camellia57
2026-02-01 18:27:30
67473文字
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火アリSSメーカーまとめ

2024~2025年に書いたSSのまとめ。全年齢のみ。ごちゃまぜ
話は独立していてつながっていません。基本的にはページが後ろの方が古いです


「有栖さん!」
 そう呼ぶ声が聞こえて、横を歩いていた有栖川が振り向くと少し明るめの髪色をした男が人懐っこそうな笑みを浮かべて駆けてくる。
「つばさ? 休みの日にこんなところで会うなんて奇遇やな」
「有栖さんも俺も大阪市に住んでるんやから、そんなに珍しくもないでしょう? どこに行くところやったんです?」
「梅田の本屋を何軒か」
「ええ〜? ほんまに本が好きなんですね、今度俺にもお勧め教えてくださいよ。前にもお願いしましたけど」
「相手の好みもわからんのにお勧めもなんもないやろ。無茶言うな」
「なんでもいいんですって。あ、最近は恋愛ものに興味あります!」
 有栖川が隣に立つ俺を気にして話を切り上げようとしても会社の後輩らしき男は構わず続ける。『有栖さん』『つばさ』と呼び合っていたけれど、そう言えば有栖川が誰かを下の名前で呼ぶのを聞いたのは初めてかもしれない。それほど親しい相手なら……先に本屋に行っていた方がいいのだろうか。
「アリス」
 そう呼ぶと、初めて向かいの男の視線を感じた。どうやら姿が見えていなかったわけではないようだ。
「長くなるようなら先に行ってるけど」
「あ、いや、大丈夫や、暑いのに待たせてすまん、じゃあな、つばさ。また休み明けに会社でよろしく」
……はーい。お勧めの件、忘れんとってくださいね」
 渋々と言った様子ではあったけれど引き下がってくれた。
「ほな、いこか。紀伊國屋は最後にするとして……まずは茶屋町のジュンク堂でええ? 火村? どうしたん? 疲れたか? どこか喫茶店入って休むか?」
 心配そうな顔をして覗き込んでくる。
「いや、大丈夫だ。……随分仲が良さそうだったけれど、よかったのか?」
「仲? つばさのことか? そんなでもないで? 誰に対してもあんな感じやし、人見知りって単語が辞書にないんとちゃうかな」
 有栖川がまた『つばさ』と呼ぶ。それだけのことがどうしてこんなに気に入らないんだろう。職場の人と良好な関係が築けているのはいいことじゃないか。
「珍しいな」
「なにが?」
「『有栖さん』って。名前で呼ばせるなんて珍しいだろ。それにアリスが名前で呼ぶのも聞いたことなかった」
 そんなこと有栖川に言ってどうなるものでもないのに。拗ねたような言い方になってしまって、すぐに言わなきゃよかったと後悔したけれど当の本人はきょとんとした顔をした後、笑い出した。
「あの『有栖』は名前やないよ? 君の『アリス』と同じ。俺の名字を縮めたやつやで? つばさは名字が『田中』やねん。事務所に田中が三人もおってな。区別するためにみんな名前で呼んでるだけのことやで。電話が掛かってきたときとか大変でな」
 反論したい点はいくつかあるけれど有栖川にそれを言ったところで本当のところはわからないし、逆に追及されても困るので一旦は言い分を飲み込んだ。
……わかった」
「君も名前で呼ばれたかったん? でももう火村って馴染んでしまったからなあ……
「そうは言ってない」
……俺が休みの日も、そうでなくても会う約束するのは君だけやで?」
 後輩に向けていた作ったような顔じゃなくて、悪戯を仕掛けてるみたいな顔をして有栖川が微笑む。
「まあ、今のところは、の話やけどな」
 そう言って俺を置いて青になった横断歩道を渡って先へと行ってしまう。
 早く追いかけなければ、すぐに赤に変わる。
 有栖川の姿を見失わないように一歩先へと踏み出した。