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kurotera
2025-02-24 08:27:05
174619文字
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You are what your back bears
2022年6月に発行したイノセントブレス IB本の再録です。
発行から一年経ち、頒布も終了しているので掲載。
当時手に取っていただいたかた、ありがとうございます。
【概要】
ぼくのかんがえたさいきょうのイノセントブレス本(非公式)
無印三部前提
出てくるメンバー:教会勢、ラプラスの悪魔、ダーククロウ、LL、無銘
ですが無銘の四名とダーククロウさんは本当に一瞬です。あくまでIB中心。
戦闘と日常の比率は6:4ぐらい。当社比。
書き手の趣味が爆発してえらいことになりました。
要素/注意
九割捏造。特に過去。
公式ファンブック旧版と一部キャラクターメッセージカードを元に当時は執筆していますが、未所持のカードもあるので設定にずれが生じています。
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それから何度か、ベリアルは任務から聖都に戻る度に孤児院に顔を出していた。
「あ、ベリアル」
からりと晴れた夏の盛り、訪れた孤児院の教室で少年は本を読んでいた。助け出した頃より具合がよくなったのか、それとも成長期故か、心なしか前に顔を見せた時よりも背が伸びている、ような気がした。
「
……
意外だな」
「そう? 俺、本読むの好きなんだ」
ベリアルの言葉に少年が笑い、ぱたりと本を閉じる。ひどく暑い日だというのに長袖であることに気づき、眉を寄せる。
「暑いだろ、それ」
「
…………
ここは涼しいよ」
窓の外、太陽の光が燦々と降り注ぐ庭をちらりと見やりながら少年が答える。北部生まれだとこの暑さはつらくてさ、最近はここで本を読んでいるんだと目を細めた。しかしふと思い出したのか、少年はベリアルに向き直る。
「あ、そうだ
……
ベリアル。付き合ってよ」
「
……
ったく、使徒を遊びに付き合わせるたぁ
……
いい度胸してんな」
「そっちは遊びかもしれないけど」
庭に出れば、少年から木剣を手渡される。自分達が使っている剣に比べれば随分と軽い。これで悪魔を殺せと命じられても、勢いよく殴りつけて折りかねない。
少年は準備運動とばかりに屈伸して、それから剣を構える。
呆れたため息を吐きつつ、ベリアルもゆるく木剣を構えどこからでも来い、と視線を投げた。しかし互いに間合いをとって、攻める機会を窺っている。
「っ
……
!」
先に動いたのは少年だ。一歩踏み込んで木剣を振り下ろす。何の細工も技量もない力任せの一撃。カッ、と軽い音と共に難なく受け止め、そのまま弾き返す。
「ぅわっ
……
」
少年がよろめき、体勢を保とうと一歩あとずさる。そこを見逃さず、ベリアルは左手に持った木剣の切っ先を少年の首元に突きつけた
「
…………
っ、
……
」
「死んだな」
意地の悪い笑みを浮かべながら言い放ってやれば、あーあ、とため息を吐いて少年が木剣を落とす。からん、と乾いた音と共にそれが転がるのを拾い上げた。
「やっぱり駄目かぁ」
「はっ、ナメんじゃねえよ
……
っ、うお!?」
頭のそばに蹴りが放たれる気配に、慌てて避ける。こんのクソガキ、と蹴り上げたままの少年の足首を掴んで引き倒してやれば、今度こそ少年はバランスを崩して倒れた。
「
……
惜しかったな」
「殺すぞ」
苦々しい顔で自分を見下ろしてくるベリアルににやりと笑うが、少年は起き上がらずに空へと視線を向ける。抜けるような青空は雲一つない。
「何してるんだお前ら
……
」
近づいてきたのはベリアルの仲間の、呆れた声だった。少年がちらりとそちらを見れば、クザファンがやれやれと眉を寄せている。
その声にベリアルがため息を吐いて今度こそ木剣を拾い上げた。
「ったく、たまに顔出してやりゃあこれだ」
「これで九戦九勝、大人げないんじゃない、ベリアル?」
「本当だよ、カスピエル」
「はったおすぞテメエ」
「もうはっ倒されてるんだけどな」
少年の減らず口にあはは、とカスピエルが笑う。ここに来た時よりも随分と減らず口が増えた子どもに、満足げにクザファンが頷いた。
珍しく三人が揃った様子に、少年が起き上がり首を傾げる。
「
……
帰ってきた所?」
「まぁね、でもすぐ任務に出なきゃ駄目みたい。ちょっとは休ませて欲しいよねえ」
「
……
人使いの荒ぇ教皇だ」
「ベリアル、言葉を慎め」
ふうん、と少年が頷き、目を伏せる。
「
……
俺も早く使徒になりたいよ」
「へえ、働きたいの? 変わってるねえ」
カスピエルがからかえば、だって、と少年が顔をあげる。
「だって
……
俺はその為に生かされてる。罪を償うには使徒になるしかないだろ?」
「
……
それは
……
」
クザファンが言い淀む。悪魔と契約し、村をひとつ滅ぼしたと言っても過言ではない彼が生かされている理由は確かにそうであるのだが、そうだ、と言い切りたくないのが本音だった。
「そうだ、分かってんじゃねえか」
「ベリアル
……
」
ベリアルが鼻で笑うのをクザファンが小さく咎めるが、ベリアルは目を細めるだけだ。
「そこまで分かってんなら、もっと強くなるんだな。今のテメェじゃ、チンケな下級悪魔すら殺せねえよ。悪魔を殺したかったら剣の一本使いこなせるぐらいにはなれ」
「
…………
」
少年の青い目がベリアルをじっと見つめる。ベリアルがその腕をとり、引き上げた。
「早くこっちに来い。人手が足りねえんだ」
「
……
うん、分かった。付き合ってくれてありがとう、ベリアル。それと
……
みんな、気をつけて」
ベリアルから木剣を受け取り、じゃあね、と少年が去って行く。その背中を見送りながら、カスピエルがにやにやと笑みを浮かべてベリアルに視線を向けた。
「早くこっちに来い、かぁ
……
いいねえ、ベリアル様?」
「クザファン、こいつを燃やせ」
「なんで俺が!」
賑やかに言い合いながら孤児院を後にする。
既に任務の内容は受け取っている。ここに帰ってくるのはまた暫く先だろう。
――
兄さんへ。この手紙が、あなたの手の内にありますように。
闇夜の中で燃えさかる建物を、何度見てきただろう。花は散って瑞々しい匂いが一瞬だけ鼻腔を掠めたが、すぐに嫌な、焦げ臭さにかき消された。
腕の中の少女を見下ろす。何故、こうなってしまったのか。
「オレは
……
『教会』を抜ける」
あの日から何日か過ぎた月の無い夜に、ベリアルは決意した。故郷で手に入れた手紙と失意を懐に秘め、恩ある『教会』からの決別を口にしたのだ。
「
……
本気か」
「
…………
抜けてどうすんの。真実を知った俺達を殺すなら奴ら何でもするよ?」
「ああ、覚悟している。そしてこれはオレだけの意思だ。お前らは
――
」
「はい、じゃあ決まり。クザファンも来るでしょ?」
「
……
俺は『教会』を信仰しているわけではない。この身は神に捧げているからな」
「
…………
後悔はしないな?」
若い使徒三人を見据え、神父が切り出す。三人とも頷けば、しょうがねえなあ、と短くない年月を彼らの支えとなっていた神父は、笑った。
決行は真夜中、詰め所に保管していた自分達の存在を示す書類は暖炉の火種と化した。アラヤシキ神父も一緒にとクザファンが誘ったが、彼は首を横に振った。
「まあ、俺は大丈夫さ。何よりこっちとの縁もそれなりにあったほうがいいだろ?」
全部切るのは悪手ってもんだ。そう笑う彼の言葉に甘えることにした。
とにかく、今はいかに行方を眩ませるかが重要だ。
「馬を聖都の外に連れて行っておけ。オレは
……
寄る所がある」
「ベリアル?」
寄宿舎の灯りを消し、二人に命じる。いいから、とトパーズの瞳が言葉なく命じた。
「〝神よ、慈しみ深く私を顧み、豊かなあわれみによって我が咎をお許しください。悪に染まった私を洗い、罪深き私を清めたまえ〟」
窓の傍で少年が懺悔する。
月明かりのない部屋で、蝋燭の灯りがムーングレイの長い髪を照らしていた。痛む手を前で組み、凍える身体で消えることのない罪を悔い改めていた。
「
……
?」
不意に何かの気配を感じて、そっと窓を開ける。
そこには人影が佇んでいて、よくよく目をこらしてみると、見知ったヴァーミリオンの髪が目に入った。
「
……
っ、ベリア」
し、と指で唇を制される。蝋燭の灯りに灯されたその表情はどこか緊迫していて、いつもの雰囲気とは違っていた。声を止められたのは夜だからだろうか、と声を落とす。
「
……
どうしたんだ?」
「柄じゃねえが、さようならだ。××」
え、と名を呼ばれた少年が瞬きをする。どうして、と小声で問えばゆっくりと首を振られた。事態が飲み込めずに少年は眉を下げ、問いかける。
「何があったんだい」
「
…………
いいか、よく聞け」
ちら、とベリアルがあたりを窺う。遠くで甲高い笛の音が聞こえて、少年がびくりと肩を揺らした。
「目をそらすな、何があっても
……
いいな、お前が見たものはお前自身が考え、決めろ。もう他の奴らに委ねるんじゃねえぞ。それから
――
……
」
「ベリアル
……
?」
「
……
オレはもう、お前にとっては無価値だ」
ベリアルがそう告げ背を向けたかと思えば、その姿は闇夜に消えた。少年は恩人の言葉が何を意味するのか分からないまま、誰もいなくなった庭に彼の影を見いだそうと目を細める。しかし夜警の笛がまた鳴り響くのを聞いて、急いで窓を閉め蝋燭の灯りを消した。外が騒がしい。胸騒ぎがする。
「
……
〝御身の加護が、皆に等しく吹き渡りますように〟」
小さく十字をきり、寝床に潜る。
胸騒ぎを抱きながら目を瞑れば、あの三人の姿が瞼の裏に浮かんだ。
翌朝、孤児院に来た審問官から、自分を救ったあの三人が『教会』を裏切ったということを聞いた。審問官が少年に、彼らの行方を知らないかと強く問う。
「わかりません、何も
……
彼らのことなんて」
しかし少年は大人のどんな問いにも首を振った。本当に何も知らないのだ。あの夜、彼が自分に残した言葉の意味もまだ理解出来ずにいる。
数日後、孤児院の修道女達が噂をしていた。使徒付きだったある神父が一人、任を解かれて荒れた土地の村に遣わされるらしい。実質の、追放だという。
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