camellia57
2026-02-01 18:27:30
67473文字
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火アリSSメーカーまとめ

2024~2025年に書いたSSのまとめ。全年齢のみ。ごちゃまぜ
話は独立していてつながっていません。基本的にはページが後ろの方が古いです


 起きたら知らない人が隣で寝ていた……だなんてことは真面目な私のこれまでの人生で一度もなかった。記憶がなくなるほど泥酔したこともない。当然裸の知人がいて腰と尻に痛みがあった、だなんてことがあるわけがない。
 火村の下宿で雑魚寝をしたときに顔がぶつかりそうなくらいの距離にあったときはさすがに驚いたけれど。
 しかしこれは一体なにが起こったのだろうか?
 
 目覚めたら知らない子どもが隣で寝ているだなんて。

 ……………………?? …………!?
 身体を起こして周りを確認する。私のマンションの寝室で間違いはない。……ない、はずだ。
 たちの悪いドッキリか?? しかし誰が? 昨日から泊まっている火村がこんなことを仕掛けるとは思えない。う〜ん、実はこう見えてよくできた人形、とか……? しかしすぅすぅと規則正しい呼吸が聞こえてくる。
 そっと頬に触れると子どもらしい体温が指先から伝わってきた。ふふ、ほっぺたがふにふにや。
 前髪は眉の上あたりで後ろは首に掛からないくらいの長さの黒髪、まだ小学校には上がらないくらいの年齢だろうか。濃いネイビーのパジャマはこの年頃にしては随分と落ち着いているように見える。私はなりきりだったり、柄がプリントされているものを着ていたような気がする。
 これからどうしようかと考えていると、寝ていた少年がぱちりと目を開けて不思議そうな顔で私の顔をじっと見てくるではないか。…………。あれ、これ、もしかしたら私のことを不審者と思っているのでは? もしこの状況で警察を呼ばれたらどうなる? 未成年略取? どう説明すれば? と寝起きの頭をフル回転させていると半身を起こした彼が「ありす……?」と私の名を呼んだ。
「え?」
「ありす」
 違うの? と言いたげな顔でこてんと首を傾げる。
「あ、えっと、俺は有栖であってるけれど、君は俺のこと知ってるの?」
「うん」
 にこっと笑って頷いた。
「そ、そうなんや。ちなみに、どこで会ったことあるか、わかる?」
 う〜ん? と考え込む顔になって黙ってしまう。
 その顔にはどこか見覚えがあるような気がした。
……わからない」
「そか、あ、そや、君の名前は? お名前、言える? 何歳?」
 まず確認すべきはそこではないか。すぽんと抜け落ちていた。
 しかし彼の名前を聞いて私はますます混乱してしまうことになる。 
「ひでお。よんさい」
 …………
 いや、まさかな? まさかな?? そんなことあるわけないよな??
 嫌な感じの動悸がする胸を無意識で押さえて、もう一度彼に名前を聞く。
 頭に思い浮かべた名でないことを願って。
「ひでおくんって言うんやね。……ひでおくん、あの、苗字、言える?」
「うん。ひむら ひでお」
 同じ名前の親友からは見たことがない笑顔でひでおくんが自己紹介をする。
 これは一体、どういうことやねん!?
 火村は昨日確かに泊まった。いつも通りにソファを寝床にしているはずで。
 その火村が小さくなってしまったと? 三十歳の若返りをしたと?? フィクションでもあるまいし。
「ありす、こまってる?」
 私の顔を見上げて不安そうにひでおくんが尋ねてくる。
 いかん。子どもに気を遣わせては。
「そんなことないよ? そや、お腹減ってるんとちゃう? 朝ごはんにしよか?」
 そっと頭を撫でると嬉しそうな顔をして「たべる!」と元気のいい返事をするひでおくん。この子ほんまに火村なんか?
 もう驚くことはないだろうと思っていたのに寝室のドアを開けて飛び込んできたリビングの光景に崩れ落ちそうになってしまった。
 そこに居たのは大人の火村と子どもの姿の私だったのだから。

「あぁ、アリス、起きたのか」
「うん、ありす、おきてるよ」
 私が答えるより早く、小さい私が返事をする。恐竜柄がプリントされたカラフルなパジャマ姿。そんな柄のパジャマを確かに昔持っていた気がする。
「ああ、ありすくんじゃなくて、そっちのお兄さんの方だよ。二人に挨拶できる?」
 火村の膝の上に座った小さいアリスが「おはようございます」と私たちに挨拶をしてくるから同じ言葉を返した。
 ひでおくんの手を引いて火村の隣に座る。なにがなんだかわからなくなりそうだ。
「これはどういうことやねん」
「俺にもわからねぇよ。起きたらこの子が腹の上で寝てた」
……なるほどな」
 なにもなるほどではないのだがそう言うしかない。
 こちらはベッドの隣で寝ていたと報告する。ひでおくんも膝に乗りたがるので同じように抱えて座っている状態だ。正直なことを言えば子ども同士で遊んでいてもらえると助かるのだけれど。
「四歳やって、君。こんな感じやったん?」
「そんな昔のこと覚えてるわけないだろう。アリスはどうなんだよ」
「四歳の頃の俺がこうやったんかはわからんけど、あ、俺やな。とは思った。君もそうやろ? あとパジャマには見覚えあったわ」
 返事がないので隣を見れば、火村が人差し指で唇を撫でながら私の顔をじっと見ていた。
……アリス、お前、若返ってないか?」
「なんやねん、それ。お前俺を口説こうとしてるんか?」
「いや、何て言うのがいいんだろうな……数年前のアリスに見える」
「そうか?? 俺には昨日の続きの俺に見えるけれど」
「昨日とは違うよ。髪も目も肌も、蓄積された疲労具合も」
 さすがの洞察力と言うしかない。
「つまり……? 何が言いたいんや?」
「四歳って言ってたよな? おかしな話をしていると思ってくれて構わないけれど、お前も俺も三十歳と四歳に分かれてしまったんじゃないか?」
「は……? そんなこと……
 あるわけないやろうとは言えなかった。現に目の前に子どもの私たちがいるのだから。
「きっかけもいつまでこのままなのかもわからないが、まあ、とりあえず朝食にするか」
 理由はわからずともこの現象自体には納得のいったらしい火村が小さいありすを膝の上からソファに座らせて、立ち上がった。
「あ、俺も」
「お前は二人を見ていてくれ。テーブルの角とか危ないからな」
 火村についていこうとする小さいありすを引き留めると少し不満げな顔をしたけれど大人しく従ってくれた。随分火村に懐いているようだ。逆にひでおくんは私の膝から動かないし。いつの間にか向かい合う形で抱っこしてるし。小さい頃は甘えたがりだったのか?

「あとで絵本読んであげるからな」
 退屈そうな顔をしている小さいありすにそう言うと「うん!」と笑ってくれた。子どもの頃の私が喜びそうなことを言ってみたけれど、素直に釣られてくれてよかった。なんともむず痒いが。
 ホッとしていると「ありす、おれも!」とひでおくんもねだってくる。この素直さをあいつはいつ失くしてしまったのだろうか。
「うん、ひでおくんも一緒にな」と笑えば、顔をぐいっと近づけてきたひでおくんから頬にちゅっとキスをされてしまった。随分とおませさんやなぁと思っていると朝食の支度を終えた火村が大股でずんずんと近づいてきて、ひでおくんを引き剥がした。
「そ、そんな乱暴にせんでも」
「三十年早い」
「ええ……。大人げない……。ひでおくん、びっくりしてもうてるやん。大丈夫か? このお兄ちゃん、怖い人やないんよ?」
 そう言ってよしよしとしていると何が気に入らないのか火村が片眉をぴくりと動かす。
 火村に持ち上げられたひでおくんは暴れて噛みつきそうな勢いだし、小さいありすは「ありすもちゅーする!」と火村に駆け寄ろうとして大騒ぎである。

 あぁ、これが夢ならもう覚めてくれないだろうか。