄の底で氷漬けになっているんだ、時が来るまでひどく退屈なのだろうね。

 本筋は、ある一人の女の話だ。
 その女は他の人間どもと少し違っていて、いわゆる魔女だった。
 本物だよ、そこいらにいる爪弾きものの老婆や、薬師なんかじゃない。嵐のひとつやふたつ、簡単に起こすことができるし、失せ物の在り処も分かる。人の心を操るのだってお手の物。烏や黒猫と語ることもできる本物さ。
 とはいっても彼女はあまりに善良だった。人々が関係の無い女を魔女だ、悪魔の使いだと火炙りにしているのを知って、ひどく嘆いては神に許しを請うた。しかし魔女だって人間だ、火炙りは嫌だろう? 西部地域の小さな村でひっそりと暮らして神に祈りながら人間として人生を全うしようとしたんだ。
 ひどくつまらない、信仰深き女としての生をね。
 そんな彼女も恋をした。村の羊飼いの青年。ハンサムで、勤勉、絵に描いたような男。彼も彼女に惹かれ、お伽噺のような一目惚れをした。やがて神に永遠の愛を誓うことになって、二人は一つ屋根の下で慎ましやかに暮らし始めた。国のそこかしこで魔女やその一派と見なされた人々が火炙りにされるなか、魔女と何も知らない羊飼いは仲睦まじく暮らしたのさ。
 ――彼が、強い光に半狂乱になった羊を追って山に消えるまではね。
 夜になっても伴侶は帰ってこない。
 次の日になっても、一週間経っても、ひとつき経っても、季節が変わっても。
 羊を追って、どこまで行ってしまったのだろう。女は悲しみ、しかし待った。胎に宿った、彼との愛の証しだけが女の拠り所だったんだよ。日ごと徐々に膨れゆく胎を大事に大事に撫でながら、女は男の帰りをいつまでも待った。
 あのひとはきっと帰ってくる。神に祈れば、いつかきっと。
 十月十日が経ち、しかし女の胎は膨らんだままで、羊飼いも帰ってこない。やがて女が身ごもり一年が過ぎた頃にようやく、女は産気づいた。
 村の医師がやってきて、苦しむ女の股から取り上げた。それは小さな小さな肉の塊だった。産声もあげず、医師の手の中で動かないそれの憐れなことと言ったら!
 それを見た女は、ついに絶望した。胎の中でだいじにしていた我が子は産声さえ上げられず、死んでいる。

 呪いあれ! 神よ、呪いあれ!

 女は叫んだ、ひどく錯乱していた。
 愛おしい我が子が生を受けるならばと、魔女はついに悪魔と契約したんだ。
 何を生贄に捧げたかって? 自分の身と、医師、そして村の人達。そう、全てだよ。悪魔は医師の身体を食い破って出てきて、そのまま生贄の魂を食らいつくした。
 ああ、美味かった。美味かったとも。
 こうして、悪魔は魔女の子どもを人の形にして、なんとか動くようにはしたよ。白い布で優しく包んであげて、籠に寝かせた。
 それから名前をつけたんだ。これが一仕事だった。
 こんなにも祝福された子どもには特別な名前をつけなければいけないと悪魔は考えたんだ。きっと彼は世界をよりよくするだろう。
 まだその時には早いけれど。悪魔はそういった確信を持って、彼に名を与えた。

 神に似たる者は誰か、という意味の名だ。

 その後は近くの街の孤児院の前に運んださ。神様おねがいします、彼が飢え死ぬ前にこの愛らしい産声を聞きつけたシスターがやってきますよう、この悪魔、ラプラスの悪魔がお願い申し上げますって。どうやら、神様は俺の願いを聞き届けたらしいね。
 俺は街の医師として彼を見守っていたけれど、数年経った頃には神童と呼ばれていて、聡い子に育っていたよ。
 シスターも神父も、同じ孤児達も彼に夢中さ。街の人々だって噂していた。どうやら司教さままで彼に会いにくるらしい。いてもたってもおられずに、俺は夜孤児院に忍び込んだ。少年の前に降り立てば、ひどく驚いていたけれども、何度か診察で顔を合わせていたから話は早かった。

 
 全てを打ち明けた。彼の出生、母のこと、この世界のこと。
 ようやく打ち明けられた。
 隠し事は苦しいのさ、心が痛んでしまう。
 こうして語るのも、気持ちが晴れやかになる。
 さあ、君なら理解できるはずだ。
 この後何が起こったのか、今、その少年はどの座にいるのか。
 俺のお話はこれで一区切り。
 君とのおしゃべり楽しかったよ。
 それじゃ、またね。